アメリカンウイスキー新時代1 / コルセア蒸溜所【後編】

January 24, 2013

アメリカンウイスキーのシリーズ1弾目では革新的な蒸溜を創り出すコルセア蒸溜所を紹介している。前編で理解いただけたように、普通とは違う「オルト・ウイスキー」をつくる蒸溜所なのだ。
文:デイヴ・ブルーム

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まったく新しいウイスキーの創造

ダレク・ベルには、既存のウイスキーづくりを踏襲する気は毛頭ない。
「ウイスキーづくりは極端なまでに伝統重視です。ほとんどのディスティラーはリスクを冒さない。だから僕らは『過去に試みられたものには興味がない』という精神で仕事に向かっています

そのお手本としてベルが注目したのは、より実験精神が旺盛なビール醸造家たちの前例だった。

「クラフトビールの醸造家を見てください。彼らは100種類以上の麦芽や添加物を駆使し、巨大なパレットで新しい絵を描こうとしています。それなのに、なぜウイスキーのディスティラーたちは、今までこの素晴らしい穀物たちでウイスキーづくりを試みてみなかったのかが不思議でなりません。またこの国には素晴らしい堅木や燻製の伝統があるというのに、そのスモークを取り入れたウイスキーをつくったアメリカ人がいなかったのはどういうわけでしょう?

レシピのほとんどが、「ええいどうにでもなれ、とりあえずやってみよう」という姿勢から生まれた実験の産物なのだという。最良のウイスキーは、しばしば自然発生的な思いつきから生まれてくる。それがダレク・ベルのやり方だ。

しかし逆に考えてみると、ベルがあえてそのような手法をとっているのは、より大規模な同業者がすでにいたからなのかもしれない。

「確かにそれもありますね。僕らは巨大な企業の陰に隠れた存在でした。競争するときの圧倒的な物量の差は先刻承知なので、根本的に異なった製品をつくろうと試みてきたわけです。幸運なことに、僕らの世代は、父親世代が飲んできたものにさほど魅力を感じていません。父はジムビームが好きだけど、僕はバルコンズランブルやシャーベイウイスキーを選びます」

さて、重要なのはスピリッツの品質である。これまでのウイスキーとは異なる、革新的なオルト・ウイスキーの開発と、美味しいお酒をつくるのはまた別の問題だ。ベルは言う。

「どんな新しい製造法を採るにしても、品質を最優先すべきで、手間を省いたりしてはいけません。正直に、自分自身のスピリッツをつくらなければならないと思っています。でも新参の蒸溜所はほとんどが大メーカーの真似ばかりで、独自のスタイルを築いたり、新しい提案をしたりということがない。そんな蒸溜所が生み出すのは、すでに確立されたスタイルの模倣でしかありません。さらに悪いことには、他人がつくったスピリッツを瓶詰めしている者までいる有様です。僕はさらなる創造性や多様性を実現させてみたい。クラフトビールのブームが発言力を持つまでにはけっこう時間がかかりましたが、蒸溜についても同じ。クラフトディスティラーが独自の表現を見つけて認められるまでには、もう少し時間がかかるでしょうね」

イノベーターはいつの時代も孤独である。ベルの力強い主張を、これからも見守っていきたい。

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