コンデンサーが風味を変える
コンデンサーの役割は、揮発させた蒸溜成分の再液化。方式には新旧2種類があり、その違いがウイスキーの性格を変える。(文:イアン・ウイズニウスキ)
ポットスチルを使ったウイスキーづくりにおいて、最初にモロミを蒸溜する初溜釜(ウォッシュ・スチル)から得られる溜液をローワインと呼ぶ。このローワインを再溜釜(スピリット・スチル)で蒸溜して得られるのがニューメイクスピリッツ(原酒)だ。コンデンサーは、この2回の蒸溜でウイスキーの繊細な性格を決定する。
現在、ウイスキーづくりに使われるコンデンサーは2種類。今では少数派となった伝統的な蛇管式(ワーム式)は、プルトニー、クラガンモア、タリスカー、モートラックなどの蒸溜所で使用されている。それに対し後発の多管式(シェル&チューブ式)は、19世紀後半に開発されるとすぐにハイランドパーク、グレンフィディック、ザ・バルヴェニーらが取り入れ、その後ほとんどの蒸溜所で採用されるようになった。
典型的な多管式コンデンサーは、太い銅管の中に細長い銅製パイプを100本ほど内蔵している。この大量のパイプの中には常に冷水が流れ、蒸溜釜から送らてくる気体を冷やす。液化した溜液は冷水パイプの外壁をつたって底に落ち、配管で別の容器に流れ出るという仕組みだ。
一方の蛇管式は、わずか1本の銅管でできている。らせん状にとぐろを巻き、長さ100m以上にも及ぶものもある。先端に向かって細くなる様子はまさにヘビ。 パイプの直径は入り口付近で10cm以上あったものでも最後には5cmほどになる。大きなたらいの中に収められ、たらいの底から供給される水によって冷やされる。
どちらのタイプでも、液化された蒸気が銅管に触れると重要な化学変化が起こる。溜液中の硫黄化合物を銅が吸収し、硫黄化合物の量を減少させるのだ。発酵時に発生する硫黄化合物は、ゴム、肉、野菜などを思わせる風味を持っている。この硫黄化合物は自己主張が強く、同族元素の風味を覆い隠しているため、硫黄化合物の含有率を下げることで相対的に他の風味を引き出すことができる。そのようにして引き出される重要成分のひとつが、フルーティーなエステルだ。液化が素早くおこなわれるほどコンデンサー内を移動する溜液が銅に触れている時間が長く、銅の作用で硫黄化合物が取り除かれる割合が多くなる。
冷却水の温度で味が変わる
コンデンサーを冷やす水温も重要だ。冷却水は水道水ではなく周囲の環境からもたらされるのが一般的。深い川や地下水源から採取された冷水は、年間を通して水温が安定しているが、浅い川の水を利用すると真夏と真冬で約10℃の温度差がある。冷たい水はより素早い液化を促すため、その時間差が銅との接触時間の差に結びつき、夏と冬のスピリッツに違いをもたらす。品質の一貫性を保つためには、水温調整が必要だ。冷却水の温度は15℃前後であることが多い。
多管式は蛇管式に比べて、気体に触れる銅の表面積が大きい。多管式コンデンサーに流れ込んだ蒸気は、まず盾状のプレートにぶつかって分散する。そこに待ち構えている無数のパイプで冷やされ、パイプの表面にまとわりつきながら下に落ちていく。一方の蛇管式では、蒸気がパイプ全体で冷やされて液化し、ほぼ水平にとぐろを巻いたパイプの底をちょろちょろと流れていく。溜液が触れるのは銅製パイプの表面積のごく一部だ。つまり理論上、溜液がより広い表面積に触れる多管式コンデンサーのパイプは、それだけ銅と溜液との接触も多く、蛇管式コンデンサーよりも硫黄化合物をたくさん取り除くということになる。
しかしながら、蛇管式コンデン サーが多管式コンデンサーよりも硫黄化合物を多く含んだスピリッツを作ると無条件に断言できるわけでもない。冷却水の温度による影響で液化のスピードも変わるし、タイトに巻かれたとぐろをいくつも擁する長大な蛇管も実際に存在する。さらにいえば、蒸溜所独自の個性を打ち出すため、ある一定の硫黄化合物を含むことが望ましい場合もある。
大切なのは、微妙なスピリッツの性格を厳密にコントロールして、複雑なウイスキーを作り上げること。コンデンサーもまた、その芸術の一端を担う重要な脇役のひとつなのだ。