新進気鋭の蒸溜所たちが、自由な独創性でケンタッキーやテネシーの巨人たちに挑む。多様な気候風土も、テキサスウイスキーの魅力のひとつだ。

文:ケビン・グレイ

 

2012年までに、テキサスウイスキー界ではさらに多くの新顔が誕生した。フォートワースのファイアストン&ロバートソン蒸溜所が最初に発売した「TXブレンデッドウイスキー」は、原料のグレーンを地元の提携農家から調達し、テキサス産のペカンナッツに由来する独自の酵母株で発酵させている。

最初は消費者たちも戸惑ってしまうほど斬新なアプローチだったが、今では独自のセールスポイントになった。そう語るのは、ファイアストン&ロバートソンのケン・グラハム(オペレーション担当バイスプレジデント)だ。

フォートワースのファイアストン&ロバートソン蒸溜所が発売するライウイスキーとバーボンウイスキー。メイン写真は緑豊かな蒸溜所の外観。

「テキサスウイスキーは、目新しい希少なカテゴリーとして出発しました。でも今では知名度も上がって、産地ブランドとしても正当な評価が得られるようになっています」

全米では、過去15年間でブラウンスピリッツを好む新世代のファン層が育ってきた。そのような外的要因もあるが、テキサスウイスキーのカテゴリーが成長し、消費者の認知度を高めた功績の一部はケン・グラハム自身にもある。「TXブレンデッドウイスキー」がさまざまなアワードで受賞した勢いで、テキサスの蒸溜所が全般的に愛飲家たちの信頼を獲得したのだ。

テキサスウイスキーの台頭には、小売業者も重要な役割を果たしている。以前のテキサスウイスキーは、州内にある酒屋の店内でもケンタッキーバーボンや他地域のアメリカンウイスキーに埋もれるような存在だった。だが今では、テキサスウイスキー独自の棚が設けられている。

2012年の発売以来、「TXウイスキー」はテキサス州のベストセラーの一角を占めるようになった。この人気に注目したペルノ・リカールが、2019年にファイアストン&ロバートソンを買収。グラハムによれば、新しい親会社の方針はいたって寛大なものだった。蒸溜所の運営、マーケティング、流通経路を改善しながら、製品やアイデンティティを変えろという要求はなかったという。
 

スピード重視の小樽から長期熟成路線へ

 
今から10年ほど前、テキサスのウイスキー熟成は小樽が主流だった。どこの蒸溜所も高価なフルサイズの樽を購入するほどウイスキーをつくっておらず、なるべく早く熟成を終えて投資を回収する必要があったのだ。そのためウイスキーはしばしば10ガロンや15ガロンの樽に入れられ、1~2年の熟成を経てボトリングされていた。

だがこの方針には落とし穴もあったのだ。ウイスキーライターのニコ・マティーニは言う。

「テキサスでウイスキーを熟成させることには、たき火で調理するのにも似た不確定要素がたくさんあります。最初はどこでも小さな樽を使って熟成を早めようとしていましたが、やがて早すぎる熟成と戦う必要もあることに気づきました。テキサスの地で、素晴らしいウイスキーをつくることはできます。でも樽に詰めたまま放置するのはダメ。熟成の度合いを常にチェックする必要があるのです」

ヒューストンのイエローローズ・ディスティリングで蒸溜所長を務めるマイケル・ランガン。テキサスの風土にあった熟成工程を見極めた。

そのような事情もあって、樽のサイズは徐々に変化していった。2012年に最初のバーボンをリリースしたヒューストンのイエローローズ・ディスティリングも、最初は10ガロンや15ガロンの樽を使用していたが、やがて30ガロンや53ガロンの樽へと移行。イエローローズのマイケル・ランガン蒸溜所長が、その理由について説明する。

「テキサスウイスキーの香味は力強く、そのフレーバーの多くが熟成樽から抽出されたものです。テキサスは暑いのでウイスキーが早く熟成すると考えられていますが、実際にはそんな単純な話でもありません。重要なのは抽出の強さです。樽が小さいほど熟成がピークに達するまでの時間は短くて済みますが、その香味を樽の中で落ち着かせるにはもっと時間が必要なんです」

テキサス州の丘陵部(ヒルカントリー)やヒューストンは、まるでカリブ海のような高温多湿の環境にある。だがテキサス北部は比較的涼しく、ウイスキーの熟成ペースも異なってくる。ランガンによると、イエローローズのバーボンは53ガロンの樽で4年半から6年熟成させた状態が理想的。いわゆる天使の分け前は年間8%と極めて高い。

カリフォルニアに住んでいたランガンが、テキサスを訪れたのは4年半ほど前のこと。まずはウイスキーシーンの先進性に驚かされたという。地産地消の理念や評判の高さに、カリフォルニアとの共通点も見出した。その評判の一因は「穀物からグラスまで(グレーン・トゥ・グラス)」の理念や、テキサスでのユニークな熟成効果について研究を進めるメーカー側の意欲にあると考察する。

「ウイスキーに関する消費者の知識は、10年前と比べて驚くほど違います。今では原料がどこで栽培されたのかを知った上で、本当に上質なウイスキーを欲しがる人が増えました。テキサス州内にもまだ開拓すべき市場はありますが、そのような新しいタイプの消費者はますますテキサス州外からやってきます」

2017年には、ワインとスピリッツを取り扱うスペインのサモラ社がイエローローズの株式を購入。国際市場への扉が開かれ、現在は同蒸溜所の製品の40%が海外に輸出されている。海外市場の内訳では韓国が最大の輸出先で、ヨーロッパではスペインとドイツがリードしている。
(つづく)