型にはまらないクラガンモア

January 10, 2013

クラガンモアはスペイサイドを代表する一匹狼。地味だが深みのあるモルトウイスキーだ。ますます知名度を高めるグレンリベットの近隣にある小さな蒸溜所でつくられている。すっかりその魅力にとりつかれた。
Report:ドミニク・ロスクロウ

クラガンモアはオリジナルのクラシックモルトシリーズの中では、他の目立つモルトウイスキーの陰に隠れた目立たないブランドだった。

とはいえ、クラガンモアが質の低いブランドという訳ではない。むしろその逆だ。クラガンモアは完成され、深みのあるモルトウイスキーで、ウイスキーメーカーが選ぶウイスキーなのだ。

クラガンモアは必ずしも一般的に高い評価を受けるウイスキーではないが、時間をかければ好きになるブランドだというのがディアジオのモルトの最高権威、ニコラス・モーガン博士の意見だ。

「クラガンモアはスペイサイドのモルトだが、例外的なブランドだ」と博士は説明する。「リンゴと梨の風味は一生懸命に感覚を働かせないとなかなか掴めない。いろいろな要素を持つ奥が深いウイスキーで、ある意味ではタリスカー、ラガヴーリンやラフロイグなどよりも難解なブランドだと言える。こうした有名なブランドは、グラスに注がれたらどんな味になるかがわかっているからである。クラガンモアは飲みやすいウイスキーではなく、典型的なスペイサイド地域のウイスキーでもない。風味がすごく豊かだ

「とはいえ、ウイスキー業界では人気が高いブランドだ。ディアジオのディスティラーがパーティに出かけたり、あるいは数社のボトルがテーブルに並べられたりするようなイベントで好まれるのはクラガンモアで、社内でも人気が高い。まさにウイスキーメーカーが選ぶモルトだ」

ブレンダーの間でもかなり人気がある。1920年代ブレンディングモルトとして最高の地位を獲得したこのブランドは、ホワイトホースやオールドバーの人気を支えるのにも大きく貢献してきた。この特異で、素晴らしいウイスキーの持ち味とはどんなもので、その深みを生んでいるのは何だろう?

答えは蒸溜所にある。クラガンモアはスペイサイド地域南西部の、グレンファークラスとトーモアを結ぶ幹線道路A95沿いにある。地名はバリンダロッホだが位置的にはその北のはずれになる。超大手のグレンリベット蒸溜所という名がこの渓谷のいたるところで見られ、地域の歴史にも深く、かつ重要な軌跡を刻んできた影にすっかり隠れた、目立たないもうひとつの蒸溜所だ。

クラガンモア蒸溜所は森と丘陵に囲まれた農地にひっそりと佇み、こぎれいで整然としているが、小ぶりな施設なのでグレンリベットに比べると見劣りがする。しかしクラガンモアはモルトウイスキーの歴史に独自の貢献をしてきた。この地域に鉄道を引き込んだ最初の蒸溜所だが、これについても華々しい発表や宣伝はしていない。

製造の面でも、スピリッツ300万ℓという生産能力は決して小さな数字ではない。しかし、規模が大きいという印象はほとんど受けない。田園を背景にしたこぎれいな飾り気のない建物はハイランドの蒸溜所のようだ。濃縮を遅らせ、その結果コクと豊かさがあるニューメイクスピリットをつくり出すワームタブがハイランド風の印象をさらに強くしている。しかしその型にはまらない深みのあるスタイルの主な要因は同社のスティルだと思われる。それは頭部が平坦に切り落とされており、見た目も変わっている。変わっているという点でここに匹敵するのはダルモアとプルトニーぐらいだろう。

スティルの頭部が切り落とされたのはスティルルームに入れるためだったと言われているが、この説に首をかしげる人間は多い。真実はともあれ、交換用のスティルもまったく同じ寸法で作られている。完全に壊れたもの以外は交換しない。

「クラガンモアが頭部の平坦なスティルを使い、他の蒸溜所と違っている点はそのスティルが非常に小さく、頭部が平坦なことで蒸溜機内に大量の還流を引き起こせることだ」とモーガン博士は説明する。「これが蒸溜に影響し、醸成段階でも大きな違いを生み出す」

