シングルモルトのパイオニア「グレンフィディック」を味わう【後半/全2回】

March 28, 2019

世界で初めてシングルモルトを普及させ、今なお家族経営で独立を守るグレンフィディック。グローバルブランドアンバサダーのストゥラン・グラント・ラルフ氏とともに、豊かなラインナップを味わおう。

文:WMJ

 

世界180カ国以上で愛飲され、数々の栄誉あるアワードを受賞してきたグレンフィディック。今回日本にやってきたのは、グローバルブランドアンバサダーのストゥラン・グラント・ラルフ氏だ。スペイサイドに生まれ、バーテンダーの経験も豊富な彼がグレンフィディックのウイスキーづくりについて詳細に解説してくれる。

蒸溜所が密集するスペイサイドのなかでも、ダフタウンは特にウイスキーづくりに最高の環境だ。グレンフィディックが仕込みに使うロビーデューの泉は、山岳地の雪解け水が石灰岩の地層で濾されたミネラル豊富な名水。創業時に1,200エーカー(500万平米弱)もの水源地を買い上げたウィリアム・グラントには、間違いなく先見の明があったといえるだろう。

現在のモルトマスターは、6代目のブライアン・キンズマン氏。あらゆる工程を内製化しているグレンフィディックは、昔ながらの手づくりを守るため、スペイサイドの蒸溜所では最多となる250人以上を雇用している。

1957年に入社した蒸溜器職人のデニス・マックベイン氏は、スコッチウイスキーの生けるレジェンド。10年前に引退したが、今でも蒸溜所を訪れてスチルの状態に気を配っている。

ストゥラン氏が、個性豊かな同僚たちの横顔を紹介してくれる。マッシュマンのアリ・バッケン氏は、クラシックカーを自作するほどの機械マニア。スチルマンのジョージ・ガリック氏は、自分の父親が建てた蒸溜棟の番人だ。デニス・マックベイン氏は1957年入社の蒸溜器職人で、スチルを叩いた音を聞けば交換時期がわかる。イアン・マクドナルド氏は、もうすぐ勤続50周年を迎える小柄で頑健な樽職人。熟成庫番のマイク・ドーソンは、最高の原酒の在り処を誰よりも熟知している人物だ。

ウイスキーづくりは、発酵工程で最初の大きな山場を迎える。木製のウォッシュバックに投入した麦汁が長めの発酵時間でアルコール度数を10%以上にまで高め、青リンゴや柑橘のようなグレンフィディックらしい香りがもろみに備わる。

大規模蒸溜所にそぐわない小型スチルも、グレンフィディックのシンボルだ。ウィリアム・グラントが使った初代のスチルとまったく同じ寸法で、ボール型とランタン型の組み合わせも不変。今では珍しい伝統的な直火加熱も守っている。

 

グローバルブランドアンバサダーと一緒にテイスティング

 

ストゥラン氏の手引きでテイスティングが始まる。まずは1963年に生まれた定番品「グレンフィディック 12年 スペシャルリザーブ」だ。おなじみグリーンの三角ボトルは、ロンドンの地下鉄も設計したハンス・スフレーヘルによるデザイン。水、麦芽、風土の三要素を表現したユニークなフォルムなのだとストゥラン氏が説明する。

「グレンフィディック 12年 スペシャルリザーブは、バーボン樽熟成原酒とオロロソシェリー樽熟成原酒をヴァッティングしています。長時間発酵で生まれるフルーツ香がはっきりと感じられ、宵の口に飲むハイボールに最適。洋ナシのスライスやレモンツイストなどを添えると味わいが引き立ちますよ」

グレンフィディックは、1998年から容量2,000Lの木製桶で3ヶ月以上原酒を寝かせる革新的な行程を採用している。これはシェリーを熟成するソレラシステムの応用だ。常に半分以上を桶内に残すので、うなぎのタレのように長期熟成原酒を受け継いでブレンドに深みが加わる。

シェリーのソレラシステムをヒントにした独自の後熟行程。最初に入れられた原酒がいつまでも残って熟成に深みを与える。

このシステムから生み出された「グレンフィディック 15年」は、原酒の構成も面白い。バーボン樽熟成原酒、シェリー樽熟成原酒、そしてオーク新樽の熟成原酒を融合させた味わいだ。

「バーボン樽はハチミツやオレンジの香り。シェリー樽はリッチなフルーツ香や長い余韻。そして新樽はフレッシュで乾いたオークの香りを生み出します。このウイスキーはチェイサーといっしょにストレートで楽しみ、ダークチョコレートと合わせるのがおすすめですね」

その名の通り小ロットでつくられた「グレンフィディック 18年 スモールバッチリザーブ」は、「12年 スペシャルリザーブ」と同じバーボン樽原酒とシェリー樽原酒を使用。だが熟成期間を延ばすことによって、グレンフィディックらしさが凝縮されている。

「原酒を6ヶ月間後熟して、バランスのとれた融合感を表現しました。スペシャルリザーブが食前酒なら、こちらは食後酒にぴったりです」

最後に味わった「グレンフィディック 21年」は、バニラやトフィーを思わせるクリーミーな甘さが素晴らしい。バーボン樽の熟成原酒を多めにして、カリビアンラム樽で4ヶ月間フィニッシュした芳醇な仕上がりだ。

「自社内に樽工房を抱えているおかげで、ラム樽も独自にシーズニングしています。バナナ、イチジク、タバコ、少し酸化したフルーツなどの重層的な熟成感があり、夜の締めにふさわしいウイスキーですね」

それぞれのボトルに革新的な工夫がある。だが核となるフルーティーな特性にブレはない。世界屈指の出荷量を誇りながら、今なお家族経営を続けるグレンフィディックの底力が感じられるテイスティングだった。

「伝統を保持して職人技を重んじる。その一方で、新しい挑戦も忘れてはならない。6代目モルトマスターのブライアン・キンズマンはいつもそう語っています」
シングルモルトの分野を切り開いたグレンフィディックは、これからも新しい挑戦で私たちを驚かせてくれるだろう。

 

シングルモルトウイスキーのパイオニア「グレンフィディック」の歴史、こだわり、商品ラインナップなどを網羅した公式ホームページはこちらから。

 

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