ウイスキー業界では、地球環境に配慮したさまざまな変革が進行中。ハイランドを代表する華やかなシングルモルトウイスキーが、アフリカのキリンを保護する理由とは?

文:WMJ

 

ハイランド北部のテインで、1843年からウイスキーをつくり続けているグレンモーレンジィ蒸溜所。フルーティーでフローラルな酒質と、おなじみビル・ラムズデン博士が主導する樽熟成へこだわりが世界中のウイスキーファンを魅了している。

シングルモルトウイスキー「グレンモーレンジィ」の独特な味わいは、ポットスチル(蒸溜器)の形状と深い関係がある。創業時からスコットランドでもっとも背の高い蒸溜器を使用しており、5.14mという高さはキリン(成獣)の体高とほぼ同じ。長い首の内部で蒸気の還流を促すことによって、繊細で華やかなアロマをスピリッツに授ける。

そんなグレンモーレンジィが、ブランドとゆかりの深いキリンの保全活動に乗り出した。スコットランド王立動物学協会およびキリン保全財団と3年に渡るパートナーシップを結び、世界キリンの日にあたる2020年6月21日(日)から絶滅危惧にあるキリンの保全活動をスタート。今後2022年末まで、さまざまな形でプロジェクトをサポートしていく予定だ。
 

「静かなる絶滅」が危惧されるキリン

 
キリンの体高は、オスが5.3mで、メスが4.3mほど。体重はオスが1,200kg、メスが830kgという地球を代表する大型哺乳動物だ。木の葉、若芽、小枝などを主食とし、果実や草本を食べることもある。アフリカ大陸サハラ以南の21か国に生息が確認されており、平均的な寿命は約25年。ちなみに全力で走ると時速50kmも出る。

アフリカ南部を中心に生息するキリンには、9つの亜種がある。だが人間の増加、政治背景、密猟、家畜の過放牧、気候変動などの理由によって、過去30年間でその生息数を30%以上も減らしてきた。現在の頭数は約11万頭弱で、アフリカに生息するゾウの約4分の1ほど。国際自然保護連合(IUCN)が、絶滅危惧の恐れのある種としてレッドリストに含めている。特に希少な亜種であるヌビアキリンは、ウガンダを中心に3,000頭しか生息していないと言われており、「危急」に相当する深刻な絶滅の危機。他にも複数の亜種が「絶滅寸前」と「絶滅危惧」に指定されている。

大草原で高い木の葉を食む優雅なキリンの姿は、アフリカの象徴として愛されてきた。大型哺乳動物のなかで特に絶滅の危険性が高いものの、ゾウ、サイ、ライオンなどの影に隠れて、危機的状況には大きな関心が向けられてこなかった。近年では若干の頭数回復が見られるものの、大きな改善への道のりはまだ程遠い。専門家は「静かなる絶滅」を警笛している。
 

重要な2団体の活層をサポート

 
グレンモーレンジィは、キリン保全財団(GCF)へのサポートとして、獣医、エキスパートスタッフ、設備への投資をする。GCFはキリンたちの生息環境の整備を充実させ、密猟からキリンを守ることができる。またキリンたちにGPSを取り付け、その行動や生息パターンを研究しながら、アフリカを拠点とする保全活動家たちのトレーニングやその活動をサポートする予定だ。

高さが5.14mのポットスチルは、キリンの体高とほぼ同じ。ユニークな形状が華やかな酒質を生み出し、グレンモーレンジィのアイデンティティとなっている。

キリン保全財団は、アフリカ全土の政府、大学機関、地方団体、国内外の保全団体とともに、キリンの保全管理や支援をおこなう国際動物保護団体。2009年にジュリアンとステファニー・フェネシー夫妻が設立し、本拠地はナミビアにある。シドニー大学で生物学の博士号を取得したジュリアン・フェネシー博士は、20年以上もキリンの生体研究を続けてきた専門家。国際自然保護連合(IUCN)で専門家グループの座長も務め、ヨーロッパ動物園・水族館協会の保全アドバイザーも兼任している。

またスコットランド王立動物学協会は、グレンモーレンジィとのパートナーシップ期間内にエディンバラ動物園内にキリンを迎え入れ、その生態を研究するとともに絶滅に瀕しているキリンの状況を世界に発信していく。エディンバラ動物園が世界唯一の遺伝子研究設備を備えた施設であることを活かし、野生キリンの生体や繁殖について研究しながらGCFの保全活動に役立てる予定である。

なおグレンモーレンジィは、キリン保全活動を象徴する限定商品も発売する。グレンモーレンジィを象徴する定番「グレンモーレンジィオリジナル」が、キリン柄のケースに入ったギフトボックスとして2020年末に登場予定だ。

地球の環境を守るため、ウイスキーメーカー各社がさまざまな努力を進めている。ウイスキーマガジンでも、このような業界の取り組みを応援していきたい。