スコッチウイスキーの大麦品種

June 12, 2017


モルトウイスキーには、実にさまざまな風味がある。だが出発点はどれも大麦麦芽(モルト)と決まっている。スコッチウイスキーのメーカーが使用している大麦品種や栽培の実態ついて、イアン・ウィズニウスキが解説。

文:イアン・ウィズニウスキ

 

モルトウイスキーには、実にさまざまな風味がある。だが出発点はどれも大麦麦芽(モルト)と決まっている。スコッチウイスキーのメーカーが使用している大麦品種や栽培の実態ついて、イアン・ウィズニウスキが解説。 文:イアン・ウィズニウスキ モルトウイスキーは、さまざまな品種の大麦を原料にできる。そして現存の品種よりも優れた新種を開発するのが植物育種家の仕事だ。農家は面積あたりの収穫率が高い品種を求め、ウイスキー蒸溜所は重量あたりのアルコール収率が高い品種の開発を期待している。

ベアーズモルト社の商事課長と英国製麦業者協会の貿易委員会長を務めるエディー・ダグラス氏が、新種の開発プロセスについて教えてくれた。

「新しい大麦品種の開発と商品化には8〜10年ほどかかり、植物育種家には莫大な財政投資が必要になります。ウイスキー用の新種開発は、まず小規模な試験をもとに評価がおこなわれ、比較基準となる現行品種と比べられます。この新しい品種が畑の試験で頑健に育つと認められたら、次は民間の製麦業者によって審査され、最後はウイスキーメーカーの判断を受けることになります」

これらの試験を通過した新種は、醸造蒸溜協会(IBD)内の大麦精麦委員会によって公式に新種の大麦として認可されることになる。大麦品種の認可プロセスには3段階あり、「仮認可1」と「仮認可2」を通過した品種が追加試験によって良質であると保証された場合に初めて翌年度の栽培を認める「本認可」が下りる。

開発された大麦品種の所有権は植物育種家にあり、種の販売ごとにロイヤリティを徴収する。だがひとつの品種が市場に留まる期間は、その時々で大きな違いがあるという。エディー・ダグラス氏が説明する。

「現在の大麦品種は一般的に6〜7年で新しい品種へと推移していきますが、例外的に息の長い品種もあります。2013年まで20年にわたって使用され、その間の10年間は売上もナンバーワンだったオプティック種もそのひとつ。スコットランドの気候にとりわけ適した品種で、収穫直前の4〜5日間が雨続きの場合でも、穀物の品質を維持することができました」

翌年度からの使用を本認可されたウイスキー用の大麦品種は、毎秋IBDが公表する。2017年にスコットランドで収穫される品種はコンチェルト、ベルグレイヴィア、オクテイヴィア、オデッセイ。これらの品種でもっともキャリアが長いのは、2010年の収穫から本認可が下りているベルグレイヴィアだ。コンチェルトは2011年、オデッセイは2013年、オクテイヴィアは2016年からそれぞれ収穫されている品種である。

 

生育環境と天候で品種を決める

 

栽培する大麦品種は、常に生育環境にあわせて選ばれている。品種の潜在力をもれなく引き出すには、あらゆる要素を勘案に入れなければならない。農家の栽培や耕作方法、そしてもちろん天候も重要な要素だ。オークニーのハイランズ・アンド・アイランズ大学で農学会長を務めるピーター・マーティン氏は語る。

「潜在的な収穫可能量のベースは、気温と日照量で決まります。一定の降水量は必要ですが、一時期に集中して雨が降りすぎるのはよくありません。種まきの直後に雨が多く寒い日が続くと、うまく発芽してくれません。収穫期に近づいてきたら、雨が少ないほうが収穫もやりやすく有利です。生育期の気温が低く、雨が多い年には収穫がかなり遅れます。最近では、2015年のスコットランドがそんな状況でした」

同じスコットランドでも、地域によって天候は異なる。そのため同じ大麦品種が耕作地ごとの条件によって異なった結果をもたらすこともある。興味深い2つの例が、オークニー諸島とアイラ島だ。ピーター・マーティン氏が説明する。

「オークニーは、スコットランドでモルト用の大麦が栽培される北限地です。収穫率がスコットランド本土に比べて10%も低くなったり、かと思えばスコットランド平均を上回る年もあります。この増減の主因は天候です。生育時のオークニーの気温はスコットランド南部ほど高くないので、生育もやや遅くなります。その一方、高緯度で夏の日照時間が長いため、このマイナスをカバーする年もあるのです」

アイラ島では、キルホーマンとブルックラディがアイラ産の大麦からウイスキーをつくっている。キルホーマン社長のアントニー・ウィルズ氏が説明する。

「アイラ島は、モルト用大麦の栽培に適した土地ではありません。一般的にスコットランド西岸は雨が多く日照時間も少ないからです。ここ2年の収穫もうまくいきませんでした。大麦が成熟する7~8月の日照が充分ではなかったからです。でもその前の5年間は、とてもよい収穫量が得られましたよ」

それでもウイスキーの場合は、収穫効率の他にも重大な要素がある。この地であえて大麦を栽培する理由をアントニー・ウィルズが教えてくれた。

「自分が飲むウイスキーのトレーサビリティを気にする人が増えてきたんです。アイラ産大麦を100%使用しているという事実を重要視する人は多く、キルホーマンでも2011年よりアイラ100%のウイスキーを発売しています。アイラ産大麦の生産量を増やすため、現在もかなり大型の投資をおこなっているところです」

 

スコッチウイスキー用の大麦とは

 

スコットランドのモルトウイスキーは、二条大麦の春蒔き品種(3月~4月上旬に種蒔きをして8月~9月に収穫)からつくられる。冬蒔き大麦(8~9月に種蒔きをして翌年7月〜8月上旬に収穫)は、一般的にウイスキーには用いられない。

大麦品種は、成熟の時期によって早生品種と晩生品種に分類される。 早生品種は通常8月に収穫され、晩生品種は9月に収穫される。コンチェルト、オクテイヴィア、オデッセイ、ベルグレイヴィアはどれも晩生品種である。同じ品種であっても、スコットランド北部ではスコットランド南端よりも通常で1〜2週間ほど収穫日が遅い。特に9月になると天候が変わりやすくなるため、収穫日も大きく左右されることがある。

スコットランド政府が発表した2016年の統計によると、スコットランド内における春蒔き大麦の作付面積は、2015年に比べて7%少ない239,000ヘクタールだった。だがこの作付面積は過去20年の間に220,639〜296,443ヘクタールの間で増減を繰り返している。2016年の総収穫量は129万トンで、ピークだった2013年の171万トンを下回っている。

 

 

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