蒸溜所

世界が認めたインド産ウイスキー

世界が認めたインド産ウイスキー

インド産シングルモルトの最高峰といえばアムルット。高原の風が渡るバンガロール近郊に、その本拠地がある。(文:ダヴァン・ドケルゴモー) アムルットとは、サンスクリット語で「人生の霊酒」を意味する言葉。1948年にラダクリシュナ・ジャグダルが創業した当時、アムルット社は簡単なブレンディングとボトリングの機械を備えた小さな工場に過ぎなかった。 他の蒸溜所から購入したアルコールをブレンドして販売するビジネスで成功したラダクリシュナは、70年代に地元産のブドウ品種「バンガロールブルー」でオリジナルのブランデーをつくろうと連続式蒸溜機を導入。やがて80年代初頭にはモルトウイスキーも生産するようになった。 最初のモルトウイスキーは18ヶ月で出荷可能になったが、当時のインドにはシングルモルトの市場がない。そこでサトウキビを蒸溜したアルコールとモルトウイスキーをブレンドした「マッキントッシュ・プレミアムウイスキー」を生産するとこれが大ヒット。1987年には現在のアムルット蒸溜所を新設することになった。1989年には、英国から蒸溜酒コンサルタントのジム・スワン博士とハリー・リフキン氏を招聘。製造工程を改善して品質に磨きをかけた。 世界が認めたシングルモルト 経営は創業者の息子であるネール・ジャグダルに引き継がれ、やがて時代は21世紀に。ネールの息子であるリック・ジャグダルが留学先の英国からバンガロールに帰る頃、大きな転換期がやってきた。 リックが学生時代に英国でおこなった市場調査から、父ネールはシングルモルトで勝負する機が熟したことを察知する。2004年、リックは再び英国に渡り、留学時代の同級生であるアショク・チョカリンガムと共にグラスゴーでシングルモルトウイスキー「アムルット」の発売を公式発表したのである。 最初の数年間、リックとアショクはあらゆるウイスキーのイベントに参加してアムルットの認知度アップに奔走した。ブラインドテイスティングの後でインド産ウイスキーであることを明かすと、多くの愛好家が驚きのあまり絶句したという。そして2008年、ブラックアダーがボトリングしたアムルットが、モルトマニアックスアワードにおける最高賞「ノンプルスウルトラ賞」を獲得。アムルットは、世界のウイスキー関係者にその品質を認められるようになった。 急速な熟成とユニークな風味 インド南部、カルナータカ州の州都バンガロールは標高920m。インドの中では湿気も少なく、年間降雨量もわずか860mmで、気候にも恵まれている。それでも冬17℃、夏32℃という温暖な気候は、ウイスキーづくりの環境としては特殊だ。 マスターディスティラーのスリンデル・クマールが説明する。「ウイスキーは必ず4年で熟成のピークに差し掛かり、そこからは絶えずテイスティングで品質を監視しなければなりません。なぜなら5年に達する頃までに、タンニン過多の傾向が始まるからです。いわゆる天使の分け前も多く、毎年11%もの水分がウイスキーから失われます」。 大麦麦芽はインド北部のラジャスタン地方やパンジャーブ地方から調達してきたが、英国産も輸入するようになった。水は24km離れた自社所有の井戸からトラックで輸送。1万ℓのステンレス製発酵槽が6槽あり、槽内を28℃以下に抑えるために水冷式のカバーをかけている。発酵は業務用ディスティラーズイーストで6日間。450人の従業員が年間400万ケースの蒸溜酒を生産する。4分の1がブレンデッドウイスキーで、シングルモルトはわずかに1万ケースだ。 約20カ国で販売されているシングルモルトの知名度は国内でも広がり、ウイスキー目当ての観光客がバンガロールを訪れるようになった。ビジターセンターの整備や、カルナータカ州北部に第2の蒸溜所を建設する計画も持ち上がっている。創業60年を超えてまだまだ成長するアムルットは、ウイスキーの未来そのものである。  

余市の幻影

余市の幻影

足を運ぶたびに「なぜこの地だったのか」と自問する。日本ウイスキーの父は、余市にスコットランドの夢を重ねていたのか。(文:デイヴ・ブルーム)

風味

ウイスキーの「口当たり」ってなに?

