Lost Distilleries―ストロネム蒸溜所
オークニーの失われた蒸溜所を訪れる。
Report：ガヴィン・D・スミス
オークニー諸島への多くの訪問者は島の首都カークウォールの郊外にあるハイランド パーク蒸溜所に足を運び、さらに熱心なウイスキー愛好者はハイランド パークから見える距離にあるスキャパ蒸溜所を訪れる。
今残存しているこれらふたつの蒸溜所の他に、1820年代にはカークウォールとその郊外には認可を受けた蒸溜所が6つもあり、オークニーで2番目に大きい街ストロムネスにはふたつもあった。このストロムネスの蒸溜所のひとつは1825年から1831年という短期間の操業だった。もうひとつの、より大きな蒸溜所は20世紀に入ってもしばらくの間操業していた。
この蒸溜所は1817年にジョン・クルックシャンクスにより港の近くに建設され、ストロムネス蒸溜所と名付けられたが、商品は長年にわたり、オークニーの最も有名な史跡であるホイ島沖の砂岩柱の名を取ってMan O’Hoyとして販売されていた。
ストロムネス蒸溜所は1867年に閉鎖されるまで、その所有者が6人も代わったが、1878年にマクファーソン兄弟がこれを復興、操業を再開して蒸溜所自体をMan O’Hoyと改称し、その商品をオールド・オークニー（Old Orkney＝「OO」）として販売した。
マクファーソン兄弟はMan O’Hoy蒸溜所を1900年から1910年ごろまで操業し、その後同蒸溜所はベルファーストに本拠を置くJ&Jマコンネル社に買収され、同社はこれをロンドンの子会社マコンネル･ディスティラリー社を通じて操業した。
しかし第一次と第二次世界大戦の合間の厳しい経済状況により、同蒸溜所は1928年に閉鎖を余儀なくされた。その後、一時期ブース・ディスティラリーズ社の所有となったが、1940年代に蒸溜所の建物が解体され、その跡地は最終的に地元自治体の公営住宅になった。
蒸溜所が閉鎖された後もオールド・オークニーブランドのウイスキーは、最初はシングルモルトとして、その後ブレンドとして1930年代になってもしばらくの間ボトリングされ、一方「Old Orkney Relics」のラベルが貼られたボトルも発売された。これらのボトルにはオールド・オークニーの最後に残ったいくつかのカスクからのシングルモルトを含むブレンデッドウイスキーが入っていた。
アルフレッド・バーナードは1880年半ばにここを訪れた時、ストロムネスを「英国内で最も遠隔地にある蒸溜所」と評し、小さな古風な蒸溜棟には各々300ガロンが入る2基の小型で古いポットスティルがある。そのひとつで変わった形の密造業者が使っていたポットは旅行中に見た中では最も古風なもので、以前は名の知れた脱法者の所有物だった。そのボディはカボチャのような形をしており、スピリッツが吹きこぼれないようにするために大きさがその4分の1ほどの同じような形状をした容器で覆われ、そのなかをネックが通りスティルのトップに達する。
「同蒸溜所のウイスキーは需要が旺盛なスコットランドで販売されており、年間生産量は7千ガロンである」と記述している。
ストロムネス蒸溜所がいかに「専門的」だったのかは、バーナードがハイランド パークの年間蒸溜量を5万ガロンと記録している点に留意する価値がある。第一次世界大戦前に書かれたものだが発行日がない「Farthest North」という表題の冊子をJ&Jマコンネル社が作成した頃にはストロムネスはすでに整備・拡張されていた。
その無名の作者は「ストロムネスの所有者はその旧式な設備のなかで良いウイスキーをつくる古い生産体制を一切阻害せずに近代化できるものはすべて近代化している。この蒸溜所の本質自体は人手では変えられない。岩を削って作った空間、小型の古いスティル（今でも残ってはいるが、同じ様式のより大きな設備に置換され使用されていない）……」と書いている。
さらに、この作者は「おそらくこの古風な蒸溜所のなかで最も古風な部分はウォッシュバックの下の空間だと思われる。ここは蒸溜所全体で最も古い部分と言われている。この部屋には低い円天井のチャンバーがあり、硬い岩を削って作られている。昔は密造業者や脱法者が彼らのスティルやマッシングハウスとして使っていたと言われている」
ストロムネス蒸溜所があった場所に建てられている公営住宅のひとつに、長年にわたりオークニー諸島出身の著名な作家、ジョージ・マッカイ・ブラウンが住んでいた。
現在のウイスキーとの関連について言えば、ストロムネス蒸溜所はOld Man of Hoyの商品名で販売された、カスクストレングスでボトリングされたブラックァダー15年（中身はほぼ確実にハイランド パークと思われる）により人々の記憶に留められており、一方ゴードン&マクファイルは、ラベルに「The island’s peedie (little) dram」（島の小さなウイスキー）の文字を入れて「Old Orkney ‘00’」ブランドをブレンデッドウイスキーとして復元した。
