NIKKA 厳格さと情熱

November 22, 2012

 ニッカグループのふたつの蒸溜所訪問、バーめぐり……。日本での完全なる異国情緒の3日半。
Report : マルティーヌ・ヌエ

ソフィア・コッポラ監督の映画「ロスト・イン・トランスレーション」(2003)は、私に中途半端な印象を残していた。私が感じていた日本についてのイメージは乱され、わずかながら不安もわきおこっていた。

東京の街中での熱にうかされたような喧騒、数々のコンクリートのタワービル、派手なネオン、カラオケ演奏などは、私のもつ伝統的な日本の幻想、例えば黒沢監督が表現したものにマッチしなかった。

ニッカウヰスキーさんにご招待いただき、5日間の旅を計画したとき、見知らぬものや「異なる」人を前にする、おぼろげな不安感と危惧の念を心にもっていた。成田空港へ到着し、この不安の念をさらに増大した。というのも、英語表記の標識や表示はほとんどないからである。理解はできないのだが、おそらく標識や表示と思われる日本語文字のエレガントさに感嘆するのみである!

ニッカさんの手助けにより、無事ホテルにチェックイン。私の異国への危惧を和らげるように、部屋の窓からはエッフェル塔が! …ほとんどエッフェル塔らしきもの…。東京タワーは、有名な「鉄の女」のレプリカですよ、と教えていただいた。東京タワーのほうが1m高いのだという。晴れた朝には、富士山の堂々としたシルエットをかすかに見ることができた。富士山は雪に覆われていた。遠くではあるが、この山は信じられないほどの魅惑を見せている。

ヨイチ? オイシ!

最初の目的地は日本の最北の島、北海道の札幌。私にとって札幌という名は1972年の冬季オリンピックを思い出させるものでしかなかった。今からは、まったく別のものになるだろう。余市の蒸溜所での1日は、石炭直火のポットスティルと竹鶴政孝の堂々とした影を映し出す。私の想像に反して、余市はまったくの田舎ではなかった。蒸溜所は町の一部として調和し、とけ込んでいた。雪が土を覆っており、針葉樹は、アーティストとも思える庭師によってエレガントに剪定されていた。建物は、落ち着いて平穏な節度ある印象を発散している。例えば、グレンフィディックで見られるような絶え間ない行き来のようなものは一切ない。ビジターセンター受付のそばで、きっちりと整列して停車している数台のバスが、日本(とそのウイスキー)で新しい発見をするためにやってきた多くのアジア系外国人観光客の通り道をさえぎっていた。敷地内に入ると、大勢が殺到している売店を除くと蒸溜所の中で滞留している人々を見ることはまったくなかった。

従業員は約40人、そのうち17人が製造に関わっている。マッシュタンは容量5トン(週7回のマッシュ)、スティルは中くらいの容量(7,700〜11,000リットル)のものが6基、余市は中規模の蒸溜所と考えられる。

重要な詳細は、スティルが石炭で温められていることで、石炭はロシア産である。フルーツの香り、フレッシュなリンゴと乾かしたリンゴの皮がスティルルームに漂う。スピリッツは「男性的で筋肉質」と形容されている。確かに多くの個性が見られた。コンデンサーは伝統的なもので銅製の蛇管がついている。基本はどれも同じだが、それぞれ異なった形をしている。これこそが日本の蒸溜所の特性のひとつである。この特性がブレンドのなかで使われる様々なスタイルを生み出している。というのも、ブレンドには、自社製造のウイスキーしか使っていないからである。

訪問を締めくくる試飲が、そのスタイルの多様性を確信させる。スピリッツのうち、ヘビーピートの商品は5%以下で、75%は軽くピーティ、20%はノンピート。年数よりアロマのプロファイル(成熟のタイプを組み合わせることで作り出される)を先行させる方針は非常に興味深い。私は、数種の12年を試飲した:シェリー&スイート(シェリーと馥郁たる香りが特徴)または、ソフト&ドライ(甘口で辛口)、ピーティ&ソルティ(ピートと塩味)……現在ヨーロッパで日の目をみようとしている傾向である。

この余市への輝くような旅を美しく締めくくるために、我々は夜「ニッカ・バー」で試飲をした。余市のアンソロジー(珠玉のウイスキー)として有名な20年1987である。以前WWAですべてのテイスターを魅了した逸品だ。余市? オイシ!

宮城峡、山の麓

休むことなく、翌日、私たちは仙台行きの新幹線に乗った。仙台には、宮城峡蒸溜所がある。雄大な山の麓にあったにもかかわらず、余市ほどの静寂さの印象はにじみ出ていなかった。ここでは、人々は情熱的に動いていた。生産量は余市のそれと同じ尺度では測れない。このグレーン蒸溜所には2台のカフェ式蒸溜器があり、モルトの蒸溜工場(8台の大きなポットスティル)と共存している。ここでも、余市と同様、数種類のスタイルのシングルモルトを生産している。

宮城峡蒸溜所は自然の風景にとけ込んでいる。湖、鴨や白鳥の居住区、すばらしく線密に剪定された木々。パッションと厳格さ……約100人がここで働いている。すべてのラインアップを試飲するつもりだ。すでに、10年のフレッシュさと15年のリッチさに強い印象をうけている。10年は、夏向きの美味なモルトで、ライチやグロゼイユ(すぐり)、ココナッツやバニラの風味を展開する。また15年はビロードのようなリッチさでシェリーがはっきりと感じられ、その下に革や丁子とバナナのノートがある。我々は、このあまりにも短い訪問を、東京のニッカブレンダーズ・バーでの夜に持ち越した。ニッカのチーフブレンダーたちは、余市と宮城峡の5種のスタイルのモルトとひとつのシングルグレーンをベースにしてブレンドをつくった。各人が、その好みで、各々の使用比率を変えるだけで選び、創り上げた。

ふたつの蒸溜所は最高のブレンデッドモルト「竹鶴」のためにマリッジする。それはブラインドテイスティングで、毎回のように表彰台に上がるのである。竹鶴17年と21年は、世界最高賞ワールドベスト・ブレンデッドモルトを獲得した経歴を持つ。余市の蒸溜所を見下ろす丘に、妻のリタとともに埋葬されている創立者、竹鶴政孝に敬意を表さずにいられない。

カテゴリ: Archive, 蒸溜所