ウイスキーブランドには、ある種の人格が宿っている。それを体現するキャラクターは、現代のマーケティングに不可欠な存在だ。広告塔となった人々の歴史を振り返る。

文:クリス・ミドルトン

 

ウイスキーのブランドマネージメントが重視されて以来、さまざまな人々がコマーシャルに起用されてきた。起用する人物の説得力よって、消費者の信頼や社会的な信用を得るという高度なブランディングの技法である。その人物のオーラが、ウイスキーブランドのトレードマークとなることも少なくない。ウイスキーのプロモーションで、特にパワフルな信頼感の源となる広告塔には3種類の人々がいる。すなわち王族、医師、著名人だ。
 

王室御用達

 

英国の王族は、「ロイヤル・ワラント」という令状を発行することによって特定の商品を購入できる。いわゆる王室御用達の指定が、製品やサービスの品質を保証する大きな名誉であることは言うまでもない。王室御用達ブランドとして認められることは、現代のSNSマーケティングにも匹敵する絶大な影響力をもたらす。それは並外れたオーディエンスの牽引力だ。

英国王室御用達を示すロイヤル・ワラント。英国のみならず、世界中に誇れるステイタスだ。

英国王室が関心を持った最初のウイスキーはグレンリベット。英国王ジョージ5世が、1822年にエディンバラを訪れた際にその味わいに魅せられたという。

だが王室御用達ウイスキーの第1号は、英国王ウィリアム4世が1835年にワラントを発行したブラックラだ。それ以来、ブラックラはロイヤルブラックラと名乗ることを許されている。

次いで1843年にはビクトリア女王がシーバスブラザーズにワラントを発行し、シーバスリーガルという名称の私用を許可した。同社は、その後1953年に女王エリザベス2世からロイヤルサルートも御用達の指定を受けている(リーガルもロイヤルも王室を意味する)。

また国王によるものではないが、1994年にはチャールズ皇太子(プリンス・オブ・ウェールズ)が、デュワーズ、ジャステリーニ&ブルックス(J&B)、バランタイン、ジョニーウォーカー、フェイマスグラウス、ラフロイグを王室御用達にしている。
 

医師による推薦

 
20世紀初頭まで、ウイスキーは薬品として処方されていた。そのため医師による公然とした推薦は、王室御用達にも似た威厳と信用をウイスキーブランドに授けてくれた。「リチャード・ストートン博士の秘薬」が1712年に英国で特許医薬品となって以来、医薬品業界はスピリッツをある種の万能薬として売り始めた。

かつては医療用として医師のお墨付きを得たオールドフォレスター。禁酒法などの複雑な時代も乗り越えてきた。

1812年の英国薬用食品法や1862年の米国歳入法の制定を受けて、大幅に減税されたアルコール医薬品にはまがい物が増えて有名なスキャンダルに見舞われるようになった。もっとも悪名高い事例は、ライウイスキーを加工した「ダフィーズ・ピュアモルトウイスキー」である。ウォルター・ダフィーという人物が、架空の医師100人を捏造して出鱈目をでっち上げ、数人の医師に賄賂を贈って新聞広告で誇大広告を打った。

他の多くのメーカーは、信頼できる地元の医師に推薦を頼んでいた。そんな医師の例が、ルイビルの外科医ウィリアム・S・フォレスター博士だ。博士は1870年からケンタッキー州の薬局で販売されていたバーボンのオールドフォレスターを医療用ウイスキーとして絶賛した。米国医務総監は、1880年にオールドテイラーなどのウイスキーブランドを公式医療用ウイスキーの仕入先に指定している。

米国では、医療用ウイスキーが薬理学の規格で薬品に再分類された。その一方では、禁酒法時代にも64,000人以上の医師が4000万ガロン(1億5000万リッター)に相当するアルコールを薬用酒として処方したというデータがある。20世紀初頭には、各国で誤った治療法の普及を禁止する法律が制定された。
 

広告塔となった著名人

 
マスメディアとマスマーケットの時代に入ると、俳優、スポーツ選手、ミュージシャンといった著名人が消費者の生活で身近な存在となる。ウイスキーブランドの数も急増するに従って、マーケティング担当者たちは他社との競争に勝ち抜こうと知恵を絞り、こぞって著名人を広告塔に起用し始めた。もちろん知名度の高さは、そのまま出演料の金額に直結する。

スコットランド出身のショーン・コネリーだが、ジムビームの宣伝にも一役買った。

ウイスキー業界に引っ張りだこだった俳優といえば、ジェームズ・ボンドのイメージが定着していたショーン・コネリーだ。1966~1974年はジムビームの広告に登場し、1992年にはサントリーも起用した。2004年からは、初めて故郷スコットランドのブランドであるデュワーズをサポートした。著名人の起用に熱心だったジムビームの広告には、ベティ・デイヴィスやレオナルド・ディカプリオらが次々と登場している。

日本の市場は他国の消費者の目に触れにくいことも手伝って、ミッキー・ローク、レイ・チャールズ、マット・ディロン、キアヌ・リーブスらの大物がサントリーやニッカの宣伝に一役買っている。1970年代には、いわゆるシナトラ一家と呼ばれたグループからサミー・デイビス・ジュニアとピーター・ローフォードもサントリーの広告に出演した。

ミラ・クニスを広告に起用していたワイルドターキーは、その後任にマシュー・マコノヒーを起用。マコノヒーはプレゼンターおよびクリエイティブコンサルタントを務めている。

スコッチウイスキー業界では、オールドアンガスが1951年にサルバドール・ダリを起用して話題になった。またジョニーウォーカーが仕掛けた近年のキャンペーンにはクリスティーナ・ヘンドリックスが登場している。またデービッド・ベッカムは現在のヘイグクラブの顔を務めている。
 

著名人による出資

 
ここ20年ほどの新しい傾向として、著名人がウイスキーブランドに出資する動きも見られている。ボブ・ディランは、ナッシュビルの蒸溜所に出資して「ヘヴンズ・ドア」を発売したのが大きな話題になった(メイン写真)。

マシュー・マコノヒー(右)とワイルドターキーのエディー・ラッセル(マスターディスティラー)。マコノヒーはクリエイティブコンサルタントも務めている。

アイルランドの格闘家コナー・マクレガーは、アイリッシュウイスキー「プロパー No.12」をプロデュースしている。またドラマ『アウトランダー』で人気者になったサム・ヒューアンは、自身のスコッチブレンデッドウイスキーブランド「ザ・ササナック」を立ち上げた。

ウイスキー以外のスピリッツを含めると、さらに多くの著名人が新しい独自のブランドに出資している。ハリウッド映画の大スター、ジョージ・クルーニーは、高級テキーラブランド「カーサミーゴス」を手掛けている。ロック様ことドウェイン・ジョンソンは、昨年テキーラブランド「テレマナ・テキーラ」を立ち上げ、9ヶ月で30万ケースという驚異的な売り上げを記録した。

著名人の影響力を利用したスピリッツ事業が、将来有望な投資であることは間違いないようだ。ジョージ・クルーニーのテキーラ事業には、2017年だけでディアジオが10億ドル(約1100億円)も投資している。今年もプロキシモがコナー・マクレガーのウイスキーに6億ドル(約680億円)を支払ったばかりだ。