日本の焼酎樽で熟成した世界初のスコッチウイスキーが誕生

September 17, 2019

ハイランドのトマーティン蒸溜所が生産するシングルモルトウイスキー「クボカン」。このたび発売された限定商品の熟成には、なんと日本の焼酎樽が使用されているという。蒸溜所長のグレアム・ユーンソンとブランドマネージャーのロレイン・ワデルに経緯を聞いた。


 
聞き手:ステファン・ヴァン・エイケン

 

クボカンは、8月末にボトルデザインと商品ラインナップを一新しました。「トマーティンは知っているけど、クボカンは知らない」というウイスキーファンのために、まずはクボカンの背景について教えていただけますか?

 

「クボカン」はトマーティン蒸溜所が毎年1ヶ月だけ蒸溜するスピリッツでつくられる。「トマーティン」とは異なり、軽やかなピート香を表現したバランスでまとめられたシングルモルトだ。

ロレイン・ワデル:クボカンが初めて生産されて、全世界で販売されたのは2013年のことです。まず明確にしておきたいのは、クボカンが決して「ピートの効いたトーマティン」ではないということ。同じトマーティン蒸溜所でつくられていますが、完全に別個のブランドだとご理解ください。トマーティン蒸溜所では、1年のうち11ヶ月はシングルモルト「トマーティン」用にニューメイクスピリッツをつくっています。冬の1ヶ月間だけ、このラインを止めて「クボカン」用のニューメイクスピリッツづくりに専念します。両者は生産工程が大きく異なり、蒸溜時のカットポイントも変えています。クボカンのラインナップは「トマーティン ハイランド シングルモルト」とは異なるライトリーピーテッドのモルト原料を使用しています。そして熟成用の樽のスタイルもまったく異なるのです。
 

トマーティン蒸溜所がピーテッドモルトでウイスキーをつくり始めたのはいつのことですか?

 

グレアム・ユーンソン:近年の歴史でいえば、2005年12月からピーテッドモルトを使ってスピリッツを蒸溜しています。

 

ピーテッドモルトのフェノール値はどれくらいですか?

 

グレアム・ユーンソン:クボカンのスピリッツに使用するモルトのフェノール値は約15ppmです。これはクボカンの生産を開始した2013年から変更していません。
 

年間の生産量でいうと、ピーテッドモルトの割合はどれくらいですか?

 

グレアム・ユーンソン:平均で約8%です。ただし年間の総生産量によって数字が上下します。

 

新しいクボカンのラインナップを見ると、まず「シグネチャー」 があって、さらに「クリエーション #1」と「クリエーション #2」があります。これは「シグネチャー」 が恒常的な商品で、「クリエーション」が今後も続く限定商品のさきがけということですか?

 

やや難解だった「ゴースト・ドッグ」のイメージを脱却し、新しく生まれ変わったクボカンのボトルデザイン。有機的な形状とエンボスが、軽やかなピート香と実験精神あふれるウイスキーの特性を表現している。

グレアム・ユーンソン:「シグネチャー」は、現行商品と同様の内容です。「クリエーション #1」と「クリエーション #2」は年に一度の限定リリースなので、売り切れ御免の商品となります。これからも同様の独創的なウイスキーをリリースしていく予定です。実験的な樽熟成を取り入れたユニークなフレーバーをお楽しみください。

 

「シグネチャー」の中身は、これまでのクボカンのスタンダード商品と同じものですか?

 

グレアム・ユーンソン:おっしゃる通りです。中身は完全に同じものです。

 

まだクボカンを未体験の人に説明するなら、「シグネチャー」はどんな風味のプロフィールを持ったウイスキーですか?

 

グレアム・ユーンソン:軽やかなピート香が、リッチな柑橘やエキゾチックなスパイスに融合した味わいのウイスキーです。

 

2つの「クリエーション」は、非常に特徴的な2種類の樽材をマリッジさせて風味を仕上げているようです。このようにユニークな組み合わせはどうやって発見するのでしょうか?

 

グレアム・ユーンソン:新しいクボカンのラインナップは、すべて「繊細なスモーク香と甘味の完璧なバランス」というテーマを念頭に置いています。そのなかで「クリエーション」は革新的な熟成で興味を持っていただき、驚きをもたらす実験的なハイランドのシングルモルトを模索しています。これからのラインナップでも、同様のマリッジを駆使した変わり種のフィニッシュを取り入れていく予定です。例えば今回のような「ブラックアイルブリュワリー・インペリアルスタウト」のビール樽と「モスカテル・デ・セトゥ-バル」のワイン樽。あるいは日本の焼酎樽とヨーロピアンオークの新樽。そんな組み合わせをこれからも模索していきます。
 

「クリエーション #2」についてうかがいます。日本国外のウイスキー蒸溜所で焼酎樽が使用されるのは、史上初めてのことだと思います。これはどんな種類の焼酎を貯蔵していた樽なのですか?

