直火と蒸気 【後半/全2回】

June 26, 2013

ウイスキー製造の重要な工程「蒸溜」。直火加熱と間接加熱(蒸気式)、2つの方法をイアン・ウィスニュースキーが検証する。

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温度調節の難しさもさることながら、直火を使用した場合には、酵母菌体のようなウォッシュ内の固形分が(もちろん初溜中に)ウォッシュスチルに焼き付くリスクも高くなる。このような固形分はカラメル化する(焦げる)可能性があるため、ニューメイクスピリットの性質にも影響を及ぼしかねない。
これは「ラメジャー」という、概ね幅30cmほどの銅製の鎖の網のようなものを設置して防ぐことができる。ラメジャーをスチル内のモーター付きアームに取り付け、底部全体をかき回して固形分の付着を防ぐ。

従って、それぞれの加熱方法には、異なる技術と経験を必要とする様々なポイントがある。さらに、直火加熱と間接加熱では生成されるスピリッツの個性が違うという定説があるが、これは必ずしもそうではない。例えばグレンフィディック蒸溜所では、間接加熱を使用しているスチルハウスもあれば、直火(ガス)を使用しているところもある。

「蒸溜速度による違いを調べるために様々なテストを行いました。というのも、加熱方法より蒸溜速度の方がニューメイクスピリッツの性質に影響を及ぼすからです」
とダフタウンにあるウィリアム・グラント&サンズのグレンフィディック蒸溜所リーダースチュアート・ワッツは言う。
「スチルに与える熱が穏やかなほど蒸溜速度は遅くなり、スピリッツは軽くなります。同様に、熱が強いほど蒸溜速度は速くなり、コクのあるスピリッツになります。ですから蒸溜速度を調節することで、求める個性のニューメイクスピリッツをつくり出すことができ、グレンフィディック蒸溜所ではどちらのスチルハウスでも同じスピリッツを生産しています」

他にも考慮するべき現実的な問題がある。それはスチルの「仕様」だ。直火加熱のスチルのメンテナンスは間接加熱のものとは大きく異なる。

銅は直火焚きが非常に難しいのです。蒸気加熱のポットスチルはおよそ6 mmの厚さで十分なのですが、それと比べて直火式では16〜20 mmの厚さが必要になってきますからね」
フォーサイス社リチャード・フォーサイス社長は言う。
「そうなれば当然多くの銅を使うので、直火用スチルのコストは大幅に高くなりますし、ラメジャーのコストも加わります。また、加熱方法はポットの寿命にも大きく関わっています。蒸溜の頻度にもよりますが、間接加熱式であれば15年の寿命でも、直火を使用した場合はおよそ10年でしょう」

伝統の直火加熱、効率の間接過熱―どちらを選択するかは蒸溜所の判断である。本当にスピリッツの個性に差が出ないのであれば、間接加熱方式を選ぶ人間が多いのは明らかだ。もちろん加熱方式によってスピリッツが大きく異なると確信している蒸溜所もある。しかし頑なに直火蒸溜を貫く男たちに共通するのはやはり「情熱の炎」なのだろうか? いやはや、この議論はいつも「過熱」してしまう。

 

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