集中講義 樽を知る 【その1/全3回】
密造時代に税吏の目を欺こうと古いシェリー樽にウイスキーを隠したこと、さらに米国のバーボン業界が新樽しか使用できないという規則を作ったことが、現在のスコッチウイスキーのスタイルを作ったといわれている。カスクはウイスキーの素性を示す手がかりの宝庫だ。
解説:デイヴ・ブルーム
第1課 カスクの種類と効果
樽を英語でカスクという(バレルはサイズを表す言葉)。世界のウイスキー業界は様々なカスクを貯蔵用に使用しており、その分類はサイズの違いと、使用するオーク材の種類によって識別される。サイズの違いも、樽材の違いも、熟成中のスピリッツにそれぞれ異なったフレーバーを付与してくれる。
カスクの大きさがもたらすスピリッツへの影響は、樽に使用されている木材と樽内のスピリッツの質量比で決まる。つまりカスクが小さいほど、一定量のスピリッツに対して働きかけるオークが多く存在することになり、逆にカスクが大きいほど、オークとスピリッツが接触する機会は減少する。簡単にいえば、小さなカスクは、大きなカスクよりも短期間に、よりたくさんの特性をスピリッツにもたらす。同じ原則をネガティブにいうなら、小さい樽の難点は、木の影響が強すぎるウイスキーになりやすいことである。
カスクにスピリッツを入れる回数も、最終的なウイスキーのフレーバーに大きなインパクトを与える。最初のフィルはカスクがもたらすフレーバーも、色の濃さも最大で、2回目、3回目になるとこれらの要素が徐々に減少する。与えるものがなくなるまで使い果たされたカスクは、熟成には関与しないでただ液体を保管しておくだけの容器になる。カスクの大きさを知ることはとても役に立つが、フィルの回数を知ることはさらに大きな意味を持つのだ。
●オークの種類
アメリカンホワイトオーク(学名:Quercus Alba)
バニラ、ココナッツ、甘い香辛料の性格をスピリッツに与える。バーボン業界が使用するカスクのすべてがこのタイプである。シェリーカスクにも使用されることがある。
スパニッシュオーク/ヨーロピアンオーク(学名:Quercus Robur)
多くのシェリーカスクに使用されるオーク。タンニンを多く含むため、口の中が渇くような効果をスピリッツに与える。ドライフルーツ、クローブ、松脂のようなアロマももたらす。
セシルオーク/フレンチオーク(学名:Quercus Petraea)
もともとはコニャック用として使われていたが、今ではスコッチウイスキーと日本のウイスキーにも使用されている。フレーバーはホワイトオークとヨーロピアンオークの中間で、タンニン量が多く、スパイシーさもある。
ミズナラ/ジャパニーズオーク(学名:Quercus Mongolica)
希少で高価なこのオークがいま人気を集めているのは、伽羅や白檀などの香木を思わせる強い芳香性のアロマをもたらしてくれるから。他にもパイナップルやココナッツのアロマが得られる。
●カスクのサイズ
【代表的な4種】
バーボンバレル
アメリカンホワイトオークで造られ、約200ℓの液体が入る。バーボン業界は内面を充分に焼き焦がしたオークバレルの新樽以外は使用できないと法に定められている。使用済みのバーボンバレルを国内で再利用できないので、スコッチウイスキー、ジャパニーズウイスキー、アイリッシュウイスキー、カナディアンウイスキー、ラム、テキーラなどのメーカーに売却される。俗称は「ASB」「ヤンキー」など。
ホッグスヘッド
このタイプのカスクは容量が約225ℓで、アメリカンホワイトオークで造られるのが一般的である。バーボンバレルを解体し、容量を増やすために樽材を追加し、新しいヘッド(鏡板)を用いて組み上げる。スコットランドとアイルランドで貯蔵されるウイスキーのほとんどが、このサイズのカスクで熟成される。
バット
容量500ℓで、シェリーカスクとして知られている。ヨーロピアンオークで造られるのが一般的で、シェリーの貯蔵に使用された後でウイスキーメーカーの手に渡る。アメリカンホワイトオークで造られるものもある。近年では、すべてのシェリーバットがウイスキー業界の求めに応じて製造されている。
パンチョン
バットと同じ容量のカスクであるが、バットよりも丈が短く、横幅が広いのでずんぐりとしている。アメリカンホワイトオークまたはヨーロピアンオークから造られる。
マデイラドラム/ポートパイプ
容量はバットよりも大きい約650ℓ。一般的には二次熟成(フィニッシュ)に使用されるが、最近では長期熟成用として実験的に用いる蒸溜所も現れた。マデイラドラムは伝統的にフレンチオークで造られるが、ポートパイプの材料はほとんどがヨーロピアンオークである。
バリック
ワイン熟成用のカスクとして知られ、225ℓから300ℓまでサイズは様々ある。アメリカンホワイトオークまたはフレンチオークで造られる。
ゴルダ
貯蔵用として法的に認められた最大サイズのカスクで、容量は約700ℓ。ゴルダとは「太っちょ」を意味するスペイン語で、シェリー酒をスコットランドやアイルランドまで船で輸送するためにヨーロピアンオークで造られた。近年はほとんど見られない。
クォーターカスク/ブラッドタブ
ひとつが容量50ℓや40ℓという最小サイズのカスク。アメリカンホワイトオークで特注生産され、ビーム・インターナショナルがラフロイグやアードモアを短期間でフィニッシュするために使っている。別名「ファーキン」。かつては蒸溜所のプライベートな顧客用に使用され、現在もブルイックラディがウイスキーを個人所有したいという顧客のためにブラッドタブを使っている。
次回は樽による味の違いを紹介します