アメリカンウイスキー新時代1 / コルセア蒸溜所【前編】
禁酒法時代に暗躍したムーンシャイナー(密造酒製造者)は、どうやら今も健在のようだ。あくまでオリジナリティーを追求する米国の新しいウイスキーづくりには、真の開拓者精神が生きている。3つの蒸溜所を、シリーズでご紹介しよう。
文:デイヴ・ブルーム
オルト・ウイスキーのパイオニア
ダレク・ベル(コルセア蒸溜所、テネシー州・ケンタッキー州)
ダレク・ベルは、知る人ぞ知るコルセア蒸溜所を2007年に設立し、現在では2つの蒸溜所の経営者となった人物だ。蒸溜所のひとつはテネシー州ナッシュビル、もうひとつはケンタッキー州ボーリンググリーンにある。
これまでのベルの経緯を訊ねれば、他のクラフトディスティラーとだいたい同じような創業秘話が聞けるだろう。しかし、この世界に飛び込んだ後で、どのようにして自分流の蒸溜技術を研ぎすませてきたかという話になると、彼の右に出る者はいないはずだ。ダレク・ベルは、他のどんなディスティラーよりも急進的な進化を遂げてきたのである。
ベルは、誰もが知っているウイスキーをつくっているのではない。彼が正確に定義するところの「オルト・ウイスキー」、つまり既存のウイスキーとは異なった材料や製法を用いるウイスキーを開発する先駆者である。その自由闊達な実験精神は、ウイスキーの可能性について開かれた視野をもたらしてくれる。
おそらく酒づくりはベルの天職だったのだろう。5年に渡って自家醸造のビール、ワイン、日本酒などを造った後で、彼はニューヨークで忘れがたい出会いを経験する。それは、アブサンを造っているという「アンダーグラウンド・アーバン・ムーンシャイナー(都会派の地下密造酒製造者)」を自称する男。彼の話に触発されたベルは蒸溜酒への憧れを抱き、ウイスキーづくりの構想を抱くようになる。
「その後、テネシーに帰ってバイオディーゼル油製造の仕事を始めました。あるとき、汗をかきながら仕事をしているときに、ビジネスパートナーのアンドリューがこう言うんです。『俺たち、こんなバイオディーゼル油なんかじゃなく、ウイスキーをつくっていたら毎日が楽しくてしようがないだろうな』って。その日を境に、ウイスキーだけをつくろうと決めました」
しかしそのウイスキーがくせ者だった。ベルが考えるウイスキーは、その辺にあるウイスキーと同じではない。彼の新刊書『オルト・ウイスキー』には、その秘密が事細かに記されている。
「こうしたらどうなる? という疑問が浮かんだら、試さずにはいられない。だからオートミール、スペルト小麦、キヌア、ジュズダマなどの様々な穀物でスピリッツをつくってみました。実験の結果は、すべて本に記載されていますよ」
穀物をスモークするのにも、サクラ、カバ、メスキート、ハンの木、ササフラス、キアヴェなどの木材をひととおり使用して違いを確認した。これらはみな、ビール醸造のテクニックである。カモミールやハックルベリーのエキスを注入するため、カーターヘッド式の蒸溜機を使用している。ベルは美味しい蒸溜酒のレシピを発見するため、ゼロベースであらゆるアイデアを検証しているのだ。