樽が重要 最終回【全3回】

June 25, 2012

ワインとオーク

ガヴィン・D・スミスが、フレンチオークがもたらす影響について、ジョン・グレイサーと語る。

スコッチウイスキーの世界で革新と言えば、コンパスボックス・デリシャスウイスキー社の創設者ジョン・グレイサーが賞賛に値する。探求心から、木材の選択と熟成方法に関して受け入れられている通念に疑問を持ったグレイサーは、2005年にザ・スパイス・ツリーという名称の「ヴァッテドモルト」を発表して、スコッチウイスキー協会(SWA)による不承認という憂き目に遭った。

グレイサーのザ・スパイス・ツリーは、アメリカンオーク樽のファーストフィルとリフィル混合で従来通りに10年ほど熟成させた多くのモルトウイスキーを、強くトーストした新しいフレンチオークの平樽板を装着した樽で独特に後熟させたものだ。しかし、ワイン製造業者が日常的に使用しているこの方法が、スコッチウイスキーの観点では「伝統的」ではないとSWAから見なされたため、グレイサーは2006年に同製品を引き上げたが、その品質と完全性に対する確信は揺るがなかった。

ジョン・グレイサーは信ずる考えをたやすく諦めるような男ではなく、2009年にはモルトと樽の組み合わせは同じだが、グレイサーが「天板がフレンチオークのアメリカンオーク樽」と描写する「慣行」樽で二次熟成を行った次世代のザ・スパイス・ツリーが登場した。最初のザ・スパイス・ツリーの多くのファンが安堵したことに、この方法はSWAの「伝統的」の解釈に違反しなかった。

では、フレンチオークの何が、それほどジョン・グレイサーを引きつけるのか?

「フレンチオーク自体が重要なのではなく、スコッチウイスキーの製造に高品質のオークを使うということなのです」と彼は主張する。

「一般的に、スコッチウイスキー業界ではワイン業界より低品質で活性の低いオークが使われます。ワイン業者は本当にはるかに長くオークの風味を研究してきました。スコッチウイスキーの熟成に使う樽の大半はバーボン樽ですが、バーボン樽に使うオークの品質はワイン樽よりはるかに劣ります」

「フレンチオークを使いたい理由は、アメリカンオークでは得られない風味と風味の複雑さを抽出できるからです。アメリカンオークはヨーロピアンオークよりバニリンが多く、炭化すると多くのラクチンが得られて、これがバーボンにココナツ風味をもたらします。しかしフレンチオークからは、複雑なスパイス、丁子、シナモン、ドライフルーツの風味が得られます。フレンチオークがアメリカンオークより優れているということではなく、単に違うのです」

「数種類の異なるトースト具合の天板を購入し、加熱処理を行って独特な風味を創り出します。パラメータはふたつ、温度と時間です。実際のところこれはウイスキー樽の技術ではなくワイン樽の技術であり、私たちはそこに信を置いています」。

コーヒー豆の焙煎とバーベキューでは、醸し出される風味が違うようなものだ。

そして将来は?

「スパイス・ツリーは私たちの主張を表明するウイスキーです。強くトーストしたフレンチオークから何が得られるかを示しています」とグレイサーは言う。「将来はフレンチオークをさらに活用するつもりですし、現在利用しているボージュの森の工場と共同した新プロジェクトが生まれることは確実です」

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