「マッサン」の継承者 ニッカチーフブレンダー佐久間正氏インタビュー【前半/全2回】

November 18, 2014

竹鶴氏の想いを現代に繋げる―現ニッカウヰスキーチーフブレンダー 佐久間氏の独占インタビュー。

創業80周年、連続テレビ小説の影響も相まって沸きに沸いたアニバーサリーイヤーを飾ったニッカウヰスキー。創業者竹鶴政孝氏の情熱を受け継ぎ、チーフブレンダーとしてニッカのウイスキーの品質管理を一手に担う佐久間 正氏に、お話を伺った。

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WMJ 本日はお忙しい中お時間いただきまして、ありがとうございます。ドラマの影響で、とてもお忙しいとの噂ですが。

佐久間氏 ええ、蒸溜所の方も余市、宮城峡共に多数のお客様に来ていただいています。これまでウイスキーとあまり接点のなかった方にもご興味を持っていただいていると思います。ウイスキー業界全体にとっていい状況だなぁと思っています。

WMJ 今年は特に創業80周年ということで年初から盛り上がりもあり、さらにWWAで世界最高賞を受賞されましたね。また、全国各地でのイベント等も多く開催され、まさに「ニッカイヤー」という感じがします。

佐久間氏 コンペティションでの受賞はやはりウイスキーの好きな方からの反響が大きいのですが、こうして世界的に日本のウイスキーが認められて、今までスコッチやバーボンを飲まれていた方にも「じゃあ飲んでみようか」というきっかけになったかなと。
そしてイベントでは多くの方に「80年前からニッカではこうしてウイスキーをつくっています」ということを知っていただきながら、味わいを体験していただく機会ができました。

WMJ 今年は特にそのようにウイスキードリンカーの裾野を広げると同時に、コアなファンにはたまらない限定品が多数登場しました。そしてプレミアムブレンデッド「ザ・ニッカ」。社名を冠した「ニッカ80年の集大成」という印象ですね。

佐久間氏 創業者の政孝さんは、本流はブレンデッドウイスキーであるという信念を持っていました。かつてシングルモルトは「ブレンデッドの素材のひとつ」という位置づけだったのですが、今では様々な個性的なモルトが世の中に出回るようになりました。余市、宮城峡もシングルモルトとしてそれぞれの個性を打ち出していますし、「竹鶴」はブレンデッドモルトのブランドとして確立しました。ブレンデッドウイスキーにも力強く、新しい価値観のあるブランドを、この80周年というタイミングで立ち上げてみようということで、開発が始まりました。

WMJ ブレンデッドとしては非常にモルティで骨太なウイスキーだと感じました。

佐久間氏 そうですね、やはりがっしりとしたニッカの特徴が出ていると思います。それでも最近の傾向といいますか、ピートも抑えめの比較的フルーティで柔らかい味の設定になっています。

WMJ 「ザ・ニッカ」は、ニッカの本流であるブレンデッドウイスキーに新たな価値観を持たせたプレミアム品ということですね。全く話は変わってしまうのですが…ブレンデッドモルトに「竹鶴」と名付けられたのはなぜでしょう?

佐久間氏 このブランドは2000年に誕生しましたが、その当時ウイスキーの需要が伸び悩んでおりまして先が見えない状況でした。そのなかで、何か新しい価値観を持ったウイスキーをつくらなければということになりました。シングルモルトやブレンデッドではなく、ブレンドによる調和のとれたモルトという、世の中になかった新しいものをということで開発を始めました。
ここでウイスキーが売れなければ後がないような状況の中で、その商品に名前をつけるとなったらもう「竹鶴しかないでしょう」という背景…さらには、ニッカにとって最大の資産である「竹鶴」を商品のネーミングにするということは、決して失敗は許されない、不退転の決意であったと思います。
マーケティングや営業サイドも含めた「なんとかウイスキーの息を吹き返したい」という思いが、ウイスキーの本場スコットランドで修業し、日本でのウイスキーづくりを決意した創業者の想いと重なったと思います。原点に還るというか、新しいウイスキーの世界をつくらなければいけないと。

WMJ それまでは日本ではあまりブレンデッド(ヴァッテッド)モルトはなかったと。

佐久間氏 当時はブレンデッドモルトでも、どちらかというと蒸溜所の個性を出したものでしたね。「ピュアモルト 赤」や「黒」もそういう考え方でした。「竹鶴」については蒸溜所のスタイルとは全く別の、違う個性を掛け合わせて調和させた「飲みやすくて、柔らかくて、まるい」…そんなウイスキーをつくろうじゃないかという発想でした。当時モルトウイスキーは人気が出始めていましたので、ブレンデッドのようなバランスのいいモルトを実現しようというのがコンセプトでした。

WMJ 原点に還って、そして新しいものをつくろうと開発されたのですね。

佐久間氏 そうですね、ニッカはゼロからウイスキーづくりを始めましたから…その時は全くゼロからではないですけど、スタートラインに戻って政孝さんの気持ちを蘇らせて、本当に美味しいウイスキーをつくろうと。

WMJ その結果WWAで世界最高賞を6回受賞するブランドになり…想いが実を結んだということですね。
「竹鶴」、新商品の「ザ・ニッカ」、それから「スーパーニッカ」「ブラックニッカ」と、非常に率直というかシンプルなネーミングがニッカさんらしいなぁと思います。「品質第一主義」というポリシーを体現しつつ、深い情熱を秘めている。本質を見失わない強さですね。

佐久間氏 名前にしても中身にしても、「ニッカらしい」と言われることはありますね。持っている原酒はニッカの商品を想定したものですから出来るものも自然そうなってきますが、それでも新しいもの、あっと驚くようなものをつくりたいとも思いますし。

WMJ 竹鶴21年」のマディラやポートフィニッシュはまさにそうでしたね。

佐久間氏 あれはちょっとしたイタズラみたいなもので(笑)、やってみたらどうなるのだろうという興味もありました。数も少ないですし。実際にやってみるととてもいいものができていました。ただ、あまりフィニッシュの風味が強すぎないように、あくまで「竹鶴」のバランスを損なわないようにと非常に気を配りました。

【後半に続く】

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