さらにモーガン博士の説明によれば、シェリー樽でほどよく熟成され、これまでスペイサイド地域の蒸溜所でつくられたどのシェリー樽モルトにも負けない製品をつくり出してきたが、クラガンモアが最も魅力的で、深みがあり、かつ神秘的なのはバーボン樽で熟成された場合だ。
本当に他のブランドとは違う。おそらく当初のクラシックモルトシリーズの中でスペイサイド代表ブランドと認められたのはこれが理由だろう。

「クラガンモアは流れに逆らったブランドだった」とモーガン博士は続ける。「ラガヴーリンはそのピート風味で常にアイラを代表してきた。タリスカーが常にアイランズを代表してきた。ダルウィニーがハイランドの代表と認められ、オーバンは西海岸のブランドで、それゆえキャンベルタウンモルトに最も近いものだった。ローランドについてはグレンキンチーとローズバンクの競合で、結局グレンキンチーが代表ブランドと認められた。しかしスペイサイドについてはいろいろな議論があり、モートラックやリンクウッドも候補に挙がっていた」

以前はクラシックモルトシリーズの中で突出していたクラガンモアの知名度や理解度は今では他の蒸溜所と同じ位になっている。しかしクラガンモア蒸溜所は置き去りにされたわけでも、ディアジオが地域性の強調を止めたわけでもない。今日ではモルトの世界も進歩し、風味マップや他の啓発活動により、消費者の意見も反映されるという変化が見られるようになっただけだ。

「クラガンモアは大半のオリジナルクラシックモルト製品群ほど販売量が多くないかも知れないが、この製品群が発売されるまでは全然売れなかった」と博士の説明は続く。「思い返すと、DCLでもシングルモルトの販売は少なかったし、ギネスとの合併が行われた時、新会社は市当局から経営手法の違いを示すように求められた。
同社はこれに対応してふたつの新方針を打ち出した。ひとつはスーパー・プレミアム銘柄だったジョニーウォーカー・オールデストをジョニーウォーカー・ブルーラベルに変更したのと、もうひとつはシングルモルトの販売促進だった。
クラシックモルトシリーズはシングルモルトを全く、あるいはほとんど扱っていなかったバーやレストランにその専門家になる為の基礎を与えた。モルトを選ぶ担当者がワインの知識を持っていたので、彼らは自分たちの良く知っている方法である、地域性(カリフォルニア産や南アフリカ産など)を選定の基準にした。

しばらくクラガンモアを訪れていない人には、今が再訪問する良い時期だ。モルトを試飲するつもりなら、味覚が最も新鮮で、鈍っていない時を勧めたい。冷たいミネラルウォーターで口の中を洗浄してからモルトの試飲をするべきだ。タバコ、強いコーヒーや量が多い食事の後は止めた方がよい。

クラガンモアは教室の片隅にいる静かな生徒のようなものなのだ。質問攻めにしても何の答えも得られないだろう。聞く姿勢をもって待っていれば静かで、繊細な方法で話し始める。しかし話の内容は刺激的で、興味をそそり、独創的なものになるのは間違いない。

クラガンモアは少量の蜂蜜や、柔らかなリンゴ、花の香りやバニラのクッションの上に置かれた控え目なスパイス、さらに微量のスモークとオークの味がする。

このブランドは非常に美味しいが、グレンリベットのヘリコプターが飛び交うのを見ながらこの蒸溜所の傍に立ち、また前日に通り過ぎたローズアイルの新規大型蒸溜所を思い起こすと、筆者はこの蒸溜所が時代遅れになり、また寿命も尽きかけているではないかと感じずにはいられなかった。

勿論、モーガン博士は前向きだ。「当社はクラガンモアを含むマネジャーズ・チョイスのシリーズを売り出している。蒸溜所限定販売での一連のブランドを維持し、特別ボトリングの計画もある」と博士は将来を語る。

確かに前向きだ。ローズアイルの影響がどうなるかは誰にも分からないし、また少なくとも悲観的な専門家はディアジオがいつまで27の小規模蒸溜所の保有を続けるか不明だとしている。

しかし筆者は、特にクラガンモアのような蒸溜所については、楽観的だ。最終的には、商売は商売だがディアジオ社内にもこの蒸溜所に深い愛着が存在する。

クラガンモアには不動のファンがいるのだ。

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