ライ麦を知る【前半/全2回】
ライウイスキー。とてもアメリカらしい飲み物だが、現在は原料すべてがアメリカ産という訳ではないようだ。ライ麦を検証するレポート前半をお送りする。
ライ麦はアメリカンウイスキーをリッチにするスパイスだ。
トウモロコシ51%以上を使用する既定のあるバーボンのマッシュビル(穀物構成比率)では、トウモロコシに次ぐ材料として好んで使われることが多い。トウモロコシだけでは穏やかになりがちなスピリッツに、豊かなスパイス風味を与えてくれる名脇役である。ライウイスキーにおいては疑う余地もなく主原料だ。スコッチなどに使われるグレーンウイスキーにも良く使われる。おそらく、1杯のウイスキーの中でライ麦ほど強く、はっきりと目立つ穀物はない。その風味はぴりりとして、ドライでスパイシーな特徴を持つ。
かつてペンシルベニア州に多くあったライウイスキー蒸溜所がモノンガヒラ川を水源としていたことから、ライウイスキーは「モノンガヒラ」と呼ばれていた。これが私たちウイスキー愛好家を楽しませてくれる現代のライウイスキーの祖先だ。
西を目指した開拓者たちは、金銭に代わって物々交換や取引に使うために、モノンガヒラ入りの水差しや樽を携えていた。もちろん、自分自身で飲むためということもあるが。
旅行作家のザドック・クレイマーも1817年の著書「ザ・ナビゲーター」に「最高のライウイスキーを最も多く生産するのはモノンガヒラ川の流域だ」と書いたほど、ライウイスキーは親しまれ、特にモノンガヒラ産のものは尊ばれていた。
学名Secale cereale L.としても知られるこの真っ直ぐに伸びる一年草の麦は、背が高く平たい葉に密集した花穂、長い芒(のぎ)を持つ。頑丈で干ばつや厳しい冬、砂の多い土壌、やせた土地に耐え、植えればほぼどこででも生育する頼もしい穀物だ。
農夫は地中の望ましくない栄養物を吸い上げて、他の植物、特に虫に弱い作物などに害虫を近寄らせないために、おとりのようにして育てる被覆作物として利用することさえある。ゾンビが現れたり核戦争が勃発したりしても、由緒正しい古き良きライ麦ならば、大豆やテンサイ、トウモロコシが絶滅しても生き残ることだろう…まぁ、遺伝子組み換え(GMO)トウモロコシは別として。
1922年頃、アメリカのライ麦畑は670万エーカーに及んでいた。しかし時代は変わり、ライ麦はアメリカの農夫にとって必要な穀物ではなくなった。今やライ麦は忘れ去られた穀物と化し、トウモロコシと大豆の被覆作物という立場に追いやられている。2012年時点でライ麦畑はアメリカ全体で130万エーカーまで縮小し、収穫されたのはわずか25万エーカーだった。
アメリカでは、農家がトウモロコシ栽培によって税や市場政策上の優遇措置を受けられるため、他の穀物の為の耕地を確保する為に苦戦を強いられている。
「ライ麦はよく植えられますが穀粒を収穫することのない非主流作物です」と米国農務省のクロス・コモディティ・アナリスト、エド・アレンは言う。
同省によると、2012年のトウモロコシ植付け面積は9,716万エーカー。そのうち干ばつによる被害のため、穀物として収穫することができたのは8,738万エーカーだった。対照的に、第二次世界大戦以降でライ麦が最も収穫されたのは1998年だったが、それでも植付け面積は150万エーカーで収穫されたのは41万8,000エーカーに過ぎなかった。以降、ライ麦の収穫高は総植付け面積の40%を下回り、20万〜38万エーカーに留まっている。
ミズーリ大学コロンビア校食料農業政策研究所のパトリック・ウェストホフ所長は、ライ麦も他の穀物と同じ状況にあると語る。
「あらゆる農作物がトウモロコシとの競合に苦しんでいます。この国では確実にトウモロコシの全体的な作付面積が増加しました」と言う。
「収穫を目的とした他の作物…トウモロコシ以外の農地は、徐々に少なくなっています。トウモロコシは高価格で高収益なため、 農家の人々はできるだけ自分たちの土地の大部分に植えようとしているのです」
常に自然環境と戦っている農業従事者にしてみれば、これは当然の選択だろう。リスクを減らし、効率よく収益を得る。ビジネスであれば誰もがそう思うはずだ。単なる我々の都合…バーボンはアメリカ産の原料を使うべきだ、農家はライ麦を栽培せよなどという勝手な理屈を押し付けることはできない。
では、実際に蒸溜業者たちはどのようにしているのだろう?