世界最高のポットスチル【前半/全2回】

April 24, 2017

ウイスキーづくりの象徴ともいえる銅製のポットスチル。その生産者として、おそらく世界一の知名度を誇るのがスコットランドのフォーサイス社だ。リチャード・フォーサイス会長がウイスキーづくりの過去と未来を語る2回シリーズ。

文:ガヴィン・スミス

 

どんな蒸溜所でも、生産機能の心臓部といえば蒸溜棟(スチルハウス)だ。そこは本当のマジックが起こる場所である。カリブ海のラム蒸溜所や、メキシコのテキーラ蒸溜所でもいい。バリンダロッホ、アイルサベイ、台湾、タスマニアなど世界中のウイスキー蒸溜所ならもっと確実だろう。蒸溜棟に足を踏み入れた瞬間、すぐ目に飛び込んでくるのは光り輝く銅製のスチルである。そのスチルの多くを製造しているのが、「ロセス村のフォーサイス社」だ。

スコットランド北部、スペイサイドのロセス村には3軒のウイスキー蒸溜所がある。そして何より、世界中の酒造メーカーにスチルを供給している有名な工場があることでも知られている。その名は「フォーサイス」。ここ数十年の間に世界的な名声を集めたフォーサイス社は、今でも専門の職人たちとともに家族経営を続けている。

フォーサイス社の会長は、リチャード・フォーサイスだ。社長を務める息子のリチャード・ジュニアと一緒に会社を経営している。父親のほうのリチャードに、会社の成り立ちを教えてもらった。v

「私の祖父にあたるアレグザンダーが、1890年代にロバート・ウィルソンの見習いになってスチル製造の世界に入りました。それが、そもそもの始まりです」

やがて師匠の跡を継いだアレグザンダー・フォーサイスは、1933年にウィルソンが引退すると事業を引き受けて買い取る。アレグザンダー・フォーサイス&サン社が誕生した。

アレグザンダーの息子であるアーネストは、ロセス村の人々に「トゥート」と愛称されていた人物だ。戦争が終わると父の事業を受け継ぎ、リベットを打ってスチルのパーツを組み合わせる古来の手法を廃し、新たに溶接技術を採用した。

1960年代後半になると、アーネストの息子であるリチャードとウィリアムの兄弟が家業に関わるようになる。1970年代半ばには、リチャードが経営の主導権をとるようになった。

「父の工房で、13〜14歳の頃にはもう働き始めていました。当時から自分がやりたい仕事はこれだと決めていたので、もう職歴でいったら50年以上になりますね」

リチャードが当時のことを回想しながら、会社の成長を振り返る。

「1970年代と、1980年代前半は景気の悪い時期でした。エネルギー消費を抑えるために大規模な規制がおこなわれて、産業界の不安が高まっていました。たくさんのスコッチウイスキー蒸溜所が閉鎖されていくなかで、業務の幅を広げなければならないと決断しました。1980年代になって製紙工場の分野にも進出して、大規模なエンジニアリングや設計にも関わったのです。それでも同じ1980年代に、韓国で3軒の蒸溜所建設を手がけたりしました」

 

ウイスキーの盛衰と事業の変遷

 

世界のウイスキーファンにその名を知られたフォーサイス社だが、蒸溜酒用の設備以外におこなっている業務についてはあまり知られていない。

「産業界の変遷もあって、1990年代には石油ガス産業に参入していくのが理想だと考えるようになりました。2005〜2006年頃までに、石油、ガス、ウイスキーのビジネスはかなり好調になって会社の規模も大きくなりました。そこでバッキーハーバーの工場用地を買って、石油ガス関連の仕事をそっちに移すことにしたんです」

本拠地のロセス村では、隣接地で廃業していたキャパドニック蒸溜所を2010年にシーバスブラザーズから購入。そのまま解体工事も引き継いだ。当時をリチャードが振り返る。

「スチルやマッシュタンは売却しましたが、それでも蒸溜所を解体するのに300,000ポンドもかかってしまいました。使い古された2棟の貯蔵庫はそのままにして、現在は貸し出しています。他の場所はすべて会社の拡張に使いました」

石油ガス関連のビジネスは、今でも続けているのだろうか。

「数年前に石油ガス関連で大きな案件を請け負ったときは、石油ガスとウイスキーの割合が7:3ぐらいでした。でも現在は7:3でウイスキーのほうが優勢です。製紙業界とはもう付き合いがありません。スコットランドだけでなく、世界のウイスキー業界からの依頼が増えてきました。ここ7〜8年で、3〜4倍の売り上げになっています」

65歳の誕生日にも働いていたというリチャード・フォーサイスは、まだまだ引退を考えていないようだ。

「会社は現在とても忙しいので、まだ一生懸命働いていますよ。マッカランとの契約を直接担当しているので、少なくともその仕事が一段落する2018年半ばまではここにいるはずです」

ザ・マッカランとの契約というのは、同蒸留所が現在の工場の他に、まったく新しいマッカラン蒸溜所を建設する計画である。フォーサイス社は、この建設計画の主要な請負先なのである。

「フォーサイスはあらゆることに責任があります。スコッチウイスキー業界史上最大規模の建築プロジェクトで、我が社にとっても総額1億3000万英ポンドに及ぶプロジェクトですから。マッカランのために36基のスチルを製造します。すべてが現在稼働中のスチルと同じ仕様のレプリカです。ザ・マッカランだけでなく、グレンフィディックやザ・グレンリベットの大規模な生産拡張計画にも関わっています。グレンリベットには14基のスチルを製造する予定です」

(つづく)
 

 

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