ウイスキーの「口当たり」ってなに?

とげとげしい口当たり。滑らかなテクスチャー。ウイスキーごとに異なる口内感覚は、どのようにして生まれるのだろう。(文:イアン・ウイズニウスキ) モルトウイスキーのテクスチャーは、シルキーでビロードのような軽いタイプから、クリーミーで舌にまとわりつくような重いタイプまでさまざまだ。口当たりの特徴を決める重大要素は、まずアルコールと水。さらにいくつかのフレーバー成分も関与し、それぞれの因子がわずかに変化するだけで大きな影響を及ぼす。 アルコール度数40%で瓶詰めされたモルトウイスキーは、もちろん40%がアルコールであり、残りの60%はほぼ水分。この「アルコール:水」の比率は重要だ。アルコールにはトゲトゲしくドライな感触があり、水にはクールダウンして潤いを与えるはたらきがある。この異質な2種類の液体が融合することで、大まかなテクスチャーが決まってくる。 しかしながら、水とアルコールが口当たりを決める最大の要因だとは言い切れない。グレンモーレンジィの蒸溜最高責任者、ビル・ラムズデンは語る。「同じ度数のウイスキーを比べてもこれほど多様なテクスチャーが存在するのは、タンニンなどのフレーバー成分が原因。これらの成分は微量でも非常に大きな影響力を持っています」。 タンニンの恩恵と限界 タンニンは熟成中に樽から引き出されるが、どれくらい引き出されるかは、樽のタイプによって異なる。シェリー樽の材料となるヨーロピアンオークは、バーボン樽の材料となるアメリカンオークの数倍のタンニンを含んでいる。タンニンは熟成直後の数年で多く引き出され、その後はかなり緩慢になる。つまり熟成年に比例してタンニンのレベルが上がるわけでもない。 ウイリアム・グラント&サンズのマスターブレンダー、ブライアン・キンズマンはこう説明する。「タンニンはビロードのように舌を包み込み、同時にドライな口当たりをもたらします。このドライさは厳密な意味でテクスチャーとは呼べないものの、口内を覆う残留物のように留まる後味となるので、口当たりの一要素と考えてもいいでしょう」。 タンニンの恩恵は、引き出される量にもよるというのがビル・ラムズデンの意見である。「適量のタンニンは口当たりをくっきりさせてバランスを整えますが、その程度にもはっきりと転換点があります。タンニンが多すぎると焦げたような熟成香が生まれ、渋味や苦味の原因にもなります」。 クリーミーなバニリン、シルキーなエステル クリーミーなテクスチャーを含むバニリンもまた、口当たりに影響を与えるフレーバー成分のひとつ。このバニラ風味は、他のフレーバーを豊かで丸みのあるものに感じさせ、結果的に口当たりに影響を与える。ちょうど料理の味を整えてピントを合わせる塩のような役割だ。樽から抽出されるバニリンの量は最初の数年が顕著に多く、その後は目に見えて鈍化する。 リンゴや洋ナシのような風味のエステルも、テクスチャーを作る一因だ。発酵の期間中に大部分が形成され、蒸溜中と熟成中に少量が加わる。このエステルは、分子構造の複雑さから短鎖、中鎖、長鎖に分けられ、特に長鎖エステルは微量でも口内をコーティングし、オイリーで、シルキーで、リッチな感覚を生み出すという。 ブライアン・キンズマンいわく、ウイスキーの粘度を数値で示すことはできない。テクスチャーだけを、アロマやフレーバーから完全に分けて感知することも不可能である。技術が進歩しても、テクスチャーを最も繊細に感知できるのは人間の知覚。それ以上に正確な基準は、まだ発見されていないのである。

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バー

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