ラッセイ蒸溜所は、始動してわずか3年後には最初のシングルモルトを発売する計画だ。設備の細部に、そのユニークな品質を目指した綿密な戦略が現れている。

文:クリストファー・コーツ

 

2014年5月に初めてラッセイ島の建設予定地を訪れた創業者のアラスデア・デイは、アレン・アソシエイツの設備技師たちとラッセイ蒸溜所の基本デザインについて議論を開始した。

「つくりたいウイスキーのスタイルを伝えて、そこから生産プロセスを設計することができました。目的に沿った蒸溜所設計ができて、しかもいくつかの異なったスタイルの原酒を生産できるようになったのは大きな収穫です」

新設された蒸溜所の多くが少なくとも10年は熟成に費やしているのに対し、ラッセイのシングルモルトは最短時間で酒屋の棚に並ぶ道を選んでいる。

「素晴らしい品質の3年熟成のウイスキーをつくろうと決めました。品質至上主義であり、3年の年月で重層的な深みと複雑さを完成させるアプローチをとっています。このような蒸溜所は少数派ですね。まだわからない部分もありますが、昨年ニューメイクをつくったときには自信が湧いてきました。あれから1年が経って、すべてが順調に進んでいる手応えを感じています」

比較的短い熟成時間で複雑なフレーバーを構成するには、工場の設計自体にも独特の工夫を盛り込まなければならない。具体的には、発酵時間を長めにとって、ユニークな樽による熟成を採用することなのだとアラスデアが説明する。

「ウォッシュバックに被せる冷却用ジャケットを用意しました。ウォッシュスチルのラインアームにも冷却用ジャケットを使用し、スピリットスチルのラインアームには6つの銅製プレートからなる精溜器も付設しました。ひとつの工場で、6〜7種類のスピリッツを蒸溜できるようになっています」

フリーリ社製造の銅製ポットスチル。左のウォッシュスチルはランタン型のネックで容量は5,000L。右のスピリットスチルは標準的なスワン型のネックで容量は3,600Lだ。

ウォッシュバックの冷却ジャケットは、発酵が活性化しすぎないように温度を調整するためのものだ。発酵が活発すぎると、アルコールや大事な風味成分を生成する前に酵母が使い果たされてしまう。

「発酵時間をゆっくり長めにとることで、はっきりとした違いをもたらすことができました。具体的には、フルーティーな風味です。これは当初から目的にしていた要素で、冷却ジャケットを導入したのもフルーティーな酒質を得るため。発酵状態を細かく制御するのは難しいので、理想の状態になっているか何度も確認しています。甘くてフルーティーなフレーバーは、ニューメイクをテイスティングしていただけたらおわかりいただけますよ」

ラッセイ蒸溜所のチームは、シャンパン用酵母でも実験的な発酵を開始している。この酵母はノンピート原酒向けに使用され、昨年より常用してきたウイスキー酵母と並んで用いられることになる。

ウォッシュスチルのラインアームに取り付けたウォータージャケットを作動させると、気化した蒸留物がポットへと戻されることになる。これまでに使用した回数は数えるほどだが、ラッセイ蒸溜所のチームはこのユニークな機器を使用することでスピリッツの重量感や凝縮感が増すことに気づいた。

これは「銅との接触時間が増えるほどスピリッツの酒質が軽くなる」という従来の常識に反する報告である。すでに軽やかでフルーティーなヘビリーピーテッドのスピリッツをつくっているが、さらにヘビーなピーテッドモルトを蒸溜するときにウォータージャケットの凝縮効果を活かそうという計画だ。試行錯誤はまだ続いている。

 

実験精神で無二のフレーバーを生み出す

 

モルト原料についても、実験精神を大いに発揮している。蒸溜所チームの強い希望により、ラッセイ島では実に40年ぶりとなる大麦の栽培が復活することになった。気候が難しいこともあって、最初の試みで得られたモルトはマッシュ1回分の3分の1ほど。それでもチームはハイランズ&アイランズ大学と共同でラッセイ島の気候に合った大麦品種を探し続けている。この共同研究では、スコットランド伝統の六条大麦品種「ベア」での試験蒸溜も進めているのだという。うまくいけば、現代の品種とはっきり異なった個性のスピリッツをつくることができるだろう。

熟成にも独自のこだわりがある。アラスデアは伝統的な種類の樽をあえて避けているのだ。これは他の新興蒸溜所と明確に差別化できるウイスキーを生産するためである。

スピリットスチルのラインアームには、6つの銅製プレートからなる精溜器が取り付けられている。

「バーボンバレルも、シェリー樽も使っていません。STR樽(シェービング、トースティング、リチャーリングを施した樽)もないので、他の蒸溜所とはだいぶ違いますよ」

その代わり、ラッセイ蒸溜所ではウッドフォードリサーブから調達したライウイスキーのバレル 、ボルドーで使用された赤ワインのバリック、ヘビーなチャーを施したチンカピングリ材の新樽などが使用されている。チンカピングリはホワイトオークの仲間で、チェスナッツ(栗)としても知られる北米産の木材である。

「思い上がった傲慢な奴だと思われたくはないのですが、スコッチウイスキーを定義した現行ルールの枠内でも新しいウイスキーづくりのイノベーションは可能だと思っています。必要なのは、とことん知恵を絞ることだけ。単なる目新しさだけのために、風変わりな木材でつくった樽に貴重なスピリッツを入れる訳にはいきませんから」

アラスデアの最終的な狙いは、多様な原酒のストックモデルを作り上げることだ。個性豊かな原酒があれば、調合の比率を変えながら驚くほど幅広い味わいのコア商品を開発することができる。この方針は先行発売の「ラッセイ ホワイル・ウィー・ウェイト」に使用した原酒の多彩さにも現れている。 このウイスキーは、あるハイランドの蒸溜所からヘビリーピーテッドとノンピートのシングルモルトウイスキーを調達し、ブレンドしてからワイン樽でフィニッシュしたユニークな商品だった。アラスデアは語る。

「スコッチウイスキーのつくり方としては、かなり手間のかかる方法だと思います。でも生来のブレンダーが蒸溜所を建てると、こういうことをやっちゃうんです」

ラッセイ蒸溜所のシングルモルトウイスキーが初めてお目見えするのは、2020年のクリスマス頃になりそうだ。シングルモルトのコアレンジは、2021年初頭から先行予約受付が始まる予定である。それまで待ちきれないというファンのみなさんは、ラッセイのニューメイクスピリッツを樽で購入できる(容量190リッターのテネシーウイスキーバレルまたは容量30リッターのスペイサイドウイスキー樽)。または蒸溜所を訪ねて、隣接する「ボロデール・ハウス」に1泊してみるのも面白いだろう。