アルコール度数が意味するもの

April 24, 2018

市場に出回るモルトウイスキーは、アルコール度数もさまざまだ。実際のところ、ボトリング時のアルコール度数はウイスキーにどのような違いをもたらすのだろうか。イアン・ウィズニウスキが、業界を代表する識者に訊く。

文:イアン・ウィズニウスキ

 

モルトウイスキーを選ぶ際に、検討すべきいくつかの項目がある。まずは蒸溜所。さらには熟成年数とスタイル。もちろん価格は言うに及ばない。

そしてアルコール度数もまた、チェックすべき大切な要素だ。アルコール度数は、モルトウイスキーのフレーバー構成に影響を与える。そのため同じブランドでも、異なったアルコール度数でボトリングされると風味の濃度や表現に変化が現れるのである。

ボトリング時のアルコール度数は、ウイスキーに加水することで一定の数値に揃えている場合が多い。だがカスクストレングス(樽熟成時の度数そのまま)の場合、そのアルコール度数は熟成の結果として到達した数値ということになる。

多くのモルトウイスキーが、アルコール度数40%でボトリングされていることはご存じだろう。これはEUがスコッチウイスキーを定義する条件に従った下限の数字である。次に多い43%は「エクスポートストレングス」とも呼ばれ、国際市場で流通するスコッチウイスキーの伝統的な度数だ。南アフリカをはじめとして、43%をウイスキーのアルコール度数の下限と定めている国もある。

今や主流のひとつになった46%は、ノンチルフィルタリングのウイスキーに一般的な度数だ。チルフィルタリング(ウイスキーを低温に冷やしてフィルターを通す行程)をおこなわないでモルトウイスキーをボトリングする際に、最低限必要なアルコール度数が46%なのである。これより低い度数でボトリングされるウイスキーは、チルフィルタリングが必要になる。なぜならウイスキーが低温に晒されたときに、色が濁ってしまう可能性があるからだ。ただしチルフィルタリングのプロセスにいくつものアプローチがあり、効果に関する意見も様々ある。フィルタリング時の温度についても見解は分かれている。

カスクストレングスのボトリングは、さまざまなアルコール度数でおこなわれる。熟成年の長さによっては、通常のボトリングの度数を下回る場合もある。熟成期間中に、アルコール度数が少しずつ減少していくからだ。だがどんな度数であっても、そのスタイルにしか表現できない魅力がある。エドリントンのマスターウイスキーメーカー、ゴードン・モーション氏が説明する。

「カスクストレングスは、樽内とまったく同じ状態でウイスキーをボトリングして出荷します。何も加えず、特別な仕掛けもありません。多くの人々がその魅力に気づき始め、今ではカスクストレングスの需要も大幅に伸びてきました」

 

加水によるフレーバー構成への影響

 

アルコール度数自体は、フレーバー構成にどのような影響を与えるのだろうか。

「一般的に、アルコール度数が高いウイスキーのほうがフレーバーの集中度が上がって濃密になりますね」

そう答えてくれたのは、シーバス・ブラザーズのマスターブレンダーを務めるサンディー・ヒスロップ氏だ。これにウィリアム・グラント&サンズのマスターブレンダーであるブライアン・キンズマン氏も付け加える。

「アルコールには、風味要素の運び屋といった役割もあります。アルコール自体がモルトウイスキーの特性を変化させることはほとんどありませんが、フレーバー体験には大いに影響を与えます。アルコール度数が下がるにつれて、さまざまな風味要素が開きやすくなってくるからです」

モルトウイスキーのアルコール度数を下げるにつれて、どのような変化が予測されるのだろう。インバーハウス・ディスティラーズのマスターブレンダー、スチュアート・ハーヴェイ氏が説明する。

「アルコール度数が異なると、顕著に現れる風味要素も変化します。ドライフルーツなどのリッチなフレーバーは、おおむね高めの度数で開く傾向があります。このリッチなフレーバーが開くと、柑橘などの軽やかな風味を圧倒してしまうことも頭に入れておきましょう。軽やかな風味は、低めのアルコール度数で表現されやすい要素ですが、これもモルトウイスキーの個性によるので一概には言えません。柑橘風味などのトップノートが強いウイスキーと、リッチな風味要素の割合が高いウイスキーではおのずと変化の様子も異なります」

このような議論で思い出すのは、グラスに注いだモルトウイスキーを水で割ると風味が変化するメカニズムである。サンディー・ヒスロップ氏が語る。

「モルトウイスキーを飲むときには、さまざまなアルコール度数を試してみるように勧めています。例えば『ザ・グレンリベット ナデューラ』や『アベラワー アブーナ』などのカスクストレングスのモルトウイスキーを味わうときは、まず水をほんの少しだけ入れてから飲んでみましょう。そして、また少し水を入れてから味を見て、これを繰り返しながら自分の好みにいちばんあったアルコール度数を見つけるのです。カスクストレングスのトーモアには、濃厚なオレンジマーマレードの風味があります。でも水を加えて40%までアルコール度数を下げると、このオレンジ風味に甘味が増して、柔らかなキャラメルやバニラの要素も伴ってきます」

ブライアン・キンズマン氏が教えてくれた実例には、注意すべきアドバイスも含まれている。

「アルコール度数47.8%でボトリングされた『バルヴェニー 12年 シングルバレル』に水を加えると、フルーツやハチミツなどの甘みが増大します。でもこの傾向が心地よく感じるのは、ある一定のレベルまで。度を過ぎて薄めすぎると、モルトウイスキーのボディが台無しになるのでご注意を」

 

熟成期間中のアルコール度数の変化

 

1975年に蒸溜したグレンロセスのサンプル。カスクストレングスだが、長期間にわたる熟成によってアルコール度数が46.3%にまで減っている。

ニューメイクスピリッツのアルコール度数はおおむね70%程度で取り出される。これを樽入れして熟成する前に、多くの場合は加水して63.5%程度までに薄められる。重要なのは、樽材のオークが多孔質であることだ。そのため熟成の過程で水分とアルコール分が樽内から蒸発していく。ブライアン・キンズマン氏が、このメカニズムを解説してくれた。

「樽入してから最初の約12年間は、蒸発のスピードが毎年2%程度。それを過ぎると蒸発のスピードが落ちて、毎年1%程度になります。そして20年を過ぎるとさらに蒸発はゆっくりになり、年間1%を切ったり、時には0.5%程度にまで落ちることもあります」

そして蒸発するのは水だけではない。大きな変化はアルコール度数にも現れる。ブライアン・キンズマン氏の説明は続く。

「樽からの蒸発は、熟成中にアルコール度数を減少させる主な原因になります。熟成期間が12年くらいまでは、アルコール度数も年間約0.5%ほどのペースで減っていきます。しかしその後は、蒸発率に従ってアルコールの減少率も小さくなるのです」

 

 

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