蒸溜所ツーリング【4日目/全7日】

June 18, 2013

ツーリングをしながらブレンデッドウイスキーを完成させる「ジャーニーブレンド」もついに中盤へとさしかかった。スコットランドを巡る旅は長く、楽しくも辛い。

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旅のチームは以下の3人。ウイスキーマガジンのロブ・アランソン(RA)、BBCスコットランド代表のトム・モートン(TM)、そしてカメラマンのケン・ハミルトン(KH)である。それぞれの手記を紹介する。

6月5日

フォート・ウィリアムからポート・アスケーグ
150マイル

RA:再び早朝より活動開始。シングルモルトTVのロブ・ドレイパーが駐車場でボン・ネビルエンフィールドに小さなリップスティック型のカメラを取り付けていた。走行中の映像を撮ろうというわけだ。

オーバンに着いたときには、長時間のライドで疲れていたため、何か揚げ物を食べようという話になった。海岸通りに良い店を発見。一皿山盛りで1.99ポンドである。

再びフェリーに乗船。バイクでフェリーのデッキに乗り降りすることも楽しくなってきた。雨にも関わらずサンデッキにのぼり、会話を楽しんだ。食事は美味しいエビとチップスがたくさん。

ポート・アスケイグに近付いたときに雹が降った。6月のスコットランドなんてこんなものだ。キルホーマンに向かう奇妙な一団の我々に羊や牛を出逢えなくするように、島全体を嵐がひと嘗めして行ったのだ。

アイラ島の最も西端にある新しい蒸溜所。我々が訪れたときには海風によって砂が吹き付けられていた。

キルホーマン蒸溜について知るべきことを1ヵ所に集めた場所である。モルティングから始まり、マッシング、蒸溜、瓶詰そして熟成まで。全てがここにある。腰を降ろして近くの畑で成長する麦を眺めることさえ可能だ。しかし今の我々にはやるべきことがある。というよりオーナーの息子が驚くべき仕事ぶりを見せてくれた。

サンプルは入手した。まだポート・アスケイグに戻らなければならなかったので、蒸溜所でのテイスティングは行わなかった。眺望を楽しもうと我々はキルホーマン・チャーチの道を上った。

ここにはアイラ島の有名な十字架のひとつが存在している。14世紀の十字架はその背面にキリストの象徴的意味を取り込んでいる。またその足元には、穴の深さから判断すると、もう何十年も人々がこの滑らかな岩の上の窪みにお金を置き続けていることがわかる。伝統に逆らう必要はない。穴のひとつにお金を置き、残りの旅のために短いお祈りを捧げた。

ホテルに戻り、アンソニーが蒸溜所で渡してくれた3つのサンプルから選択する準備を整えた。

正直なところ、最初はピートをやり過ごすのが難しかった。3種のサンプルはいずれもたったの3年しか経過しておらず、若々しく力強くアルコールに満ちている。我々はより樽の影響を受けているサンプルを選び出した。ジャーニーブレンドのジグソーのピースが嵌り始めた。

KH:ケナクレイグからのフェリーに乗るために早起きをした。トムは出発が早すぎると思ったらしいが、これまでエンフィールドと一緒に旅をしたことがなかったらしい。

オーバンで朝食。ケナクレイグに向かう前に港でたくさんの写真と動画撮影。15マイル手前で道が渋滞。この機を逃さずロブ・ドレイパーは道の横で塀の上に座り我々を撮影。

島に渡り急いでキルホーマンへ。出迎えてくれたのはアンソニー・ウィルズ。私にとって3度目の蒸溜所ツアーだ! この蒸溜所はとても興味深い。何故ならローカル・アプローチを採用しているからだ。地元の農場で収穫された大麦がウイスキーに使われている。できたウイスキーはブレンドには使われない。しかし、今回のジャーニーブレンドは例外だ!

