樽造りの美学・5 【生まれ変わる樽】

January 15, 2014

連載第5回、最終回となる今回は樽の再生について。樽は一生のうちに、何度ウイスキーを育むことができるのだろう?


スコッチウイスキー産業は、高効率化によってエネルギー消費量も低下している。それに伴って次第に環境に優しくなりつつあり、樽も引退させずに新品同様にすることが可能になった。樽の再生は1980年代後期から1990年代初期にかけて始まり、以降着実に増加している。
伝統的な引退先――植木鉢としてガーデン・センターで販売されるような――よりはるかにましだ。
だが、再生の前に先ず樽の一生を考えてみよう。樽は普通3〜4回まで使用でき、スピリッツを入れる度にファーストフィル、セカンドフィルなどの名前が付けられる。熟成中に樽がスピリッツに及ぼす影響はフィルごとに徐々に弱くなり、例えばバーボンバレルのバニラ香はファーストフィルよりセカンドフィルの方が相応に弱い。これはオーク樽からスピリッツに抽出される風味化合物の量が次第に減少し、最終的になくなって、樽が「疲弊」して熟成に適さなくなるためだ。

しかし、樽が疲弊するまでの時間には大きな個体差がある。天然の産物であるオークが不均一なため、樽の熟成力も実に様々だ。4回のフィルが可能で50年ほども使用できる樽もあれば、最悪の場合にはわずか1回のフィルで引退させなければならない樽もある(稀だが)。
その結果、樽がどのような段階にあるのか判断するにはひとつの方法しかない。まず中身を出す(空にする)たびに、入っていたウイスキーの性質を評価する。樽がウイスキーに及ぼした影響から、もう一度フィルできるほどの活性があるかどうかを見極めるのだ。
樽が疲弊したと見なされたら、次は再生できるほどの力を持っているか、あるいは在庫から外すべきかを判断する。
再生に適した樽は、ディチャーまたはリチャーと呼ばれる処理のためにクーパレッジに送られる。
ディチャーリングは樽の内側から既存の表面の層を除去することだ。
シェリー樽はトーストされた層を除去する。これらの樽は製造段階で、炎と木材の接触を避けつつ(焦がさないよう)樽の内側を炙り、ライト、ミディアム、ヘビーと規定される尺度でトーストされている。シェリー樽を初めてトーストすると、表面層におよそ2mmの深さまで影響を及ぼし、その下さらに2mmのオークも熱による影響を受けている(樽板の厚さはおよそ30mm)。
バーボンバレルの場合はチャーした層を取り除かなければならない。最も軽度の「No.1チャー」から「No.4チャー」まで、樽の最初の製造段階で様々にチャーされている。樽のチャーリングは、ガスバーナーで内部を瞬間的に発火させた後に消火して行われる。バーボンバレルを初めてチャーすると、程度によって表面から2〜4mmの深さまで影響を及ぼし、その下2〜3mmも熱の影響を受ける(樽板の厚さはおよそ27㎜)。

ディチャーリングのひとつの方法は、モーターに取り付けられた大きなワイヤーブラシが樽の内側に沿って回転しながら上下するというものだ。他に、ワイヤー製の殻竿(からざお)、つまり3〜4本のワイヤーを撚り合わせたステンレス製ロープを、樽の高さに沿って回転させるやり方もある。

ここ5年ほど利用されている最近の方法では、樽の内側に沿って動く機械仕掛けのアームの先端に大きなカッターを取り付け、これを使って内部を削っていく。
ディチャーリングは通常、「焦がした」表面を除く、即ちチャーまたはトーストした層の端まで到達することを意味する。その後、シェリー樽のトーストした表面、またはバーボンバレルのチャーした内部を、ガスバーナーの熱を使って再現することになる。そして、リチャーした樽を、例えばシェリーならスペインで最初にその樽が処理された方法を再現して、「シーズニング」する。

重要な問題は、樽はどの程度まで再生できるかという点だ。一致した見解では、例えば再生したバーボンバレルは、ファーストフィルとセカンドフィルの中間の強さで伝統的なバニラと甘さの香りをもたらすことができる。再生した樽はさらに2回のフィルに耐えると考えられ、その後はさらに再生するという選択肢もあるが、普通は2回の処理が限界だ。

追記
「ディチャー、リチャーはクーパレッジ活動の一部であり、うちの樽職人が行っている様々な仕事のほんのひとつに過ぎません」と、2カ所のプラントを運営しているスペイサイド・クーパレッジのジェネラルマネージャー ンドリュー・ラッセルは言う。

2013年3月にオープンしたスペイサイド・クーパレッジ・アロア(同名の町にある)は樽再生という目的に合わせて建設された。ディチャー用として樽の内側を削る専用の機械を含め(クライゲラヒにあるもう一方のプラントでは回転ブラシを使っている)、最新の機器を装備している。
「内側を削る機械は1分半ごとに樽1個、あるいはバットのような大きな樽であれば2分で1個を処理できます」とアンドリュー・ラッセルは言う。
「顧客が必要なチャーリングの程度を指定し、チャーリングはコンピューターで自動的に行われます。コンベアが樽をガスバーナーまで運び、樽それぞれに合わせてチャーする時間と温度を設定できます。アロアには4基のガスバーナーがあり、ひとつひとつ別の温度に設定できます」
丁寧につくられた樽を、可能な限り長くその能力を保ちながら使用する。それがまたウイスキーに良い影響をもたらすのだから、こんなに素晴らしいことはない。樽もまた生き物…様々な経歴を経ながら、ウイスキーを彩ってくれているのだ。

5回に渡ってお届けした連載「樽造りの美学」はお楽しみいただけただろうか? モノづくりの現場はいつも常人の想像を超えた哲学やこだわりに満ちている。樽が生まれ、本来の目的である熟成期間を経て、再び命を吹き込まれる過程…そのひとつひとつに、ウイスキーへの愛情と情熱が注ぎ込まれている。

カテゴリ: Archive, features, TOP, テクノロジー, 最新記事