アメリカンウイスキーの現在【第2回/全3回】

February 15, 2016

蒸溜所の新設や拡張が相次いでいるアメリカンウイスキー業界の近況レポート。第2回はウイスキー観光の隆盛と、新しい熟成へのチャレンジにスポットを当てる。

 
文:ライザ・ワイスタック

 

ウイスキー観光の隆盛

ジェイムズ・ジョイスのマニアがダブリン旅行で『ユリシーズ』の主人公レオポルド・ブルームの足跡を辿るように、ケンタッキー州には50ヵ国以上からウイスキーファンがその伝統を学ぼうと巡礼にやってくる。そしてもちろん、学ぶだけではなくたっぷりと飲む。ケンタッキー・ディスティラーズ・アソシエーションが監修する「ケンタッキー・バーボン・トレイル」を参照すれば、主要な蒸溜所への行き方がわかる。このトレイルに参加する蒸溜所も増え、来訪者の数もうなぎのぼりだ。 ビームサントリーのバーボン部門でヴァイスプレジデントを務めるロブ・ウォーカー氏はこう分析する。

「ひとつのカテゴリーとして成長の度合いを考えるとき、観光業の成長率と販売ケース数はぴたりと一致しています」

同社が歓楽街であるルイビル4番街に「ビーム・アーバン・スチルハウス」をオープンさせたのもそのためだ。ウイスキー巡礼者たちは、ここで自分用のボトルにウイスキーを詰めて持ち帰ることができる。

「マスターディスティラーがブランドに個性を与え、ビジターセンターが土地の感覚を与えます」

そう語るのは、ヘヴンヒルの貿易関連部長を務めるラリー・カース氏だ。2013年末、ヘブンヒルズは「ウイスキー通り」とも呼ばれるウイスキールイビルの目抜き通りに、洗練されたインタラクティブな施設「エヴァン・ウィリアムス・エクスペリエンス」をオープンさせた。同じ通り沿いの歴史的な建物には、ミクターズも展示用の蒸溜所を建設中である。

旅行者の来訪者数が5年間で134%も増加したバッファロートレースもまた、ビジターセンターを拡張している。そしてワイルドターキーは、ケンタッキー川を見下ろす断崖に「バーボンの大聖堂」とも呼ばれるモダンで環境に溶け込んだビジターセンターを2014年秋に建設した。そのわずか半年後には、大勢の来客に対応するため第2駐車場も増設している。

 

多様化するアメリカンウイスキー

アメリカンウイスキーのブランドイメージも変容している。そう語るのは、ワイルドターキーの親会社であるカンパリアメリカでダークスピリッツ部門のヴァイスプレジデントを務めるアンドリュー・フロア氏だ。下流白人が飲むガソリンといった野卑なイメージはなくなり、2000年代では69%の男性がウイスキーを「高品質」で「バーで注文することが誇らしい」と考えている。

伝統を誇ることも重要だが、この24時間休みなくソーシャルメディアが情報を回す世の中に適応する必要もある。洗練されたバーの客も、2000年代からの消費者も、いつも何か新しくて特別なお酒を探している。その両方の要望に応えているのがワイルドターキーだ。この道60年のマスターディスティラーであるジミー・ラッセル氏と息子のエディー・ラッセル氏は、さらなるブランディングの強化に余念がない。バーボンとライをブレンドした「フォーギブン」などの新商品もその現れだ。スタッフの間違いから生まれたというこのユニークなボトルは、2014年3月に数量限定で発売された。

後発の企業の多くは、変革者としての使命を自らに課している。ケンタッキーとテネシーに施設を有し、クラフト蒸溜所の指導者的立場にあるコルセアは、何百酒類もの実験的な熟成を試みている最中だ。1997年に著名なバーボン史研究家である父と共にジェファーソンズバーボンを創始したトレイ・ゾーラー氏も、ここ3年は毎年50%ずつの急激な成長を見せており、2015年末までに11種類の新製品を発売した。そのひとつが海に浮かぶ船の上で熟成した「ジェファーソンズ・オーシャン」。またワインの影響を見込んでカベルネ樽で熟成した「ジェファーソンズ・グロスカスクフィニッシュ」もユニークである。

イノベーションを求める消費者に応えるため、ビームサントリーは特にプレミアム路線を意識した戦略を打ち出している。2年前に始まったシグネチャークラフトシリーズの一環として、ユニークな6種類のグレーンにフォーカスした「プレミアム ジムビーム ハーヴェスト バーボンセレクション」を発表。他にも12年ものやクォーターバレルのシグネチャーシリーズも発売を予定している。だがやはりその最高峰といえばペドロヒメネスのシェリー樽でフィニッシュした300ドルの「ジムビーム ディスティラーズ マスターピース」だ。

ヘヴンヒルが毎年限定生産する「パーカーズヘリテージ」は、引き続き同蒸溜所を象徴する実験的なシリーズとして生産される。同社は「リッテンハウス」の人気で手応えのあったライ需要を見込んで、新しい戦略を実行に移している。2015年にも6年ものの「パイクスヴィルライ」を発売し、バーテンダーからの支持に応える形で「ジムビームライ」も再発売した。

 

小規模蒸溜所ならではのイノベーション

ウッドフォードもまた、「ウッドフォードリザーブ ライウイスキー」でライ市場に参入した。同蒸溜所は多彩なフィニッシュによるバーボンを盛り込んだ「マスターズセレクション」でさらに実験的な取り組みをおこなっている。「ウイスキーロウコレクション」の一環で、ライトフィルターのオールドフォレスターを2015年6月に発売。親会社であるブラウンフォーマンのチーフマーケティングオフィサー、ジョン・ヘイズ氏が同社の戦略を説明する。

「実験的なボトリングが幅広くおこなわれており、予想外の反響に喜んでいます。クラフトビールと同様に、消費者はイノベーションと上質な風味を求めています。バーボンの成功は、クラフトビールに負うものが多いですね」

こと実験といえば、より小規模な独立系企業のほうが実験に対して柔軟だ。多数の小規模生産者と事業をおこなうオークビュースピリッツで上級顧問を務めるデイヴ・ピッカレル氏が状況を説明してくれた。

アメリカの蒸溜酒のすべてのイノベーションが、クラフト蒸溜界で起こっています。イノベーションへのハードルはとても低いので、各ブランドはわずか3ケースで新商品を発売できます。小さなブランドはトレンドが生まれたらすぐに反応できる。イノベーションは彼らの最大の身上であり、誰かのモノマネでは成功できません。メーカーズマークと似たような味で、それより10ドル高い製品を誰が買うでしょう?」

ピッカレル氏によると、アメリカのモルトウイスキーが特に勢いを増している。既存の大手メーカーがまったく手を付けていない分野だからだ。この分野にある潜在的なチャンスは幅広い。クラフトビールからつくったもの、ピートでスモークしたもの、メスキートの木片でスモークしたものなど、フレーバーを施したモルトウイスキーの登場が期待されている。

 

 
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