地球にやさしいウイスキー【第3回/全4回】
文:クリストファー・コーツ
あらゆる製品の流通にまつわる環境問題といえば、輸送時の二酸化炭素排出量だ。しかしウイスキー業界では、自動車輸送にまつわる二酸化炭素の排出についてまとまったデータがない。スコッチウイスキー協会が環境戦略にもとづいて定める排出削減目標も不在の状態だ。
それでも電気自動車の充電環境を見れば、スコットランドは英国のリーダー的存在である。充電スタンドは2.78マイル(約4.5km)おきにあり、 3.77マイル(約6km)のイングランドを引き離している。さらに「エレクトリックA9」と題したプロジェクトによって、北部スコットランドと中心部を結ぶ幹線道路にもたくさんの充電スタンドが配備された。
大量のスピリッツ、モルト、副産物などを輸送する運搬車の大半が、ハイブリッド車や他の低排出ガス車に置き換えられる未来。そんな理想を達成するのは、残念ながらまだ数年先の話だ。特に電気で走る大型トラックは、開発や整備が遅れている。
それでも充電設備の配置はゆっくりと進んでおり、長距離走行への不安も解消されつつある。公営と私営の職業運転手が、旅客用の車をEV車に変える後押しもしてくれるだろう。まだ従業員や訪問客のために充電スタンドを完備している蒸溜所は少ないが、業界筋によるとこれから設置率が上昇するものと見られている。
水の使用に関しては、やや安堵できる事実がある。スコットランド環境保護庁(SEPA)は、スコッチウイスキー業界が「関連する法規制をもっとも遵守している業界のひとつ」であると発表した。現在のところ、スコッチウイスキーの蒸溜所の94.7%が環境に関する法規制の要請を満たしている。
スコットランド環境保護庁のスコッチウイスキー部門計画では、現在の好ましい状況を土台にしながら他の残された問題にも取り組み、さらに厳しい規制にも適合する潜在的な環境保全活動を始めたいと考えている。
業界団体が取り組みの進捗を監視
スコッチウイスキー協会とワイン&スピリッツ貿易協会(WSTA)は、合弁ベンチャー企業のスピリッツ・エナジー・エフィシェンシー・カンパニー(SEEC)を創設した。これは気候変動に関するパリ協定への対応を担う業界団体であり、英国のスピリッツ飲料業界を代表している。現在のところ英国内にある80軒の蒸溜所が加盟しており、そのうち75軒がスコッチウイスキーの蒸溜所である。
SEECには、蒸溜所以外には20社以上のスコッチウイスキー関連会社が加盟している。この業界団体への加盟者には、エネルギー効率の目標を達成していれば気候変動税の税率を優遇してもらえるというメリットがある。
最新のマイルストーンで公表されたデータ(2007年)によると、純アルコール換算(lpa)で6.75kWh/lpaという業種別のエネルギー消費目標に対して、6.66 kWh/lpaという数値でクリアしている。2010年までに、SEECの加盟社は大幅にエネルギー効率を向上させ、対1999年比で18%ものエネルギー消費を削減した。この2つの指標に関する最新の数値は、2020年末までに公表される予定である。
しかし残念ながら、進歩が見られなかった分野もある。特に単位包装(パッケージング)の重量だ。2020年までに対2012年比で10%減らす目標を立てていたが、実際には2.4%の増量となっている。これは主にスコッチウイスキーブランドがここ数年で進めてきた商品のプレミアム化によって引き起こされたもの。凝った包装によって、パッケージの重量が増すことになってしまった。
卸売と小売の分野でも、進歩の兆候はほとんど見られない。ウイスキーのサプライヤーは、大半がまだ空気入りのプラスチック製エアバッグを輸送時に使用しており、過剰包装を好まない消費者に対してもパッケージなしのオプションをほとんど提供できていない。
だが称賛に値する例もない訳ではない。エディンバラの小売店「ロイヤルマイルウイスキーズ」は、2019年からプラスチックを使用しないリサイクル可能なパッケージへと移行した。現在も受け取ったダンボールを緩衝材に再利用する循環システムを継続している。
2020年末までには、スコッチウイスキー協会の新しいレポートが公開される。この内容を見れば2009〜2020年の戦略に対する成果や失敗が明らかになり、それをもとにして2030年以降にゴールを定めた新しい目標が決められる予定だ。それまでの間は、スコッチウイスキー協会の2016年の結果が最新データとして参照できる。
(つづく)