グレーンウイスキーに集まる視線
グレーンウイスキーは、エキサイティングな新時代へと突入しようとしているのか?
Report:イアン・ウィスニュースキー
グレーンウイスキーの種類が増えるほど、人々の関心や売上は自然とそれに伴って上昇し、さらに多くのボトリングが発売される……こうして、このプロセスは続いていく。これが成功のための完璧な方程式だ。
だが、市場にさらに多くのグレーンウイスキーが出回るようになっても、この方程式は単純明快なままでいられるのだろうか? 「もちろんです。ずっと続くと思います」と、コンパスボックス社のジョン・グレーザーは言う。
グレーンウイスキーの品揃えは増えてはいるものの、それは依然として比較的限られている。だが、グレーンウイスキーは正当な評価を受けているようだ。
「非常に古いグレーンウイスキーを売り出したところ、とても高く評価され、数々の賞をいただきました。注目を集めていると実感しましたね。グレーンウイスキーを宣伝すればするほど、売上は伸びますよ」と、ダンカン テイラー社のユアン・シャーンは言う。
ダグラス・レイン社のフレッド・ラングは、同意する。「以前、年代の古いグレーンウイスキーを発売したのですが、それはシングルカスクモルトとなんら遜色のない、特別なものと思っています。クラン・デニーのブランドで6、7種類をそろえていますが、安定した人気です」
グレーンウイスキーに関する知識がそれほど一般に広まっていなくても、その風味に感銘を受けている人は多い。
「モルトよりももっとデリケートで軽いので、グレーンが何かを知らないとしても取っ付きやすいと思いますよ」と、ジョン・グレーザーは言う。
最も品揃えが豊富なのは、大手ブランドではなくむしろ独立系のボトラーだが、コンパスボックス社のヘドニズムやヘドニズムマクシマス、インヴァーゴードン、エドリントン・グループが発売しているThe Snow Grouse(スノーグラウス)の参入によりこの比率は変わりつつある。
スノーグラウスやヘドニズムのようなボトリングは、どの蒸溜所のものかという出所ではなく、ブランド名やコンセプトの活用ということについての問題を提起した。
「スノーグラウスはライチョウの一種で、スコットランド人なら誰でも知っているので、イメージを持ちやすいのです。大きな白い羽根を持つ鳥で、スコットンランドの山の上に生息しています」
「そしてこちらのスノーグラウスは、ブレンデッドグレーンウイスキーです。フェイマス・グラウスやブラック・グラウスと並ぶスコッチウイスキーのひとつですが、後者のふたつとは異なる特徴を備えています。甘くて軽いウイスキーで、『キンキンに冷やして』供されるようにつくられています」と、エドリントン社のデレク・ブラウンは言う。
ヘドニズムの場合はウイスキーのイメージを伝えるのに、ブランド名が主な役割を果している。
「このタイプのウイスキーは、実に快楽主義的(ヘドニスティック)な体験をもたらします。私は、商品名を重要視しています。私たちは蒸溜所ではないし、蒸溜所と長い付き合いがあるわけではありません。ひとつの蒸溜所だけとつながっているわけでもなく、様々な蒸溜所の組み合わせから生み出されるスタイルを追求しているのです」と、ジョン・グレーザーは言う。
蒸溜所名も重要なのでは?
「シングルモルトやシングルグレーンウイスキーの場合は、どの蒸溜所かというのが重要な役割を果します。しかしブレンドの場合は、出所や製造年あるいはウイスキーの数よりも、ウイスキーそのものの質が評価されるのです」と、デレク・ブラウンは言う。
ブレンディングが過小評価されているとすれば、その理由のひとつは、まだ一般に十分に評価されていないことが挙げられる。ブレンディングは高い技術を有することの証明である事が認知されていない、ということだ。
「『フェイマス・グラウス・エクスペリメント』では、ブレンディング術を、オーケストラの楽器にたとえて説明しています。それぞれの楽器はひとつひとつでも優れていますが、それが組み合わされると、パーツの単なる寄せ集めではなく、遥かに素晴らしいものが生まれます。それが、シンフォニーなのです」と、ブラウンは言う。
グレーンウイスキーの品質はもちろん、成熟期間やカスクの選定などは言うに及ばず、様々な要因に左右される。
「20年もたてば本当に真価を発揮するのですが、それはカスクにもよるのです。ファーストフィルのアメリカンオークの場合、熟成しすぎてバニラの風味が強くなりすぎてしまいます」と、ユアン・シャーンは言う。
フレッド・ラングは、こう付け加える。「40年から45年で素晴らしい特色を身につけるようになりますよ」
通常、グレーンウイスキーはバーボン樽で熟成されるのが一般的だが、そうでないものが注目されるのは世の常だ。
「ポート・ダンダスをシェリーカスク熟成(マリッジ)した商品を発売したところ、すぐに完売してしまいました。限定品だったので専門小売業者にしか行き渡りませんでした。セカンドフィルのシェリーカスクを使ったのですが、フルーツケーキ、かすかなバニラ、そしてスパイスの完璧なバランスが生まれました。これがファーストフィルだったら、きっと(風味が)強すぎてしまったでしょうね。もっとつくってくれという要望が、たくさんお客様から寄せられました」と、シャーンは言う。
この分野が発展し続けるかどうかは、いくつもの要素に左右されるが、中でも重要なのは、需要に即座に応えるための在庫の確保だ。
「以前はモルトよりもグレーンウイスキーを手に入れるほうが簡単だったのですが、今はそうではなくなっています。長熟のブレンド・スコッチの需要が驚くほど高まっているので、ブレンダーは年代物のグレーンも手に入れなければなりません」と、ザ・ウイスキー・エクスチェンジ社のシェキンダー・シンは言う。
独立系ボトラーが取れる予防措置は、それぞれが在庫を持つことだ。
「グレーンウイスキーを、いくつもの蒸溜所から入手した様々なステージのカスクに詰めるだけではなく、新たなグレーンやモルトも引き続き購入して貯蔵しています。自社ブレンドにはフィリングプログラムが進行中ですし、もちろん、この特別ブランドのための在庫も別に確保しています」と、フレッド・ラングは言う。
ユアン・シャーンはさらにこう続ける。「ニューメイクを購入するのは、私達の昔からのポリシーです。しかし新しいグレーンウイスキーを買うのが難しくなっています。需要が高いので、価格がうなぎのぼりに上昇しているためです。それでも、私たちは買い続けています」
在庫を持つことがさらに難しくなっている中、価格設定も考えなければならない基本的な問題のひとつだ。
「独立系ボトラーの豊富な種類のグレーンウイスキーは、リーズナブルな価格設定となっていますので、多くの消費者からの要望が高まっています。人々の関心が高まれば高まるほど、価格は高騰し、モルトとグレーンの違いがほとんどなくなるほどまで上昇すると思いますよ」と、シェキンダー・シンは昨今の現状を既に6年前から予測していた。
では、今後数年間の見通しは?
「もちろん、グレーンウイスキーは長期的な可能性を持っています。グレーンウイスキーとしての役割が確立されたのだと思います。世界中を旅して感じることは、優れた樽でつくられたものは、たくさんの人々に愛される、と言うことです」
最近ではジャパニーズ・グレーンウイスキーも入手しやすくなり、気軽に楽しむことができるようになった。グレーンは、ますます注目されていくだろう。