メーカーズマークの赤い封蝋を実体験

April 5, 2018

クラフトバーボンを代表する銘柄として、日本でもファン層を拡大中のメーカーズマーク。手づくりへのこだわりを象徴するデザインが、ボトルトップの赤い封蝋だ。唯一無二のウイスキーづくりをディッピング作業で体験する。

文:WMJ

 

赤い封蝋のボトルトップを仕上げるディッピング作業は、約60年前からメーカーズマークの象徴である。年間180万ケースすべてにこの手作業を維持するこだわりは驚きだ

小栗旬さんが出演するメーカーズマークの新作CMはもうご覧になっただろうか。妹の引越し先でメーカーズマークのボトルを見つけた小栗さんが、赤いボトルトップのデザインを眺めながら「どうなってるんだ、これ?」とつぶやくシーンが印象的である。

ウイスキーファンの皆様なら、この赤いキャップが封蝋であることはご存じのはず。手づくりにこだわるメーカーズマークのシンボルともいえるおなじみのデザインだ。ウェブで公開されている続編で、小栗さんは封蝋のディッピング作業に精を出している。熱で溶けた蝋に、次々と差し込まれるボトル。ゆっくりと滴り落ちる蝋の形状は1本ごとに異なっており、出来映えを眺める顔も満足気だ。

この有名なメーカーズマークの封蝋作業を、実際に体験させていただける機会があった。場所は東京の「ビストロ ヴァンブリュレ 表参道」。熟成肉を中心に、こだわりの料理とドリンクを提供するお店である。

摂氏200度以上に熱して、ドロドロに溶けた赤い蝋が目の前にある。封蝋した後でも開封しやすいように、金属のつまみ部分を立ててから作業を開始する。

CMで見たように、ボトルを逆さまにして蝋の池に突き刺す。ボトルネックの中ほどまで浸したらスッと垂直に引き上げ、すぐにボトルを横にして3回ほど回転。こうすることで、蝋の垂れ過ぎを防ぐのだ。

それでも蝋の一部は、必ず筋のように垂れてしまう。だがこれは失敗ではなく、この筋が4〜5本ある状態が理想なのだという。何本も並べてみると、形状の違いが実に味わい深い。「世界でひとつだけ」のボトルをつくるのが目的なので、失敗という概念もないのである。

 

頑固なまでの手づくりを追求

 

自分で封蝋したメーカーズマークのボトルを手に取ると、手づくり感たっぷりのデザインにあらためて魅せられる。古い印刷機で刷られたラベルと、「HANDMADE」の刻印。ロゴ、マーク、メッセージ、フォント、波型の断裁形状なども、半世紀以上前のデザインを継承している。すべてがメーカーズマーク創業者の妻、マージー・サミュエルズの手によるものである。

マーケティングの才があったマージーとは異なり、夫のビル・サミュエルズ・シニアは頑固な職人肌だった。だが他社にないハンドメイドのポリシーを築き上げたのは、品質にかけるビルの一徹さの賜である。定番のライ麦ではなく、マイルドな冬小麦を採用したのは特に大胆な決断だった。労を惜しまず、あくまで手間と時間をかけて理想のバーボンをつくるという信念が、現代でも通用するプレミアム品質を育んできたのである。

世界のバーボン市場は、いまや2000年の1.8倍にも成長している。ビルとマージーが少量生産から再出発させたメーカーズマークも、米国を中心に年間約180万ケースを出荷するようになった。その数をボトルに換算すれば、1年に2000万本以上。これらすべて人の手で封蝋する方針は、単なるファッションだけで維持できるものではない。

東京の「ビストロ ヴァンブリュレ 表参道」では、ライム、ローズマリー、コーヒービーンズなどを使ったクラフトハイボールが味わえる。手づくりの料理とも相性ぴったりだ。

ビルがこだわったマイルドな味わいは、さらに手間を加えることでフルーティーさが際立つ。ここ「ビストロ ヴァンブリュレ 表参道」でおすすめの「メーカーズクラフトハイボール」を試してみた。メーカーズマークとソーダを1:4で割り、オレンジピールを加えている。皮の苦味が入らないよう、ピールはグラスの少し下から上方に向けておこなうのがコツなのだという。ハイボールを飲みきるまで、その爽やかな感触が消えることはなかった。

じっくりと手をかけたものは、いつも特別な違いを実感させてくれる。何千万本のボトルを作ろうとも、同じメーカーズマークはこの世に1本もない。これが赤い封蝋に込められたクラフトの心意気である。
 

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