スコットランドの島めぐり【第2回/全3回】

January 15, 2018


聖地アイラ島を後にして、隣のジュラ島でジョージ・オーウェルの足跡を追う。雄大なスカイ島では、タリスカーに続く第2の蒸溜所が誕生していた。ウイスキーの旅は、まだまだ続く。

文:クリストファー・コーツ

 

アイラ島の隣にあるジュラ島は、アイラ島に比べて見どころが少ないように感じられるかもしれない。だがそれは誤った先入観だ。島のシンボル「パップス・オブ・ジュラ」に代表される大自然の姿は美しく、人里離れた真の平穏を経験できる場所なのである。

岩だらけの丘や美しい砂浜のビーチなどを歩くのが好きな人なら、この島にはインナー・ヘブリディーズ屈指の魅力がある。私の言葉が信じられない人でも、あのジョージ・オーウェルの意見を聞けば納得するだろう。オーウェルはこのジュラ島で「バーンヒル」と呼ばれる小さな小屋に引きこもり、あの名作『1984』を書き上げた。この本は今でも新しい古典として読み継がれているが、新鮮な空気はオーウェルの病に打ち勝てなかったようだ。彼は結核を患って4年後に他界した。この原因は、島の北側に発生する世界第3の渦潮「コリーヴェッカン」のせいだと信じる人もいる。2013年、島の行政の中心であるクレイグハウスで公文書作成中に、ジョージ・オーウェルは家族と渦潮の海域で船の事故に遭っていることがわかった。潮汐表を読み違えたオーウェルと息子は、転覆した小さなモーターボートから海に放り出された。ロブスター漁をしていた漁師に救助されたが、もともと身体が弱かったオーウェルはこの事故によって体調を悪化させたと推測されている。

現在はホワイト&マッカイ傘下にあるジュラ蒸溜所は、1810年に創建されていたが一度は廃業。施設をゼロから再建した歴史がある。現在のアイル・オブ・ジュラ蒸溜所は、急速な人口減少に歯止めをかける経済効果を期待して、1960年代前半に設立された。ブレンド用モルトとして軽んじられていた頃もあったが、大衆市場へのアピールが奏功。今ではシングルモルトブランドとしての評価もうなぎのぼりだ。

ジュラ島にはアイラ島経由で、ポート・アスケイグから定期運航便のカーフェリーに乗って行くのが一般的。だが4月から9月までは、アーガイルのナップデール半島にあるタイヴァリックからクレイグハウスまで小型の旅客専用フェリーが運航される。

 

大自然の中をマル島からスカイ島へ

 

よく晴れた日にジュラ島北部から海を眺めると、隣の島のドラマチックな崖が見える。次の目的地のマル島だ。

目を見張るような峡谷、広大な干潟、そびえ立つ山々、美しい入江、一流の古城など、マル島の魅力は枚挙にいとまがない。だがウイスキーファンの来訪といった意味では、そのさらに北にあるスカイ島の後塵を拝しているようだ。

現在、マル島にある蒸溜所は、島の中心地にあるトバモリー(レダイグ)ただひとつのみ。1798に創設されたトバモリー蒸溜所は、2013年に南アフリカの飲料コングロマリットであるディステル・グループに買収された。蒸溜所は2017年前半より2年間にわたって休業する予定なので、訪問の際は注意しよう。ディステル社の発表によると、生産設備とビジターセンターの大規模な改修が休業の理由である。だがマル島は依然としてウイスキーファンなら十分に行く価値のある島だ。

トバモリー蒸溜所は休業中だが、マル島に行く価値は十分にある。希少な野生動物や素晴らしい古城に出会い、ゆったりとグラスを傾けるチャンスだ。

マル島へ渡る主要なルートは、オーバンから出発する短いフェリー航路。もちろんオーバンではディアジオが誇るクラシックなモルト蒸溜所もついでに訪ねることができる。1日たっぷり島の美しい自然を満喫したり(イヌワシ、オジロワシ、ラッコをお見逃しなく)、マクリーン家の居城 (デュアート城)に足を運ぶのもいいだろう。トバモリーの採水地であるミシュニッシュ湖畔のパブで、1杯やるのもおすすめだ。

ロマンチックなスカイ島は、多くの旅人が思い描くスコットランドのイメージに満ち溢れている。本土と橋で繋がってしまったので、もはや島ではないとからかわれることもあるが、ヘブリディーズ諸島のスーパースター的存在であるスカイ島の魅力は本物だ。

まず食事が飛び抜けて素晴らしい。「ザ・スリー・チムニーズ」(「グッド・フード・ガイド2018」の英国レストラン部門最高賞)と「キンロックロッジ」(AAロゼットアワード3回受賞、ミシュラン1つ星)は見逃せないレストラン。トロッターニッシュ半島の奇岩「オールドマン・オブ・ストー」やクラインの大地、グレンブリトルの妖精のプール、見事なキュイリン山などの素晴らしい眺めを気持ちのいいハイキングで楽しむのもいいだろう。

スカイ島のウイスキーといえばタリスカー蒸溜所だが、1830の創立から50年ほどは経営力の不足に苦しんだ。その後、1880年には安定したオーナーに引き継がれて、大規模な改修で蒸溜所のインフラを整備。オーナーは何度も変わったが、20世紀になっても蒸溜所は比較的順調に運営された。だが1960年、蒸溜所は火事で大損害を被ってしまう。再建された新しい蒸溜所が1962年に開業したが、どちらかといえば無名な日陰の道を歩んでいた。それが1998年に「クラシックモルト」のひとつとして宣伝され始めると潮目が変わる。現在はディアジオのポートフォリオの中核をなすキーモルトブランドのひとつであり、ディアジオ傘下では最多の入場者数を誇るビジターセンターでも有名だ。

かつてはこのタリスカーがスカイ島唯一の蒸溜所だったが、現在は2017年夏に開業したばかりの真新しいトラベイグ蒸溜所もある。農場の建物を改装した蒸溜所は取り外し可能なスレート屋根が見栄えよく、外から見ると一風変わった印象も感じる。だがこの蒸溜所は撮影用のセットではない。ウォッシュバック8槽から2基の銅製スチルにウォッシュが送られ、シングルモルト専用のスピリッツを純アルコール換算で年間最大500,000L生産する。

トラベイグ蒸溜所を構想したのは故イアン・ノーブル卿。独立系ボトラー「プラバンナリンネ」を創設し、2002年にこの蒸溜所建設計画の認可を受けていた。残念ながら2010年に他界し、プロジェクトの完遂を見届けることはできなかったが、フルーティでまろやかなピート香のあるスピリッツをつくるという彼の意図は成就した。蒸溜所にはビジターセンターとカフェも併設されている。

(つづく)

 

 

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