広島のSAKURAO DISTILLERYが、3種類のシングルモルトを発売

June 6, 2022

6月6日より、注目のシングルモルト商品を発売するSAKURAO DISTILLERY。蒸溜所創設以来の驚くべき成果を味わいながら、執行役員の竹内慎吾氏がウイスキーづくりの舞台裏を明かす。

文:WMJ

 

穏やかな瀬戸内海に陽光がきらめく。対岸の大きな島影は、世界遺産がある宮島だ。背後には中国山地の緑が迫っている。

ここ広島県廿日市市桜尾で2017年12月に誕生したSAKURAO DISTILLERYが、3種類のシングルモルト商品を発売する。その味わいを確かめ、ウイスキーづくりの現在を学ぶべく現地を訪れた。

開業当時の様子は、ウイスキーマガジンでもレポートしている。たが2019年の設備投資によって、蒸溜所は大きく様変わりしていた。モルト用のスチルが1基増設されて2基になり、グレーンウイスキーの蒸溜設備も新設。仕込みも週7日体制に増やし、生産量は設立時の約5倍にまで増えているという。

「シングルモルトジャパニーズウイスキー 桜尾」は、精緻な原酒のつくり分けとブレンディングで瀬戸内らしい風土を表現。蒸溜所チームの卓越した技量を証明する出来栄えだ(希望小売価格:税込¥6,600)。

SAKURAO DISTILLERYは、旧中国醸造(現サクラオブルワリーアンドディスティラリー)のプロジェクトとして始まった。中国醸造は1920年4月15日にウイスキーの製造免許を取得した古参メーカーである。戦後も1958年にウイスキー製造設備を増強し、60年代には広島市民球場のフェンスに「グローリーウヰスキー」の広告を掲げていた。

しかし地元密着型の企業だったことで、今世紀に入って転機が訪れる。人口減や高齢化の影響で、2006年頃からブレンデッドウイスキーの売り上げが激減。出荷できないモルト原酒は、山奥のトンネルに運ばれた(これが後の奇跡につながる)。

一時は原酒を処分する案まで出たが、2012年から海外市場に目を向けることで活路を見出した。執行役員の竹内慎吾氏が、当時の状況を振り返る。

「国内が無理なら、海外に売ればいい。酒齢30年以上の原酒もたくさん残っていました。そこで輸入したモルト原酒と自社の原酒をヴァッティングした商品なども販売し始めました。そのうちに、やはり自社のアイデンティティが重要だと思い至ったのです。昔からウイスキーをつくっていたのだから、もう一回チャレンジしようじゃないかと」

そして2014年、蒸溜所建設の知見を得ようと英国へ。製造はもちろん、特に学びたかったのは経営手法だ。英国でクラフトジンの可能性を確信し、プレミアムクラスのジンを製造することにした。現在まで、すべてが当初の計画通りに進んでいる。
 

ジャパニーズウイスキーの伝統に学ぶ

 
SAKURAO DISTILLERYの生産設備はユニークだ。目立つのは、ホルスタイン社のハイブリットスチル。ポットスチルとコラムスチルの併用によって、蒸気と銅の接触を増やすための装置だ。竹内氏いわく、あらゆる工程における工夫の積み重ねでSAKURAOらしいスピリッツを生み出している。

ポットスチルの釜には、焦げ付きを防ぐ撹拌翼が内蔵されている。加熱用に蒸気を直接吹き込むユニークな機能も加えた。どちらも華やかなエステル香を獲得するための機能だが、あえて使用しないことでリッチな酒質にも調整できる。

「シングルモルトジャパニーズウイスキー 戸河内」は、熟成地である森の香りが圧巻だ。あえて人間の手を加えず、自然環境に委ねた香味には底知れない魅力がある(希望小売価格:税込¥6,600)。

「規模は小さくても、原酒の多様性を確保したい。だからヘッド、ラインアーム、コンデンサーだけでなく、あらゆる手法で酒質をコントロールしています。ひとつの装置で、3~4基のスチルを併用しているようなバラエティを得るのが目的です」

このような方針のお手本にしたのは、意外にも国内の既存メーカーだったと竹内氏は明かす。

「たくさんの蒸溜所が点在するスコットランドとは異なり、日本の先駆者であるサントリーさんやニッカさんは自前で多彩な原酒を用意する必要がありました。そこから日本らしい香味を組み上げて世界に認められ、今のジャパニーズウイスキーがあるのです。このような先人たちから学べることは大きいと感じていました」

ハウススタイルとは、単なるスピリッツの酒質にあらず。歴史を積み重ねて作り上げる信頼が、SAKURAOのスタイルになっていくのだと竹内氏は言う。

「生産量が5倍になると、試行錯誤の種類や頻度も5倍に増えます。つまり経験値の獲得も5倍速になりました。スコッチやアイリッシュの巨人たちと世界市場で戦うため、個性と生産性を重視しています」
 

