一流シェフはウイスキーがお好き

January 12, 2013

世界最高のシェフ、アルベール・ルー。彼はウイスキーが大好きだ
Report:ガヴィン・D・スミス

アルベール・ルーは現代のレストラン料理のゴッドファーザーと呼ばれてきた。そして、ゴードン・ラムゼイ、ピエール・コフマン、マーカス・ウェアリング、マルコ・ピエール・ホワイトなど、正真正銘の著名なシェフたちが彼のキッチンで仕事をしてきた。

ルーは75歳(2010年現在)、杖をついて歩いてくる姿は、シシリア・マフィアのゴッドファーザー……ではなく、料理界の大物そのものだ。明白な存在感があり、間違いなく今もエネルギッシュで情熱的で献身的であるが、フランス人独特の魅力、暖かさ、茶目っ気のあるユーモア感覚に満ちている。

ルーは、養豚業者の息子で、ブルゴーニュのスミュール・アン・ブリオネ出身。幼い頃に聖職につく勉強を始めたが、シェフとしての職業を追求することを選び、最初はパティシエの見習いになった。「とても悪い司祭になっていたと思いますよ」と彼はクスクス笑いながら言う。

1952年、彼はナンシー・アスター子爵夫人のクライブデン・カントリーハウスで職を得て、それ以来英国が大好きになった。一連の錚々たる職場に勤めたあと、ルーとマイケルの兄弟は勇気をもって一歩を踏み出す。ロンドンのメイフェアーに、レストラン「ル・ガヴロシュ」をオープンしたのだ。ここは英国でミシュランの3つ星を与えられた初めてのレストランとなり、亡き皇太后のお気に入りの店という名声も得た

開店以来40年以上経ているが、「ル・ガヴロシュ」は今も繁盛している。大英帝国爵位とレジオン・ドヌール勲章を授かったルーは、その他多くのプロジェクトを展開した。自身で設立した「アルベール・ルー・コンサルタンシー」主宰により、ヒースロー空港の第5ターミナルや、テキサスのラ・トレッタ・レイク・アンド・スパのような非常に離れたところで「シェ・ルー」を展開している。

彼の英国における最新のビジネスはグレイウォールズ・ホテルの「シェ・ルー」だ。ウィーヴァー一族が所有するこのホテルはルティエンスが設計したカントリーハウススタイルのとても素晴らしい施設であり、インヴァーロッヒー・キャッスル・マネージメント・インターナショナルが管理している。グレイウォールズは、エディンバラから20マイル東にあるガラン村の高級なミューアフィールドゴルフコースのそばにあり、フォース湾を見下ろしている。

グレイウォールズの「シェ・ルー」は、インヴァネスのロックポール・リザーヴ・ホテルやウエスト・ハイランド地方、ロッヒンバーのインヴァー・ロッジにおける「シェ・ルー」オープンに続くものであるが、このどちらにもアルベール・ルーが個人的関心を深く示していた。


彼は長年にわたってスコットランドを愛しているが、そこには自ら「この国のワイン」と呼ぶものに対する愛情も含まれている。

「本当はブランデーよりもウイスキーが好きなのですが」と彼は言う。「決して水は足さず、いつもストレートで飲みます。アイラでちょっと古い年数のもの、フルでピーティなものが好きです。夕食後に飲みます」

彼はグレイウォールズにいるときに、15マイルほど先のペンケイトランドで蒸溜された地元のモルト、グレンキンチーを夕食前に1、2杯飲むのも嫌いではない。また、ここグレイウォールズ・ホテルには自慢の専用のウイスキールームがあり、非常に珍しいシングルモルトと高級なブレンデッドウイスキーが備えられている


「スコットランドといえばウイスキーです」とルーは言う。「その評判に匹敵するものはありません。悲劇であったのは課税の歴史です。税金のおかげで罰せられたり、時には廃棄されられたりしたこともありました」

「料理にはウイスキーよりもブランデーを使います。ウイスキーの方が高価だからです。フランスにはブランデーがあふれていますからね。しかし、ウイスキーを使えば美味しくなるでしょうから、将来はウイスキーを試すかもしれません。ウイスキーを使った料理はスコットランドのレストランにとても合うと思います。さまざまなウイスキーのスタイルはきっと料理に活かされることでしょう」

ルーはウイスキーをフードに合わせるということが大好きというわけではない。

「ウイスキーは貴重すぎていろいろな食べ物との相性を試すことができません! ウイスキーはブランデーよりも非常に豊かなフレーバーを持っています」

スコットランドが料理に関して「揚げチョコバー&チップス」的不健康さから脱却始めたのはようやくここ数年のことだ。

「英国に初めて来たとき、ここは料理の砂漠地帯でした」と彼は言う。「イングランド人は自分の土地の名産品にスコットランド人よりも先に気付きはしましたが、今やスコットランド人が追いつきつつあります。変革が起き、大勢の地元の若者が調理場で働くようになりました。非常に活気があります」

グレイウォールズ・ホテルのシェ・ルーは、「地元の食材を使ってひらめきのある軽やかな一流のフランス料理」をつくるというシェフの方針を守っている。

「私は、自然で良質な地元の食材に情熱を傾けています」とルーは強調する。「スコットランドでは最上級の牛肉が手に入ります、アバディーン・アンガス・ビーフだけではなくベルテッド・ギャロウェイ種やハイランド・キャトル種もあります。素晴らしいラムもあり、ジビエ料理ではどこにも負けません。ガラン周辺のイースト・ロシアン地域は非常に肥沃で、見事なジャガイモや、アスパラガスのような野菜が育ちます。そして、海は素晴らしい食材の宝庫です」

したがって、グレイウォールズの「シェ・ルー」のメニューには、現地特産のカニ、サーモン、ラムの料理が並ぶ。そしてルーは、「メニューの少なくとも90%がスコットランド産であることが重要なのです」と述べる。

彼は旬のものを非常に重んじ、「12月にイチゴ、夏にアスパラガスをオーダーしてはいけません。メニューは地元の季節の移り変わりに従います。季節の到来とその季節に味わえる食べ物を期待して待つことは、大きな喜びです

ルーの実績は、素晴しい食べ物に限らず、人間の素質をも見抜いて育てる能力があることを物語っている。「私にとって、若い人を教え育てることは使命です。そのことに情熱を感じます」と彼は言う。

西スコットランド生まれのデレク・ジョンストーンは「マスターシェフコンテスト2008」というテレビ番組で優勝して、現在は、グレンウォールズ・ホテルのヘッドシェフとしての訓練を受けている。「デレクだったら世界最高峰のシェフになれるでしょう。そういう人物です。将来有望で、性格もとてもよいです」と。

「セレブ・シェフ」なる熱狂は英国でルーが働くようになってから生まれた。彼は、「王立演劇アカデミーにでも入ったほうが良かったような人がこの業界に来ている」と感じている。

しかし同時に彼はこうも言う。「セレブ・シェフは料理に対する関心を高めました。テレビによって食べ物に対する関心は高まります。それは悪いことではないでしょう」

アルベール・ルーは、彼にこのような輝かしい経歴を与えてくれた料理の哲学を「美しい女性のよう」であるとまとめる。「美しい女性は自分の顔をマスカラや白粉で隠したりはしません。支度するのに2、3分かけるだけです。美味しい食事も同じです」

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