白州蒸溜所 グレーンウイスキー生産設備本格稼動
40周年を迎えた白州蒸溜所で連続式蒸溜機が稼動を始めた。森の蒸溜所といわれる白州のグレーンはどのようなものなのか?5月15日、真新しい連続式蒸溜機に対面した。
新緑眩しい5月の白州蒸溜所。1973年竣工で40周年となる今年、新たな転機を迎えた。それが連続式蒸溜機、グレーンウイスキー生産設備の本格稼動である。
モルトウイスキーとグレーンウイスキーの違いは原料だけではない。モルトウイスキーは「麦芽(二条大麦)が原料、単式蒸溜器(ポットスチル)で蒸溜」ということは、本誌読者の皆さんならご存知の方は多いだろう。
ではグレーンはというと、「主にトウモロコシ、ライ麦、小麦などの穀物を用い、連続式蒸溜機で蒸溜」するというものだが、細かな製法の違いも数多くある。グレーンについてはまた別の機会に改めてご紹介しよう。
白州でグレーンウイスキーづくりを始めた背景を、サントリー酒類 スピリッツ事業部ウイスキー部長 鳥井憲護氏は
「日本国内でウイスキーユーザーが拡大し、海外でもWWA(World Whiskies Awards)などの国際的な品評会で高い評価を得られるようになった。匠の技であるブレンデッドウイスキーで高い評価を得られるようになった昨今、グレーンウイスキーの魅力をさらに高めて、ブレンデッドウイスキーの更なる品質向上につなげていきたい」
と語る。
続いて白州蒸溜所工場長 前村久氏によるサントリーのグレーンウイスキーづくりについて説明。
白州に導入された連続式蒸溜機は、1972年よりサントリーのグレーンウイスキー生産の中心を担っている知多蒸溜所のものの、生産能力が10分の1以下の規模であるという。しかしながら
①多様な原料を使用して、それぞれの風味をスピリッツに反映させることができる(知多ではトウモロコシのみを使用している)
②様々な成分分離・濃縮を繰り返すことで異なるアルコール度数の原酒をつくり、香味のバリエーションを実現する
③小規模な生産設備のため、試験的な原酒のつくり分けができる
④モルトの蒸溜所と隣接しているため、モルトとグレーンのプロセスの組み合わせにより、個性あるウイスキーの製造が可能となる
という4点の特長があるという。
実際に蒸溜機を見てみよう。
なかなか公開されることのない連続式蒸溜機であるが、その外観はポットスチルとは明らかに異なる。
発酵を終えたもろみはまず後方部の「もろみ塔」に入る。この塔の中ではまずもろみから液体(水・アルコール分)を分離させることが目的。イメージとしては蒸溜釜がタテにつながっているようなもので、白州では18段に分かれている。ここで所定のアルコール度数になった凝縮液は、「精溜塔」と呼ばれる手前の塔に移る。こちらは40段に分かれており、希望の度数にあわせて途中の段で抜き出しが可能になっている。この内部を通っているパイプは銅製であり、蒸溜の際に発生する硫黄成分を除去する効果がある。ポットスチルと同じく、銅は蒸溜に重要な役割を果たしているのだ。
この連続式蒸溜機は技術者やブレンダーが何度も試行錯誤を重ねた末の、白州オリジナルの設備なのだそうだ。なお、こちらのグレーンウイスキー生産設備は一般公開されていないとのこと。
そして見学の後にはニューメイクスピリッツのテイスティングという興味深いものが用意されていた。
チーフブレンダー 福與伸二氏は
「グレーンウイスキーはいわば『おだし』のようなもの。昆布のところに鰹を使ったら成り立たないところもある。知多ではクリーン・ミディアム・ヘビーの3種類のグレーンをつくっており、それぞれの使い分けが実は各商品の個性に重要な役割を果たしている。この白州のグレーンから『コンソメ』や『豚骨スープ』のような特別な意味を持つグレーンウイスキー原酒が生まれ得ると思う。無限の可能性を秘めた設備です」と語る。
まず知多グレーン原酒(クリーンタイプ)。透明感に溢れ、白桃のような甘みがある。上質のウオツカのようだ。丸みの感じられる、素直なスピリッツという印象。モルトの味をうまく引きか立ててくれる名脇役を演じてくれているのが想像に難くない。
そして白州グレーン原酒、原料はトウモロコシのみのプレーンタイプ。知多に比べるとシャープで厚みがある。ドライな中に原料由来のやわらかな甘みが奥深くにあるが、やや固い。お披露目にちょっと緊張しているような初々しさだが、生き生きとしている。
最後にトウモロコシのほかにライ麦を使用した白州グレーン原酒。粉っぽさまで感じられるほどの非常にはっきりとした麦の香りがあり、スパイシー。懐かしい麦藁帽子や緑の麦畑、夏を連想させるユニークな味わい。新鮮ですがすがしい。
ニューメイクでありながらそれぞれに個性的であり、これが樽や熟成年数の影響を受けながら、どのようなウイスキーになっていくのだろうかという興味は尽きない。
ブレンデッドウイスキーの更なる進化だけでなくグレーンウイスキーそのものが新たなステージに向かう可能性を秘めながら、白州の豊かな緑と澄んだ空気に包まれて、できたばかりの原酒たちは今はまだ静かに樽の中で眠っている。皆さんも目覚めのときを楽しみにお待ちいただければと思う。