ウェイターさん、このお料理にはバーボンが入ってるね
バーボンを料理の中心に据える二人のシェフにライザ・ワイスタックが会う。
2007年にルイビルの伝説的なブラウン・ホテルのシェフに就任したとき、ローレント・ジェローリは思いがけないカルチャーショックを受けた。フロリダ州キーウェストでリッツカールトンホテルのシェフを10年努めた後でケンタッキーにやってきた彼は、バーボンのことをほとんど何も知らなかったのだ。どのようにつくられるのかも、一般的な飲み物であることさえも。そこで直ぐにバーに向かい、自らに教育を課した。
独学を続けて間もなく、彼はシェフなら誰でも理解するはずのことに気付いた。ここにはキッチンパントリーになくてはならない香味料がある。バーでバーボンがどれほど多用されているか、少し話しておくべきだろう。強烈でコクのあるマンハッタンではライウイスキーの代役として普通に使われるし、夏の軽い1杯として定番のミントジュレップでは主役を演じるほどだ。今やアメリカのシェフたちは、バーボンの汎用性をキッチンで試す段階に入りつつある。
「どんなソースを作る場合も、優れた香味料が必要です。伝統的なペッパーコーン(黒コショウ)ソースはコニャックで作りますが、バーボンに代えると、これが何とも素晴らしい!」とジェローリは実に嬉しそうに語る。「樽をチャーすることで甘みがもたらされ、いい香味料になります。それが料理にバーボンを使う理由です」
ブラウン・ホテルは『ホット・ブラウン』というサンドイッチで有名だ。ベーコンとターキーが山盛りになったベイクドオープンサンドが、まるで火山の噴火で溢れ出した溶岩のようなチーズ入りベシャメルソースに埋まっている。この名物の誕生85周年だった昨年、同ホテルのレストランは16,000食のホット・ブラウンを売り上げた。
昨年、同ホテルのレストランは16,000食のホット・ブラウンを売り上げた。
話を戻そう、そのような次第でフランス系カナダ人のジェローリは、地元のどこにでもあるこのスピリットを活用して自身の伝統的フランス料理のレパートリーを小粋に改造し、その中から主立った料理を出すようになった。最近の創作について明確に語ってくれる。
「絶対にアイスクリームですね、バターかバニラのアイスクリームなら何でも、バーボンを使うことができます。肉や乳製品と合うんです。サーモンもいいですね、オイリーで強い味のものがいい」と彼は言う。「サラダ・ドレッシング? ダメです。軽すぎます」ときっぱり。「こってりしたものと合わせないと納得できません」。その結果が、バーボン/ベーコン・アイスクリーム(「こんなに美味しいなんて、ショックだった」)、シェリーの代わりにバーボンを使ったフランス風オニオンスープ(「ワォ!」)、そしてバーボンを1瓶丸ごと使った豚バラ肉のバーボン焼き(「バーボンのカラメルソースだらけ」)だ。
「伝統的なフランス料理では、マルサラ、マディラ、ポートなどの甘口ワインをたくさん使います」とジェローリ。「ソースを作るには強いワインが要ります。バーボンの方がアルコール度は高いのですが、それでも活用できる素晴らしい香味料です。私はソースの仕上げにさらに加えて、風味を出しています。ジンでソースを作るとしたら、考えただけで気持ちが悪くなってしまいますよ」と彼は笑うが、冗談のつもりではない。
シカゴのレストラン、ビッグ・ジョーンズでも巧みな技が生まれている。錬鉄製の椅子、シャンデリアにダマスク柄の壁紙と、南部風の魅力を感じさせるところで、バーには60種類以上のバーボンがある。このレストランの特徴は「ケイジャン、クレオール、低地地方、アパラチア地方の影響を受けた先祖伝来の家宝料理」だ。
それだけではない。シェフで共同所有者のポール・フェーリバックは、基本的には料理文化人類学者なのだ。本人の説明によると、彼は様々な地域を研究して、そこの料理の過去の傾向や伝統を調べるのだそうだ。そしてその料理を再現する。彼は自分のメニューを「地域に密着した」と形容している。
6月に彼と話したときには、ニューヨーク州南部とミシシッピ州北部の間の開けていない山岳地帯、アパラチア地方の19世紀の料理に取り組んでいた。フェーリバックとそのスタッフは、料理と同時代の技術と見せ方に重点を置く。つまり、過去から得た発想がベースになるということだ。それを基盤にして料理を構成する。そして近頃では、バーボンも全体を調和させるための重要な要素のひとつだ。チョコレートとバーボンという、明らかに上手くいく組み合わせをご紹介しよう。フェーリバックが拾い集めたクルミで作るブラックウォールナット(黒クルミ)バーボン・チョコレートタルト(「昔ながらの懐かしい田舎料理」と彼は陽気に説明する)。
しかし、ウイスキーマニアが興奮すること請け合いの一品は、この季節限定料理だ。想像して欲しい。サトウキビシロップ、バーボン、自家製ウスターソースを混ぜ合わせたものに浸したウズラをウッドグリルで焼き、最後にフォアグラバターを詰める。
「私の料理では、バーボンはワインほど慎重に扱う必要はありません。風味のほとんどが樽香とチャーに由来するものですから」と、インディアナ州のドイツ系カトリックが多い地域で育ち、「ストーブと同じくらいの背丈になった頃から」料理をしているフェーリバックは言う。「私は自分が飲むバーボンで料理します。樽木の風味の強いバーボンが好きです。料理にはバッファロートレースがとても気に入っていますね。しっかりしたフルボディのバーボンで、どう使っても際立ちます」
「料理にはバッファロートレースがとても気に入っています」
しかし、このシェフたちが見る限り、バーボンが料理に加味するのは風味とボディだけではない。「ケンタッキーのこの地には、長い歴史があります」とジェローリは言う。「私たちはポーク、ポテト、コーンが大好きで、そのような食品とバーボンがただ実によく合うんです。どれを組み合わせても、素晴らしいレシピになりますよ」