シップスミス プレミアムジン セミナーレポート
近年、全世界的にマイクロディスティラリーの隆盛期である。アメリカンウイスキーを筆頭に、少量生産をうたう蒸溜所が増えてきた。ジンやウォツカ、ラム、テキーラなどのスピリッツもその例に漏れない。しかし「プレミアムスピリッツ」と呼ばれるものの違いはどこから生まれるのだろうか。今回、2009年創業ながら飛躍的に成長している「シップスミス」社の創業者であるサム・ガルズワースィー氏が来日し、一風変わったジンを発表するとのことで、11月1日、パークホテル東京で行われたセミナーへ伺った。
シップスミスの蒸溜所は、ウイスキーファンなら必ず知っているであろうウイスキー評論家、故マイケル・ジャクソン氏のオフィスを改築してつくられている。同氏が仕事をしていた書斎にポットスチルが設置されているのだから、彼が酒に注いだ情熱が形を変えて「スピリッツ」として生きているようなものだ。この小さな蒸溜所で、1バッチ300本という少量生産のジンやウォツカをつくっているという。
今回来日した目的は、新商品「VJOP ロンドンドライジン」の日本先行発売に伴って、今後の商品開発に日本のバーテンダーの意見を聞きたいというものであった。このVJOPとはVery Juniper Over Proofの略で、ジュニパーベリー(ジンの香りの核となるボタニカル・日本名杜松の実)を通常の倍量使用した「ジントニックに最適なジン」であるという。世界で飲まれているジンの95%はジントニックとして飲まれている現実を踏まえ、トニックウォーターで割ったときに最も味わいが際立つジンとして開発された。そのジントニックを試飲してみると、はっきりとしたジュニパーが感じられ、それを包みこむようにトニックウォーターの苦味とシトラスの酸味がはじける。確かにこれまでのジントニックとは違う。
「プレミアムスピリッツとはただ少量生産というだけではありません。我々は1度の蒸溜に必要な原材料を使って1度だけつくります。大手のようにこのスピリッツを水増ししたり材料を使いまわしたりはしません。これをワンショット蒸溜と呼んでいます。原料、ボタニカルも厳選されたものを使います。ちなみにウォツカの原料は100%英国産の麦にこだわっています。そして銅製のポットスチル、これが大変重要です。銅は化学変化を起こし、硫黄や脂肪酸などスピリッツに不要なものを排除してくれる。かつてジンの聖地として何百もの蒸溜所があったロンドンも、今や本来の銅製のポットスチルでジンをつくっている蒸溜所はシップスミスとビーフィーターしかありません」とガルズワースィー氏は語る。
この特徴的なスワンネックのスチルでジンに不可欠なボタニカルの香りを取り込むのだという。ウイスキー用のスチルを見慣れた人間なら驚きさえ覚える形状だ。
そしてセミナーでは同社のジンを使ったマティーニやリキュールベースのカクテルなどが提供された。
参加したバーテンダーたちはセミナー終了後もガルズワースィー氏へ質問を重ね、同氏の情熱溢れる言葉に熱心に耳を傾けていた。
その後、ガルズワースィー氏へインタビューを行った。
ウイスキーマガジン・ジャパン(以下WMJ)セミナーお疲れ様でした。盛況でしたね。
ガルズワースィー(以下SG) ええ、とても熱心に聞いていただけましたし、非常に参考になる意見が得られました。中には舌を巻くほど専門的な質問をされる方もいて、やはり日本のマーケットでの先行発売は意味があったと思いましたね。
WMJ もともとはアメリカでマイクロディスティラリーに携わっていたそうですね。
SG 最初はロンドンでビール醸造をしていました。それから蒸溜のほうに流れて…もちろん私はマスターディスティラーではありませんが、アメリカの小さな蒸溜所たちが生み出すエネルギーに感銘を覚え、これはイギリスでもいけると思いました。
WMJ なぜ他の蒸溜酒ではなく、ジンを選んだのでしょうか?
SG 鋭い質問ですね!セミナーでもお話したように、ロンドンはジンの聖地だったはずなのに、現在では銅のスチルを使う蒸溜所は弊社をふくめ2つのみ。私はロンドンに本物のジンを取り戻したかったのです。もちろん個人的にジンが大好きということもあります。ウイスキーやビール、ワインも好きですが、ジントニックを飲む瞬間のあの爽快感は何にも代えがたいですよ!
WMJ まさにクリアー・スピリッツ(透明な蒸溜酒と明確な信念をかけて)ですね。では操業して2年半でここまで急成長した秘密は何でしょう?
SG 私は、自分達が会社を大きくしたと思っていません。お客様が成長させてくれたのです。いわゆる口コミで人から人へ、「このジンはうまいぞ!」と舌の肥えた層へ浸透していきました。今までは同じ酒をずっと飲んでいた人も、シチュエーションに合わせて飲み分けるようになっています。ただガブガブ飲むより少量の良い酒を嗜む―そういうふうに社会がシフトしていると思います。その時代にマッチしたことも大きいと思いますね。
WMJ 仰るとおり、日本の市場もそのように変化していると思います。
SG ええ、特に日本人は味覚や嗅覚が敏感ですし、求められる基準も高く、非常にやりがいのあるマーケットです。さらに言うと、つくり手へのリスペクトが素晴らしい。職人が心を込めてつくったものを大切にする、そういう文化が根付いていますよね。今日はとてもそれを感じました。
WMJ きっとサムさんの情熱が伝わったのですね!小さな蒸溜所が世の中に送り出す影響がこれほどに大きくなるというのは素晴らしいと思います。ちなみに今スタッフは何人いらっしゃるのですか?
SG 8人です。実はこれからまた大きい場所へ移転する予定ですが、それでもスチルは同じものを使います。1バッチ300本という少量生産は変わりません。
WMJ 今後ますます発展していく上で、今回の来日が有益なものになるよう願っています。最後に日本のバーテンダー、お客様へのメッセージをお願いします。
SG とにかく、世の中にこれほど商品が溢れる中で、数千マイルも離れたところにあるちっぽけな蒸溜所を温かく迎えて下さったことに感謝します。日本のバーテンダーの方々との出会いは新しいものをつくるチャンスを与えていただいたようなものです。皆様にご満足いただけるような商品を今後も生み出せるよう努力します。どうぞご期待下さい。
WMJ どうもありがとうございました。
商品詳細
商品名: シップスミス VJOP ロンドンドライジン
容量: 700ml 度数:47.7%
価格:オープン 発売日:2012年10月18日
詳細→http://www.whisk-e.co.jp/product/sipsmithvjopdrygin.html