家族経営の力学 その3【全4回】

July 11, 2012

「家族経営」第3回目となる今回は、デイヴ・ブルームがスプリングバンクをレポート。

1820年代に(合法的な)ウイスキー事業に参入した家族のひとつがキャンベルタウンのミッチェル家であった。キンタイアが密輸時代に粗悪な違法ウイスキーの大量生産で名を馳せたことは、スティル職人のロバート・アーマーによる記録が証明している。記録によると、アーチボルド・ミッチェル・シニアは地元の銅職人(おそらくアーマー)と親しく、今日スプリングバンク蒸溜所が建っている場所で違法のスティルを動かしていた。実際、ミッチェル家は「ウィー・トゥーン」(キャンベルタウンの愛称)の3つの蒸溜所、スプリングバンク、グレンガイル、リーヒラカンの設立に関与した。

当時以降、キャンベルタウンの命運は上昇し、そして衰退した。現在、かつてはウイスキー製造の中心だったスコットランドのこの街はひっそりとして、入り江(ロッホ)そのものがウイスキーでできているのではないかと皆が思うほどに辺りを芳香で満たしていた60を超える蒸溜所も3カ所にまで減少した。キャンベルタウンの蒸溜業者の激減を考えると信じがたいことに、その2つ(スプリングバンクとグレンガイル)はアーチボルド・シニアの来孫(曾々々々孫)、ヘドリー・ライト氏が所有している。アーチボルド・ミッチェルの最初の構想を形作った精神は今も健在だ。

「私たちは手作りのウイスキーを生産していることで有名です」とマネージャーのフランク・マクハーディは言う。スプリングバンクはスコットランドで唯一、原料の大麦からボトリングまですべてのウイスキー製造工程を同じ場所で行う蒸溜所だ。

「ライト氏は、伝統的な製造工程を維持するために、予測可能な将来にわたりこの状況が続くことを願っています。当社が家族経営でなければ、そのような計画を継続できるか疑わしかったことでしょう」
それはつまり、大手のプレイヤーより家族会社の方が伝統的な方法に通じているということだろうか?
「古くからの家族会社であれば、製造方法の伝統が最も重要なはずです。スプリングバンク蒸溜所では誰もが、創立一家の各世代にわたって受け継がれてきた遺産について熟知しています」

昔ながらの蒸溜業者としてスプリングバンクのほとんどの人の見解には、この伝統的な価値観に対する信頼とその遵守という特徴が見られる。手作りの製法、直火、ノンチルフィルターでノンカラー、自社ボトリングへのこだわりから、特異的、さらには慣習打破的とさえ思われることもある。それでも、ブルイックラディやキルホーマンなどの新しい蒸溜所が建設されたとき、ウイスキーづくりに対する取り組み方の見本にしたのは21世紀のプラントではなく、1カ所で複数の様式のウイスキーをつくる、地元の大麦を使うなどのスプリングバンク蒸溜所のやり方であった。言い換えると、スプリングバンクはウイスキー業界で孤立しているのではなく、ニューウェーブの中心にある。と言っても、ライト氏はそのようなことなど別に気に掛けないだろうが。彼は自分がしたいようにウイスキーをつくるだけで、広い業界や様々な評論家の意見に煩わされることはない。マクハーディも認めているように、この手工業的取り組み方の欠点は価格だ。
「当社の単価は他のほとんどの会社より高くなります。それでも私たちは、伝統的な製法の方が経費削減より重要だと考えています。これは、家族経営だからこそできることです。独立した家族経営の会社であるため、ビジネスのやり方に関してほぼ直ぐに決定を下すことができます」

スプリングバンク蒸溜所は予算的に可能な量だけウイスキーをつくっている。数年前に大麦と石油の価格が急騰したときは、稼働停止期間を延長しただけだった。情報不足の評論家たちはこの蒸溜所が閉鎖になると言ったが、従業員は保全作業に精を出し、価格が下がってから蒸溜を再開して経費を削減した。それは長期展望があるということだ。では、21世紀における家族会社の役割はどうなるのか?
「現在の経済状況において、すべての家族会社に果たすべき役割があります」とマクハーディは言う。「大衆の大部分は家族経営の中小企業について、ほぼ手作りの製品を生産すると正しく認識しています。家族経営のアルコールメーカーが良い製品をつくり、品質で妥協せずに、能力以上の生産増加を望まなければ、絶滅危惧種になるようなことはないでしょう。私たちは決して大会社と競争しませんし、そのため私たちのような会社にも必ず居場所があると見ています」。
そして将来は?
「私たちは会社という構造の中で常に家族のつながりを維持するつもりです」
伝統、品質、一貫性、そして予算の範囲内で仕事をする。変える必要などあるだろうか?

 

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