アンソニーはスピリッツがスティルの銅と相互作用することについて触れたが、やはりどのようにそれが行われるのかを説明できなかった。「ジョン・ラムゼイに聞いてくれ、彼なら知っているから」と、どこかで聞いた答えが返ってきた(2日目のレポートを参照)。サンプルを入手し、近所の教会の庭を散策した。中世の十字架と墓石があった。教会そのものが興味深かったのだが、フェンスで囲まれていて近付けなかった。

TM:確かに「とても早い」出発だ。給油してオーバンを出る準備ができたのは午前8時頃である。しかも朝食抜き。

バイクと、朝食抜きは良い組合せとは言えない。そして、これこそがバイク移動と人間の固形/液体物質の取り込みに関する全ての理論的な疑問が私の頭を悩まし始めるのである。

バイクに乗って、普通に走っているとしよう。たとえば時速55マイルで4時間。これは嵐のように吹き付ける風の中に立っているようなものである、とても厳しい。多かれ少なかれ跳ね上がり弾みあがりちょっとの不注意で運転手を殺しかねない機械を押さえつけなければならないのである。一方より大きくて硬い金属の塊に乗った人間も次の瞬間にはあなたを殺しかねない。

これはエキサイティングかつスリリングな経験である。だが多くのエネルギーを必要とする。ゆえに大量の食事の摂取が本質的に大切なのである。サラダでは役に立たない。少しばかりのラディッシュとセイヨウゴボウではあなたのモーターは回らない。欲しいのは朝食だ。クロワッサンとカプチーノではなく、紅茶と脂質が必要なのだ

我々はその両方を「マックT」という店で見つけた。全てを含んで1.99ポンドである。これが由緒あるオーバンの店、マック・タビッシュ・キッチンの新しい名前であることに気付くのにしばらく時間がかかった。オーブンから焼きたてのフルーツ・スコーンが出てきたという声に応えて、我々は全員が2個ずつ注文した。バターをたっぷりつけて。脂質にありつけた!

ケンのバイクについていくと、英国の子供番組に出てくる船に似たタルバート号が左手に姿を表した。静かで平和な航海だった。私は14時間(時には36時間)に及ぶ悪夢のような強風のなかの揺れる航海(北海からシェットランドまでの)に慣れている。だからこんなものはなんでもない。ポートアスケイグでバイクを解きアイラ島へ。

本当に短い訪問だ。今は15時30分、さあ陸の者に戻ってキルホーマンを目指せ。

ということで、埃っぽい農道を突き進み、スコットランドで唯一の畝状のモルティング・キルンのある場所に来た。

創業者アンソニー・ウィルズの自家モルティングに対する拘りはその初期のころ危うくプロジェクトを殺してしまうところだった。キルンが火災を起こしたのである。それは再建され、小さなモルティングは栄誉を手にした。それは近隣の農場の大麦を使い全てのウイスキーづくりの過程をその場で見せるといったアンソニーのコミットメントへの賞賛の表れだ。600万ポンドではあるが、スコットランド最西端の蒸溜所に対するものとしては大きな投資である。

だが最小ではない。アンソニーによれば、エドラダワーと同じ大きさだという。エドラダワーは公式な意味でスコットランド最小の蒸溜所である(少なくともルイスのアブハイン・デアーグが稼働するまでは。蒸溜所は明らかにより小さくそして、もっと西に位置しているのである)。

素晴らしいビジターセンター、きっちり作り込まれたウォッシュバックとマッシュタン、素晴らしいスティルルーム。アンソニーは元ワイン商だが、今は人生をこのプロジェクトに賭けている。そして遂に計画が実現に向かいつつあるようだ。

我々は熟成庫に向かった。そこではアンソニーの息子がいくつかの樽を叩き開栓するものを選んでいる。我々は3つのサンプルを小瓶に分けて貰った。いずれも熟成に使われたアメリカン・バーボン・カスク由来の炭の粉が混ざっている。ポート・アスケイグへ持ち帰りホテルで調べることにしよう。

夕食の後、3つのキルホーマンを試してみた。正直な話、いずれも過剰にピーティで、若いものばかりだ。何かが常にこちらに挑みかかってくるようだ。

これは「ニュースピリッツ」として扱うべきだ。あまりにも強烈で味蕾と鼻腔にしばらくの間影響を与え続けるだろう。一番刺激の少ないウイスキーを選び、我々は眠りについた。
ローランドのブラドノック蒸溜所へ旅は続く。

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