SWAが示す姿勢【前半/全2回】

May 22, 2013

スコッチ ウイスキー アソシエーション(SWA)は、ウイスキー業界の中で、最も影響力のある団体のひとつである。では、実際には何をしているところなのだろうか?

Report:ドミニク・ロスクロウ

「ベネズエラは有力な市場ですが、実際には今のところ市場にはなり得ません。2013年に逝去したウーゴ・チャベス(元ベネズエラ大統領)は、スコッチウイスキーの市場参入に反対しており、我々はその強硬な態度を変えようと試みましたが、ベネズエラは数多くの取引国のひとつにすぎないので、現実を見据えて優先順位をつけなければならないのです」

SWA会長 ガヴィン・ヒューイット

エディンバラのヘイマーケット地区に建つ美しいジョージ王朝風の一軒家で、南米の社会主義国の大統領といかに戦うかについての話し合いがもたれているとは、誰も想像だにしないだろう。さらに言うと、壁に数々の中国政府の社会主義のシンボルが飾られているとも思わないだろう。しかし、アソル クレッセント20番地にあるSWAの本部は、見かけとは異なっている。外観は穏やかで落ち着いているかもしれないが、内部は、静粛だが熱心な国際活動の原動力となっている。

アソル クレッセントでは大規模工事が行われていたのだが、普段は数々の教会の尖塔、戦争記念碑、スタイリッシュなピリオドハウス(欧風伝統建築様式の家)の並ぶ静かで緑の多い郊外の一角だ。しかし、新しいトラム(路面電車)システムが導入されるために、中心地の道路は引き剥がされ、いかなる常態の外観も、空気ドリルと重機械によって粉々に砕かれている。建設工事の騒音が絶えず邪魔をするので、SWAを訪ねるのも大変だった。

しかしそこで働く人々は、冷静沈着な決断によって、無数の世界情勢問題を扱うことと全く同様に、その工事によって被る不便さに対処している。彼らを混乱させるものなど何もないと感じるだろう。

それなら、なぜ我々はここに? 正直に言うと、SWAに人目を引くようなものなど何もない。もしSWAでしばし時を過ごすつもりだと3人に話したら、それぞれ3人が『幸運を祈る』と言うだろう。なぜか? おそらくその答えは、SWAが、ウイスキーの世界には輝かしい結末など望み薄だとはっきり述べているところにある。もしウイスキー業界が胸躍るような商品の詰まっている鈍く光る酒場だとしたら、ここは、冷たくていささか不毛な、コンクリートや配管が全てむき出しの貯蔵庫のようなものだ。それは、次々と湧き出てくる問題を抱えるウイスキー商品を保管することによって、難題を次々と解決している場所なのだ。そして、もしSWAがなかったとしたら、現在の品揃えよりはるかに劣った風味のスコッチが世の中に溢れ、私たちにはほんの僅かな選択肢しか残らなくなるだろう。

アルコール産業は、厳しい監視下に置かれ、重圧がかかっている。

SWAに対して世間は、英国の予算編成時期、また業界の政治的な会議の時期に、度重なるウイスキーの増税に対し、次々と非難を繰り出す組織として、また、漠然とスコットランド語のように聞こえる名のついた、ある粗末で不適切な海外の蒸溜所を、時折激しく非難する組織だと認識している。協会の『不名誉な壁』―スコットランドの名を冠し、スコットランドのイメージを抱かせる、世界中の様々な国の悪徳業者によって販売されている模造品のウイスキーのコレクション―には、時としてジャーナリストは興味を示す。だが、大体の場合、SWAは世間の注目を浴びることはない。

今日我々が高品質のスコッチを安全に楽しめるのもSWAのお陰なのかもしれない

しかし、今はSWAにとって辛く試練の時期で、数々の課題に直面している。アルコール産業は、概して厳しい監視下に置かれ、自己監視や酷評に直面し、すべての関連団体の上に圧力が重くのしかかっている。その重圧とは、世界中に広がるスコッチに対する需要や、今なお継続している景気後退が模造品を生み出す可能性を増大させること、新興の利益の上がる可能性のあるマーケットが、まだスコッチどころかウイスキーとは何かさえ定義できていないこと。そして、環境問題に対し、意欲的で積極的な業界の反応が求められていることなどだ。

この様なことすべてが、アソル クレッセントで日々繰り広げられている。

20番地は、実際にはかつて2軒だった屋敷を1軒にしたものだ。受付の空間とミーティングルームはきちんと無駄なく機能的だが、建物の中心部に向かうにつれ、だんだんと危うくなっていく。無秩序で年季の入った事務室、世界地図が張られた壁、書類が散在しているデスクなど、雑然としたところだと感じるだろう。全スタッフ32名がそこで働く。事務所内を大まかに見回ってみると、彼らが引き受けている仕事の膨大さがわかるだろう。たとえば現在のところ、SWAは、世界中の70の異なる法的措置に携わっている。また、異なる150以上のマーケットで600を越える貿易障壁に直面している。

比較的資本移転が簡単にできる時代においても、物質的な品物の移動は全くもって難しい。それでも、ベネズエラでウイスキーを売りたいのか? 何の問題もない。いったん、関税、物品税、輸入課徴金、アルコール飲料消費税、付加価値税の問題をクリアすれば、大丈夫。文章だけを読むことが退屈だと思うのなら、毎日、毎週、毎年、ひとつだけでなくいくつものマーケットにおいて、そのような問題に取り組むということを想像してみるといい。

SWAの世界へようこそ。それは、皿洗いの仕事のように単調だが、誰かがやらなければならないことだ。

スコットランドとの関連をほのめかす三流の蒸溜所をいじめる業界の敵役としてしばしば中傷されるが、SWAは実際にはスコッチウイスキーの保護とサポートという重要な役割を果たしている。

 

後半に続く

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