ワイン樽といえば後熟用。そんな世界の常識に反し、ワイン樽でのフルタイム熟成がオーストラリアンウイスキーの真骨頂だ。その豊かな風味には、ウイスキーの未来を変える潜在力もある。

文:ルーク・マッカーシー

 

オーストラリアにあるすべての蒸溜所が、オリジナルの樽熟成プログラムを導入しているわけではない。それでも地元ワイナリーから入手するワイン樽に貯蔵して香味を付与する戦略は、国内ウイスキー業界で急速に広がりを見せている。

そんなオーストラリアンウイスキーの特徴を最も世に知らしめたブランドは、間違いなくメルボルンのスターワードであろう。2016年に赤ワイン樽熟成のシングルモルトを初めてリリースし、そのアプローチは定番化してきた。ディアジオのスタートアップ支援プログラム「ディスティル・ベンチャー」で資金調達したスターワードは、すでに代名詞となった赤いベリーの風味やスパイシーなオーク香を旗印に世界中の市場へ進出している。

セントアグネスのように、オーストラリアでブランデーを生産してきた著名ワイナリーは多い。そのためモルトウイスキーづくりに必要なスピリッツ蒸溜と樽熟成の知見はすでに備わっている。

だがシラーズ、カベルネソーヴィニヨン、ピノノワールなどのワイン樽でフルタイムの熟成をおこなうという判断は、決して容易なものではなかったはずだ。

「創業当初から、私たちは大きなリスクをとって事業を進めてきたという自覚があります」

スターワードのヘッドブレンダー、ジャラッド・ハクスホールドはそう語っている。

オーストラリアのウイスキーづくりでは、新世代に属するハクスホールド。もともとはワイン醸造家として研鑽を積んできた実力者だ。アデレード大学でブドウ栽培とワイン醸造の学士号を取得し、5年間ワイナリーで働いた後にウイスキーづくりへ転身している。新進気鋭のスターワードがワイン樽の熟成プログラムを開始したことは、彼にとっても完璧な転身のタイミングとなった。

「創業当時のスターワードでは、赤ワイン樽でウイスキーを熟成する経験を持っている人が誰もいませんでした。たまたまワイン造りを経験し、ヴィンテージや樽の違いを理解できていた私が、その知識をウイスキーに関連付けることができたんです。ウイスキーメーカーが求めている樽の特徴をワインメーカーに伝えようとするとき、そんな知識が役に立ちました」

ハクスホールドとスターワードのチームは、当初のアプローチに微調整を加えてきた。現在では、あらかじめワイン樽にさまざまな工夫を凝らした上でウイスキーを樽入れしている。ほとんど滴り落ちそうなほどワインが残っている通称「ウェットフィル」樽にスピリッツを充填したり、樽を削ってトーストとチャーを施したりしながら、より鮮やかで香味豊かなウイスキーを生み出しているのだとハクスホールドは言う。

「ブレンドする原酒によって、ウェットフィル樽やリチャー樽の比率を変えていますよ」
 

ワイン造りの歴史がウイスキーの香味を育てる

 
もちろん国際的に見れば、一般的なワイン樽でウイスキーを熟成させること自体に目新しさはない。過去 20 年間に、膨大な種類のシングル モルトが、あらゆる種類のワイン樽でフィニッシュされてきた。スコットランド(スプリングバンク)、アイルランド(ティーリング)、日本(マルス信州)の蒸溜所でも、オーストラリアの赤ワイン樽がウイスキーの後熟に使用されたことがある。

ならばオーストラリアのアプローチに、何か特別な要素はあるのだろうか。

「もちろん、間違いなくあります」

赤ワイン樽熟成で世界的な評価を受けてきたスターワード。心地よいタンニンが、既存のウイスキーファンを魅了している。

そう答えるのは、サリヴァンズコーヴの蒸溜所長として数々の受賞歴を誇るヘザー・ティロットだ。ティロットもまた、サリヴァンズコーヴの前にワイン造りの経験を積んできた。だからこそ、オーストラリアのウイスキー産業とワイン産業の相互作用に情熱を注いでいる。

オーストラリアの多くの蒸溜所は、ワイン樽をフルタイムの熟成に使用している。これはフィニッシュ(後熟)のみで使用するのと大きな違いがある。フルタイム熟成でしか生み出せない独特の香味があるからだ。

ティロットが説明する。

「世界市場におけるオーストラリアのシングルモルトは、酒精強化ワインを代表とする各種ワイン樽からの際立った影響を特徴としています。特にサリヴァンズコーヴでは、このようなワイン樽を後熟に使うことがほとんどありません。ワイン樽のフルタイム熟成こそ、私たちの個性なのです」

サリヴァンズコーヴでは、トウニーポートを100年間にわたって貯蔵した樽も手に入れているのだとティロットは言う。

「それくらい古いトウニー樽で熟成されたオーストラリアンウイスキーを試飲すると、脳が爆発しそうになくらい感動しますよ。とにかく香味が豊かで、ダークな要素も明るい要素もたくさん感じさせてくれます。本当に驚かされるんです」

だがその一方で、こうしたオーストラリア産の酒精強化ワイン樽はどんどん調達が困難になり、樽の価格が高騰していることもティロットは認めている。オーストラリアの酒精強化ワインの生産量は、ここ数十年で減少を続けている。これはスコットランドのウイスキーメーカーたちが崇拝するポート樽やシェリー樽と同じ運命を辿っているのだ。ティロットは語る。

「あのような酒精強化ワイン樽は、無限にあるわけではないんです。でも私たちは酒類産業という生き物のようなシステムの一部であり、歴史の流れも受け入れなければなりません。オーストラリアのワイン産業とその特殊な歴史のおかげで、現在の私たちは特徴のある樽にアクセスできます。市場の変化を自然な流れと見なし、通常のワイン樽熟成を中心としたアプローチに進んでいくべきなのでしょう。ワインメーカーと提携関係を築き、その連携を成長させ、ワイン樽が象徴するオーストリアの歴史を尊重することが大切です」

2014年のワールド・ウイスキー・アワードで、世界最優秀シングルモルトを受賞したのはサリヴァンズコーヴのシングルカスク商品だった。そのウイスキーを熟成したのが古いトウニー樽だったことを考えると、ティロットの言葉には深い含意がある。トウニー樽の出処は、オーストラリア屈指の歴史を誇るマクウィリアムズ・ワインズだった。そのマクウィリアムズも2020年に任意整理に入り、最近買収されて141年の家族経営に終止符を打った。これもまた時代の流れなのだろう。

ワインメーカーと同様に、ウイスキーメーカーも消費者の嗜好の変化には敏感だ。ワイン樽熟成のウイスキーが生み出す風味が、ウイスキー愛飲家にどう受け止めるか興味は尽きない。だがワインとウイスキーの業界同士で協力し合えば、コラボレーションの可能性は無限に広がる。そこから未来のオーストラリアンウイスキーが、独自のスタイルを確立してくる可能性に期待したい。