 

グレアム・ユーンソン:連続蒸溜でつくった麦焼酎を熟成した樽です。樽自体はトマーティンの主要株主である宝酒造から調達しました。
 

ピート香のあるスピリッツを焼酎樽で熟成すると、どんな効果が得られるのでしょうか?

 

新発売の「クボカン クリエーション #2」。ラベルには「Matured in Japanese Shochu Casks」と明記されている。

グレアム・ユーンソン:「クリエーション #2」のフィニッシュでは、その84%に日本の焼酎樽を使用しています。だからこのウイスキーのフレーバーは、かなりの部分が焼酎樽の影響から成り立っているといえるでしょう。日本の焼酎樽を単体で使用すると、クボカンのスピリッツにユニークな高揚感が加わります。フルーツキャンディーやフレッシュなライムのような感触ですね。同時に焼酎樽は、クボカンが持つ土っぽい特性をうまく引き出してくれました。でもフィニッシュのエーテル感が強すぎるので、ヨーロピアンオークの新樽で熟成した原酒とマリイングさせて深みを加えました。こうすることで、日本の焼酎樽からもたらされる風味の余韻が舌の上で長く感じられるようになるのです。
 

ひょっとして、ノンピートのトマーティンでも焼酎樽で熟成しているものはありますか?

 

グレアム・ユーンソン:ご明察です。ほんの少量ですけどね……。今後の展開をご期待ください。
 

もう一方の「クリエーション #1」は、どんなフレーバーのウイスキーですか?

 

グレアム・ユーンソン:これはクボカンのスピリッツを2種類の樽で熟成してマリイングしたものです。使用したのは「ブラックアイルブリュワリー・インペリアルスタウト」のビール樽と「モスカテル・デ・セトゥ-バル」のワイン樽。甘くてバターのような舌触りがあり、オレンジマーマレードやエスプレッソコーヒーのような風味も感じさせます。
 

クボカンのブランドデザインを一新した理由を教えてください。これまでのスタイルを変えようと考えたタイミングはいつですか?

 

ロレイン・ワデル:2018年のはじめに、世界中の市場で主に消費者を対象とするリサーチを実施しました。クボカンのブランディングについてアンケートをとったところ、一時の勢いを取り戻すには新しい戦略とポジショニングが必要だとわかったのです。新しいブランディングの狙いは、極めて実験的なウイスキーを前面に打ち出すこと。そのように実験的なウイスキーを、ちょうどクボカン用につくっている最中だったのです。
 

キャップにもクボカンブランドを表現したメッセージが刻印されている。「スモーク香と個性的な樽熟成の妙技が織りなす繊細な味わいをお試しあれ」。

これまでのブランディングの評価についてお聞かせください。クボカンの魅力を伝えていくには、どんな部分が不足だと考えたのでしょうか?

 

ロレイン・ワデル:神話的な「ゴーストドッグ」の物語を打ち出したブランディングが、世界中の消費者にうまく浸透できない限界を感じていました。クボカンのシングルモルトが、どんな特性を持ったウイスキーなのかを明確に伝えることができていなかったのです。この問題を解決するため、新しい戦略では商品の特性を伝えることを第一の目標に据えました。フレーバーの個性と実験精神を大切にした、軽やかなピート香のシングルモルトであるという事実をはっきりと打ち出す方向性です。
 

新しいパッケージのコンセプトについて教えてください。どのようなプロセスでこのようなデザインになったのですか?

 

ロレイン・ワデル:プロジェクトが本格的に始動したのは2018年2月で、このたび2019年8月に公開されたばかりです。クボカンの繊細なスモーク香と樽熟成が織りなす実験精神を表現するため、クボカン専用のボトルを使用することにしました。有機的な形状に、煙が立ち上るイメージを盛り込んだ実験的なガラス加工が特徴です。紙箱には細い金箔と階段のようなエンボス模様をあしらって、ユニークなボトルのデザインを拡張しました。ピートで付けた斑点は軽やかなスモーク香をイメージして、ナチュラルな本物の品質を表現しています。

 

 

 

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