ワートを冷却する熱交換のメカニズム

November 3, 2017

熱交換シリーズの第2回は、ほとんど話題に上がることのない装置にスポットを当てる。ワートを冷却することでエネルギー効率を向上させるメカニズムについて学ぼう。

文:イアン・ウィズニウスキ

 

熱交換器は、温度の高い液体から温度の低い液体に熱を移すための設備である。生産工程のさまざまなステージで使用され、蒸溜所のエネルギー効率を最大化してくれる。石油であれガスであれ、主要な生産コストである燃料費の節約は重要だ。だが熱交換器が提供する効果は、エネルギー効率だけにとどまらない。
 
熱交換器の主要な用途のひとつに、ワート(マッシングでできる糖分を含んだ液体)の冷却がある。マッシングでは、大麦モルトに含まれるでんぷん質を糖分に分解するため、マッシュタンにお湯が入れられる。このお湯の温度は63.5℃ほどから始まり、徐々に熱くなっていくのが一般的だ。
 
ここである問題が発生する。マッシュタンから流れ出るワートの温度が、次の行程である発酵を開始するには熱すぎるのだ。熱が酵母菌の活動を阻害していしまうというのも、そのような問題のひとつである。
 
ワートが自然に冷えるのを待たずに、熱交換器を使用すれば時間の節約になる。ただ冷やすだけでなく、ワートを酵母菌の活動に適した温度に調整できるのも熱交換器の利点だ。この温度設定は、蒸溜所ごとのスタイルによって異なってくる。なぜなら発酵開始時の温度は発酵時間の長さと関連するからだ。発酵時間の違いは、ウォッシュ(発酵液)の特性にもさまざまな影響を与える。
 

発酵前にワートの状態をチェックするのは極めて重要な行程だ。ワートを適切な温度に調整しながらエネルギーコストを減らすのが熱交換器の働きである(カーデュー蒸溜所)。

発酵開始時のワートが16〜18℃くらいなら、発酵の速度は比較的緩慢になる。それが20〜22℃くらいになると、発酵の開始も終了も速くなる。約48時間程度で終わる短めの発酵時間は、シリアルやビスケットの風味が強いウォッシュをつくる。それに対し、約100時間に及ぶような長い発酵時間にすると、よりフルーティーな特徴を持ったウォッシュができる(長時間の発酵は、それだけ幅広い特徴を生み出す原因になる)。
 
発酵開始時のワートの温度は、熱交換器の片側からワートをパイプに通し、逆側から冷水を入れることで調整できる。熱交換器にはさまざまな種類があるが、一般的なのはプレート式熱交換器だ。これは優れた熱導体であるステンレスなどの金属プレートを組み合わせたもので、プレート両側の表面が波型になっている。この波型の下にある細いパイプを液体が通って、プレート間を移動していく。
 
ワートが一方のプレート内を流れている間、反対側のプレート内には冷水が流れている。熱力学の法則によって、ワートの熱はプレートを媒介にして水へと移り、ワートがプレートからプレートへと移動するに従って徐々に冷えていく。反対に冷水は徐々に温まっていき、最後にはそれぞれ熱交換器の反対側から排出される。
 
排出されるワートを特定の温度にするには、プレート式熱交換器に入れる水の流速を調節する。この流速の調整は、冷水の温度によっても変えていく必要がある。ディアジオでプロセス・テクノロジー・マネジャーを務めるダグラス・マレー氏が説明する。
 
「ワートを冷やす水は、湧き水、井戸、川、湖などさまざまな場所で採取されます。いずれにしてもきれいな飲用水で、ふんだんな量が確保できなければなりません。湧き水の温度は年間を通して大きな変化がなく、だいたい5〜10℃くらい。一方、川などの地表水は冬で5℃、夏で25〜30℃といった具合に大きく変化します。必要があれば、温かい夏の水を冷却器で冷やしてから使用することもあります」
 
水が冷たいほど、熱交換器に投入する流速は遅くても済む。水が温かい場合は、より流速を増すことで望ましい冷却状態にする。この必要に応じた流速の調整は、自動的におこなわれている。ウィリアム・グラント&サンズのテクニカルエリアリーダーを務めるジョン・ロス氏が語る。
 
「ワートがプレート式熱交換器から排出される部分には温度計が設置されています。この温度計が、プレート式熱交換器に送り込む水量を調節するバルブと連動しているのです。このようなテクノロジーによって、ワートが望ましい温度に調整できるようになります」
 
ダルモア蒸溜所の蒸溜所長を務めるスチュアート・ロバートソン氏が具体的な統計を示してくれた。
 
「1回のマッシングでできる48,500Lのワートを、150枚のプレートでできたプレート式熱交換器に通します。所要時間は、だいたい3.5〜4時間ですね」
 
熱交換器を出たワートは、ウォッシュバック(発酵槽)に送られて発酵が始まる。一方、熱交換器で温められた水も捨てられずに再利用されることになる。ダグラス・マレー氏が語る。
 
「熱交換器を出るときの水温は最低70℃ほど。高い場合は85〜90℃にもなります。ワートの温度や熱交換器の熱効率によっても異なりますが、この水は貯水タンクへ送られ、次のマッシングに使用されます。改めて熱を加えなくても糖化にちょうどいい温度になっているので、エネルギーコストを大幅に節約できるのです」
 
蒸溜所で熱交換器が使われ始めたのは1970年代のことである。それ以来、今でも技術の進歩は続いているとダグラス・マレー氏が語る。
 
「スコットランドには、イノベーションの精神があります。メーカーは次々に改良された熱交換器を発表してきました。おかげで熱交換器の性能もますます効率的になっています」
 
熱交換器には、チャージ(これから蒸溜する発酵液)の温度を上げてからポットスチルに投入するという重要な役割もある。ジョン・ロス氏が説明する。
 
「行程ごとに別途の熱交換器が使用され、モデルも異なります。プレート式熱交換器の寸法や、プレートの枚数などといった技術上の仕様は、エンジニアの考えを加味して決定されます。設計は、蒸溜所の生産能力などの統計的なデータを参考にしています」

 

 

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