六本木の三賢人 スピリッツ・アカデミー【その2】

November 6, 2012

豊潤なるラムの世界へようこそ

ナビゲーター:多東千惠さん/タフィア

偶然出会った1本のラムに魅せられ、カリブ海に飛んで11年。多東千惠さんは日本ラム協会の発足メンバーとして、日本におけるラム文化の普及に努めている。2002年にオープンしたカフェ&バー「タフィア」に常備するラムは約300種類。初心者から愛好家まで、気軽に楽しめる本格派のラムを紹介していただいた。

スコティッシュ・パブで出会った運命のラム

学生の頃からよくラムを飲んでいた私は、OLを経て南青山のスコティッシュ・パブに勤務し、そこで人生を変えることになる1本のラムに出会いました。フランス帰りのお客様がお土産に持参した「ペール・ラバ」。それまで飲んできたラムとはまったく異なる味わいに驚き、どんなところでつくっているのだろうと興味を持ったのが12年前のことです。ペール・ラバの産地は、カリブ海のマリー・ガラント島。インターネットも普及していない当時、詳しい情報は思うように得られません。わかったのは、その島には他にも優れた蒸溜所があるらしいということ。日本で流通していない美味しいラムがたくさんあるのではないかと期待を抱き、1999年にマルティニーク、グアドループ、マリー・ガラントの3島を訪れました。空港で蒸溜所の場所を訊ねてレンタカーを走らせ、辿り着いた蒸溜所で他の蒸溜所の場所を教えてもらいながら、1週間の慌ただしい旅行を終えました。

日本でカリブの島々と聞けば、楽園のような場所で人々が陽気な音楽を聴きながら生きているというイメージを持たれる方も多いでしょう。しかしそれは、カリブ世界が持つ多様性のほんの一面に過ぎません。カリブの本当の魅力を日本の人たちに伝える場所を作りたいという思いから、私はラムのお店を開こうと心に決めました。翌年には1ヵ月半かけてカリブを再訪。前年の3島に加えてハイチも訪ね、豊かな文化を吸収しました。自力で買えるだけのラムを日本に送り、帰国後は自由が丘のバーで働きながら物件探し。2002年に「タフィア」を開店しました。

醍醐味はアグリコールラム

ラムの原産地は広範囲に渡り、熟成の度合いからホワイト、ゴールド、ダーク、それに香辛料やフルーツで風味を加えたスパイスドラムなど、その味わいも豊富です。中でも特に私が魅せられたのは、アグリコールラムという種類のラムでした。

通常のラムは、サトウキビから砂糖を精製する行程で残る「糖蜜」という副産物を原料としてつくられます。それが19世紀頃、砂糖生産地の拡散やテンサイ糖など他の甘味料の隆盛によって、カリブの砂糖製造は岐路に立たされました。製糖はもはや斜陽産業となったものの、依然としてラムの需要は増えつつあるという状況から、マルティニークの人々が新しい製法を確立。サトウキビのジュースをそのまますべて原料として使用する、贅沢なアグリコールラムが生まれました。

現在タフィアで常備する300種類のラムのうち、アグリコールラムは80種です。アグリコールラムのふくよかな香りと味わいは、「お酒であることを意識せずに飲むカクテル」には向きません。すなわち、飲む人を選ぶ本格派のラムがアグリコールラムなのです。

ラムがウイスキーと異なるのは、熟成に対する考え方です。樽熟成していないホワイトラムでも決して未熟なお酒ではなく、それ自体が完成品。初めてラムを飲まれる方は、ぜひ「ブラン」と呼ばれる透明なアグリコールラムを飲んでみてください。「樽熟成なしで、なぜこれほどまで完成されたスピリッツができるのか」と驚かれることでしょう。

熟成過程で蒸発する「天使の分け前」も、ラムは年間10%と大幅です(ウイスキーは年間約2〜3%)。その分、熟成のピークに至るのが早いのもラムの特性。熟練した職人が品質を管理している点はウイスキーやブランデーと同様でありながら、サトウキビの原価や中南米カリブの生産コストが割安であることから、とりわけ長期熟成したラムはコストパフォーマンスに優れています。

日本に根付き始めたラム文化

私が現在注目しているのは、国産ラムの動向です。2006年に南大東島で生まれた「コルコル」、昨年より静岡県掛川市でつくられている「ヨコスカ・ラム」、さらには沖縄の伊江島で始まったラム製造など、日本では現在7つの酒造元がラムを生産しています。2006年以降にできた蒸溜所は、みなアグリコールラム。マルティニークの蒸溜所が9つであることを考えると、日本も今や立派なラム産出国なのです。日本企業のラムの中でもユニークなのは、2008年からラオスで製造されている「ラオディ」。日本人スタッフが品質を管理し、海から遠く離れた内陸国でつくられていることも画期的です。

アグリコールラムは、日本人の嗜好にも合っていると私は思います。本格焼酎でもクセの強いものを好む人が多いように、原料作物の地味がそのままストレートに味わえるお酒が日本人は好きなのです。

本格派のラムを味わう最適の飲み方は、ストレートかオンザロック。他には現地で最も一般的な「ティポンシュ」というカクテルもお勧めです。ライムと砂糖を入れただけのシンプルなものですが、アグリコールラム特有の香りを存分に感じることができる飲み方です。

美しい音楽、クレオールの民話など、ラムの周辺には豊潤で奥深いカリブ世界の文化が広がっています。その魅力に触れたい方は、ぜひ一度、本当のラムの美味しさを体験してみてください。(談)

タフィア

東京都港区西麻布2-15-14 ウエストポイントビル1階
17:00〜翌4:30 日曜定休
03-3407-2219

多東さんのおすすめラム

●ラム世界への入門に最適
ペール・ラバ 1,200円
多東さんがラムの魅力に引きずり込まれる契機となった銘柄。樽熟成していないホワイトラムでありながら、サトウキビの鮮烈な香りと複雑な豊潤さが織り成すアグリコールラムの美味しさを伝えてくれる。

●フレッシュな力強さと熟成感を兼備
ビエール・ヴュー ブリュット・ド・フュー 1,400円
熟成の速度が速いラムは5年で充分な熟成度に達するが、その一方でサトウキビ特有の青くさい香りやアルコールの力強さも残している。マリー・ガラント産で、加水なしのカスクストレングスも魅力。

●驚きのコストパフォーマンス
ロンサカパ センテナリオ 23年 1,400円
熟成期間23年以上の原酒をブレンドし、さらにオーク樽で4年熟成した贅沢な仕上がり。その滑らかな舌触りはもちろん、熟練した職人が品質を徹底管理していることを考えると、まさにお値打ちの高級酒だ。

●シェリーとアイラのマニアックな薫り
ブルームズバリー デメララ 1,400円
スコッチファンにも人気のボトラー、ブルームズバリーがシェリーの空き樽でラフロイグを熟成し、その後にガイアナ産のラムを入れて熟成した製品。ラムには珍しい単式蒸溜で、世界を旅するような楽しさがある。

●ラオス生まれのユニークなラム
ラオディ 1,200円
現在7つある日本のラム製造者の中でも特に注目の銘柄。2008年からラオスで製造が始まり、日本人スタッフが製品を管理している。海から遠くはなれた内陸地でつくられているのも、ラムとしては異色。

(2011年春号掲載時)

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