酵母のアロマが華やぐニッカの限定シングルモルト【前半/全2回】

September 21, 2022

昨年からスタートした「NIKKA DISCOVERYシリーズ」の第2弾は、発酵工程にフォーカスを当てた特別なシングルモルト。ニッカ秘蔵の酵母で華やぐ「余市」と「宮城峡」のアロマを味わってみよう。

文:WMJ

 

ウイスキーファンにとって、秋は出会いと発見の季節。ニッカウヰスキーが毎年発売する特別なシングルモルトもそのひとつだ。2017年から恒例化している数量限定品は、昨年より「NIKKA DISCOVERYシリーズ」にコンセプトを改変。原料、発酵などの工程に着目し、ニッカの原酒の多様性や意外性を紹介する前例のないシリーズが始まっている。

酵母や発酵の違いが、シングルモルトウイスキーにどんなアロマを付与してくれるのか。通年品との比較テイスティングによって明らかになる。

長年にわたる原酒の「つくり分け」によって、ニッカは個性の異なるさまざまなウイスキーを出荷してきた。貯蔵庫に眠る膨大な原酒のバリエーションは、ウイスキーファンにとって興味の尽きないミステリーである。ウイスキーづくりの歴史や化学などに視野を広げ、工程上の工夫や実験から生まれた新しい香味に出会う。そんな体験が「DISCOVERY」の名に相応しい。

昨年のシリーズ第1弾は、原材料のモルトに着目した。あえてピートの効かせ方を逆転させた「余市」と「宮城峡」でウイスキーファンを驚かせた。このたび発売される第2弾では、発酵工程にフォーカスする。おなじみの「余市」と「宮城峡」に、特別な酵母や発酵技術から生まれたユニークな香味を付与しているのだという。

ニッカウヰスキーには約90年にわたって収集した酵母のコレクションがあり、主力のウイスキー酵母はもちろん、ビール酵母、パン用酵母、野生酵母などをルーツに持つ変わり種を自前で培養しながら実験的な仕込みも続けている。このようなオリジナル酵母は、ニッカらしい香味を形成する重要なDNAの一部だ。

それぞれの酵母で発酵し、その醪を蒸溜したスピリッツは、熟成後にどんな香味を表現してくれるのだろう。その答えは、すぐにはわからない。人間は科学や経験に基づいて知見を積み重ねるが、時には人智の及ばない自然の作用がゲームチェンジャーとなる。ニッカ創業者の竹鶴政孝が、「ウイスキーづくりにトリックはない。自然を尊重する素直な気持ちがすべての土台だ」と語った所以だ。
 

「シングルモルト余市 アロマティックイースト」をテイスティング

 
そんな神秘の力も動員した「シングルモルト余市 アロマティックイースト」が、目の前のグラスに注がれている。隣のグラスには、通年品の「余市」。テイスティングをガイドしてくれるのは、昨年に引き続き限定品を処方した主席ブレンダーの綿貫政志氏だ。

2つのグラスを手に取り、香りを比べてみる。どちらも麦芽の甘い香り、果実香、穏やかなピート香のミックス。だが「アロマティックイースト」は、リンゴ、バナナ、洋ナシを思わせるフルーツ香がより旺盛だ。口に含むと、樽の甘さと麦芽のあたたかみがその果実香を支えている。

シングルモルト宮城峡をはじめ、アロマティックな処方経験が豊富な綿貫政志(主席ブレンダー)。希少な変わり種の原酒も取り入れながら、クリエイティブな処方で「余市」の知られざる魅力を引き出した。

「フレッシュな果実味とモルトの甘みの奥に、ピートのコクが感じられます。芳醇なエステル香の余韻に、かすかなスパイスとマーマレードのようなビタースイートも感じますね」

この洋ナシのような香りは、ちょうど日本酒の吟醸香にもよく似ている。この香りや、豊かなフルーツ香こそ、発酵工程の工夫や酵母の違いから生まれた限定品の特徴の一つなのだと綿貫氏が明かす。

「特別な酵母が醸し出すエステル香や果実香は、水を少し加えるとさらに立ち上がってきます」

数滴の水を垂らしただけで、グラスから溢れんばかりのフルーツ香が解き放たれた。口に含むと、フレッシュな果実味が華やかに広がっていく。上昇気流のように力強いフルーツ香を、麦芽とピートのコクが重しとなって落ち着かせている。気球のように浮遊するバランスが心地よい。

「エステルの果実味は辛味にもつながりやすいので、ピート感やモルト感を残して拮抗させる必要があります。このエステル香をきれいに表現するため、新樽やシェリー樽などの樽香は控えめにしました」

綿貫氏がおすすめするフードペアリングはフルーツ。濃厚なドライマンゴーもいいが、生のフルーツもフルーティーな香りにうまく呼応する。ナッツ類もフルーツ香を際立たせてくれる相棒で、柑橘系のさわやかな香味にはチョコレートがよくマッチするという。

「華やかなエステル香。フルーティーな香り。活性樽で30年以上貯蔵した熟成感。そのすべてが、発酵工程で生み出された特性から育ったもの。余市らしいモルティさやピート香との融和点を探りながら、こんなに華やかな余市もあり得るのだという意外性を追求しました」

アルコール度数は、ノンチルフィルターの香味表現に最適化した48%。グラスの中から、ニッカの長い歴史と酵母の神秘が語りかけてくるようだ。余市本来の骨太な個性に、吟醸香を思わせる華やかさが見事に融合したウイスキーである。

次回は「シングルモルト宮城峡 アロマティックイースト」をテイスティングする。
(つづく)

 

シングルモルト余市
アロマティックイースト

アルコール分:48%

シングルモルト宮城峡
アロマティックイースト

アルコール分:47%
容量:瓶700ml
発売日:2022年9月27日(火)
価格:各20,000円(税抜)
販売数量:国内各10,000本(海外各10,000本)

 

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