個性が際立つ3種類のシングルモルト

 
今回発売されるのは、スタンダード商品のシングルモルトジャパニーズウイスキー「桜尾」および「戸河内」。それにシェリー樽原酒のみを厳選した「桜尾 SHERRY CASK STILLMAN’S SELECTION」(数量限定)の全3種類だ。それぞれのウイスキーが、SAKURAOらしい固有のストーリーを代弁している。

まず「シングルモルトジャパニーズウイスキー 桜尾」は、蒸溜所の叡智を結集したウイスキーだ。細やかにつくり分けて4種類の樽で熟成したキーモルト7種を駆使し、ブレンディングでしっかりと香味を構築している。

「スタンダードボトルとして一貫した味を届けるため、たくさんの原酒を使って香味を安定させました。そもそもSAKURAOは、ブレンディングが得意なんです」

竹内氏が語るブレンディングとは、ブレンダー個人の妙技ではない。SAKURAOは広島大学の研究所と共同研究を進めており、香味成分の特定によって官能評価を定量的に裏付けている。テイスティングでも絶対評価はせず、他社製品との比較もしながら戦略的にポジショニングした。

貯蔵地の桜尾は、瀬戸内から届く潮の気配をほのかにまとう。レーズン、オレンジ、桃などのフルーツ香や、バニラのような甘み。ほどよい渋みと心地良いスモーク香。そんな精緻なブレンディングを味わいたいなら、まずはこの「桜尾」がおすすめだ。

もうひとつの「シングルモルトジャパニーズウイスキー 戸河内」は、まったく異なる性格のウイスキーだ。熟成地の安芸太田町戸河内(とごうち)は、広島県でも特に山深い地域。ここにかつて鉄道用のトンネルとして使用されていた戸河内トンネルがある。トンネルは常に通気させており、周囲の自然と一体化した環境だ。

「シングルモルトジャパニーズウイスキー 桜尾 SHERRY CASK STILLMAN’S SELECTION」は、蒸溜責任者が「いま味わって欲しいシェリー樽原酒」だけを厳選した数量限定商品。堂々たる気品を打ち出しながら、まろやかで飲みやすい(希望小売価格:税込¥13,530)。

「グラスに注いでから、5分くらい置いてみてください。すると戸河内周辺の森の匂いが、そのまま立ち上がってくるんです。この現象に気づいたときは驚きました。戸河内の香味は、桜尾の原酒をどんなに作り込んでも再現できません。だからこのウイスキーには、何も手を加えてはいけないと思ったんです」

「桜尾」とは対照的に、使用したのはノンピートのモルト原酒1種類だけ。熟成樽もファーストフィルのバーボン樽のみだ。樽入れ時に59度だった度数は、ボトリング時に52度まで下がっていた。樽内の水位は変わらないというから、それほど森の涼気が染み込んでいるのである。

「桜尾」が手塩にかけて育てた味わいなら、「戸河内」は大自然の力に委ねた味わいだ。新緑の香りに、バニラ、リンゴ、マーマレード、メロンのような甘さ。スムースな口あたりに、キレのある余韻。自然への畏怖とロマンチシズムに浸りたかったら、ぜひこの「戸河内」を味わってみよう。

最後の「桜尾 SHERRY CASK STILLMAN’S SELECTION」は、数量限定品だ。蒸溜部門を統括する山本泰平氏が、桜尾の構成原酒から「いま飲んで欲しいウイスキー」を選んで商品化したもの。つまり一貫性を重視するスタンダード商品とは異なり、蒸溜所チームの「推し」が表現されている。

シェリー樽といっても、レーズンやブラックチェリーを連想させるアメリカンオークのシェリー樽だ。度数50度とは思えないほどまろやかで、ユニークな個性をバランスよくまとめている。

瀬戸内の穏やかな潮風をエッセンスとしながら、レーズン、カカオ、ダークチェリー、オレンジを思わせるフルーティーな味わい。ピート香を軽く効かせて、繊細な土っぽさもある。ビターな甘さと深い余韻は、シェリー樽ならではの贅沢な悦び。特別なボトリングから蒸溜所チームの熱意を実感したい人は、ぜひ一度味わってみてほしい。

今回発売される3種類のウイスキーは、いずれも熟成年数が3〜4年だ。それでも熟成の不足をまったく感じないのは、華やかに磨かれたスピリッツとユニークな熟成環境の賜物だろう。

SAKURAO DISTILLERYの旅は、まだ始まったばかりだ。だが新発売のシングルモルトには、ジャパニーズウイスキーの伝統が息づき、未来への展望もはっきりと示されている。

 

 

伝統と革新で、広島から世界へ。SAKURAO DISTILLERY の公式ウェブサイトはこちらから。

 

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