「野獣覚醒」― モートラック 発売開始
本日、スーパープレミアムモルト モートラックの3種が発売となる。複雑な蒸溜工程が生み出す味わいとその歴史に迫る。
力強い味わいから「ダフタウンの野獣」と評されながらも、シングルモルトとして世に出ることの少なかったモートラック。しかし、この多様化するウイスキー市場の波をかき分け、なお他を霞ませるほどの輝きを放つ「スーパープレミアム」「ウルトララグジュアリー」という冠を戴いて、大舞台に登場した。
モートラックは1823年、ダフタウン初の合法蒸溜所として産声を上げた。時はヴィクトリア期初期、産業革命のエネルギーが英国中を包み込み、活気が漲っていた。操業開始から30年を経た1953年、当時の経済を支える鉄橋やトンネル、駅の構築に貢献し大成功を収めていたエンジニア、ジョージ・コーウィーが新オーナーに就任した。類まれな才能を持つジョージが見出した夢…最高級のシングルモルト・スコッチをつくりたい、ウイスキーという地域産業に貢献したいという、新たな挑戦が始まったのだ。
技術者という視点から、ウイスキーの製造工程を体系的に、科学的に構築する。
そして息子であるアレクサンダー・コーウィーはロンドン大学の薬学部に在籍し薬学で培った経験を生かし、モートラック独自の蒸溜方法「2.81回蒸溜」を生み出した。
その後アレクサンダーは62歳で引退を決意、ジョニー・ウォーカー&サンズ社に蒸溜所を売却した。その後はブレンデッドの構成原酒として重要な役割を果たし、「花と動物」シリーズなどで一時リリースはされていたものの、オフィシャルでボトリングされることは殆どなかった。
さて、この聞きなれない「2.81回蒸溜」とは、いったいどういう工程なのか?
これを一言で説明するのは不可能…3基の初溜釜と3基の再溜釜が、通常であれば3対のスチルとして稼働するところを、モートラックでは複雑な工程を展開しているのである。
まずシンプルなところから。初溜釜③と再溜釜③は対となって稼働する…これは通常の蒸溜工程と同様だ。2回の蒸溜を経て、ニューポット③をつくりだす。
ここからが変則的。まず初溜釜①と②が揃ってヘッド[H]とテイル[T]をつくる(通常の蒸溜工程ではヘッド、ハート、テイルと3分割されるが、この場合は前半がヘッド、後半がテイルと2分割されている)。
ヘッドの半分、H1 は再溜釜②へ流れ、再蒸溜される。これがニューポット②だ。
そして再溜釜①(The Wee Witchie、ウィーウィッチ、小さな魔女という名前が付けられている)では、3パターンの蒸溜が行われる。
最初にT1を再蒸溜し、蒸溜液をつくる。ここでは高アルコールのスピリッツではなく、重厚な低アルコールのフェインツ[F]が精製される。このフェインツを2つに分けて3度目の蒸溜を行う。F1にまずヘッドの一部、H2を加えて、ウィーウィッチで最蒸溜したものがF4。F2にテイルの残りであるT2を加えて再溜し、より重厚なフェインツ F3を精製して、更に残りのヘッド H3を加えて蒸溜したものがF5。この2つの蒸溜液を合わせたものがニューポット①となる。
つまり、ニューポット①はヘビーでオイリーな香味成分をたっぷりと含み重厚ではあるが、複数回の蒸溜で磨きをかけた複雑さを伴うタイプ、ニューポット②は度数が高く華やかな部分を選び抜いたタイプ、③はモートラック本来の個性を忠実に表現したタイプと、3種類のスピリッツができあがるというわけだ。
①②③のニューポットがひとつになったとき、その「2.81回蒸溜」のモートラックの原酒が誕生するのである。
ボトリングの度数は43.4%。禁酒法を廃止したアメリカでウイスキーの需要が拡大した時代…ブレンデッド全盛でもあったが、モートラックはシングルモルトとして高級デパート等で販売されていた。その当時の度数、43.4%を採用している。
マスターディスティラー曰く、この度数がモートラックの力強さを十分に発揮できるとのことだ。
そしてそれぞれのウイスキーはヴィクトリア期のデザインをイメージしたデキャンタにボトリングされている。
500mlという通常より少ない容量ながら、圧倒的な存在感。ウルトララグジュアリーな装いの中に身をひそめる野獣? それだけでも興味をそそられてしまう。
では、実際にテイスティングさせていただいた感想を。
レアオールドはノンビンテージ。シェリー樽とバーボン樽を組み合わせて造ったオリジナルの樽で熟成している。そのシェリー由来のレーズンがまず飛び込んでくる。追いかけるウッドやメロン、薄切りの白桃。覚悟していたほどのアタックはなく、むしろ洗練された穏やかさすらある。かすかにユーカリを思わせる清涼感のあるフィニッシュ。
18年もレアオールドと同様のリメードの樽を使用している。これはまさに野獣の本領発揮というほどの、デメララシュガー、フルーツタルト、焼き菓子の爆発的なアロマ。ミーティという表現でも、BBQではなくオーブンでじっくりと火を通したローストビーフのようなジューシーな肉っぽさ。奥にはフローラルな香りが潜む。ぜひ加水をせず、ニートでその力強さを楽しんでほしい。
25年はその強さもこなれ、しなやかさや滑らかさが現れる。しかし表情が豊かで、焼き栗のようなこっくりとした甘さ、香り高いダージリン、雨の後の山小屋のようなしっとりとしたウッディさ。アフターのわずかなコショウが、老成した野獣の本性をちらりと垣間見せている。
3つのアイテムに共通するのは、ごまかしのないウイスキーの美しさだ。記者が想像していた過去のボトラーズの男性的なモートラックとは別の魅力を備えながらも、確かにダフタウンのふくよかなアロマと逞しさを体現している。
本日発売となるこの3種をぜひお試しいただき、新たなステージに到達したモートラックをご体感いただければと思う。
【商品詳細】
商品名 | モートラック レアオールド | モートラック 18年 | モートラック 25年 |
発売地域 | 全国 | ||
発売日 | 2015年3月6日(金) 店頭販売開始 | ||
容量 | 500ml | ||
アルコール分 | 43.4% | ||
希望小売価格(税別) | 9,800円 | 32,000円 | 107,000円 |