ウイスキーの蒸溜所には、原酒を熟成するための貯蔵庫がある。この建物や樽の中で起こる空気の流れは、熟成の条件に影響を及ぼす。イアン・ウィズニウスキによる2回シリーズ。

文:イアン・ウィズニウスキ

 

ウイスキー熟成用の貯蔵庫には、通気が欠かせない。その理由は、まず気化したアルコールの蓄積による家事や爆発のリスクを未然に防ぐことだ。だが通気は貯蔵庫内部の環境にも影響を与え、ひいては熟成プロセスにも影響を及ぼすことになる。

このような影響の度合いは、さまざまな要素によって異なってくる。交換される空気の量や換気のスピードもそのひとつ。それに温度や湿度のレベルが違っても熟成環境は変化する。そしてこのような要素を決定するのは、それぞれの貯蔵庫の設計だ。もちろんロケーションや気候への露出度によっても結果への影響はある。

ブルックラディで熟成中の樽。一見すると動きのなさそうな貯蔵庫内の空気は、常に動いて入れ替わっている。(メイン写真はタムデュー蒸溜所)

まず特筆べき設計上の差異といえば、伝統的なダンネージ式貯蔵庫と現代的なラック式貯蔵庫の違いが挙げられる。ダンネージ式貯蔵庫は、たいてい分厚い石や煉瓦で壁を築いた天井の低い建物だ。屋根は石のスレートであることが多い。この建物の中で、樽が2段積みか3段積みにされる。

一方のラック式貯蔵庫は、ダンネージ式よりも大型の煉瓦または鉄骨建築で、樽をラックで8〜12層に配置している場合が多い。

ラック式貯蔵庫の場合、地上から空気を取り込んで上昇させ、屋根の通気口から排出させることが多い。以前は通気口に調整可能な鎧板を取り付けて開け放しておくのが標準仕様だったが、最近はメッシュ固定型を選ぶ蒸溜所も増えている。カレドニア・カスクスで貯蔵庫業務に従事するデービッド・シンプソン氏は次のように語っている。

「低い位置にある通気口は、ほとんどが幅50cmで高さ20mの長方形。貯蔵庫の最上部にある通気口は、数が少ないものの、一つひとつが大きめです。多くは50cm四方の正方形で、空気は通しても雨が入ってこないような設計になっています」

ラック式貯蔵庫に窓はついていないが、ダンネージ式貯蔵庫では窓が空気の主な流入口となる。各壁にひとつずつ窓がある蒸溜所もあるが、この窓の数や寸法に決まったルールはない。歴史的にみても形式はまちまちなので、同じ蒸溜所内の貯蔵庫でも窓の配置は異なる場合があるとデービッド・シンプソン氏は説明する。

「ダンネージ式貯蔵庫における窓の数と位置を決める時、通気はもちろん建物の美観なども重視される傾向にあります。ドアの両側に窓を付けることで、建築をシンメトリーなデザインにしたがったりする人もいますから」

ブルックラディのポートシャーロット用エリアにはダンネージ式貯蔵庫があり、金網付きの窓を常時開放している。19世紀末に造られた木製のシャッターで閉めることもできるが、いつも開いた状態だ。

窓の中には横木を取り付けたタイプもあり、閉じたままで通気ができる。そして多くのダンネージ式貯蔵庫には通気孔があるので、窓による通気だけが重要な訳でもない。ゴードン&マクファイルの業務部長を務めるスチュアート・アーカート氏が語る。

「ゴードン&マクファイルのダンネージ式貯蔵庫には、例外なく通気口があります。その通気口には、金網かメッシュのどちらかが付いています。下方に配置した通気口は地面から10cmほどの高さにあり、対になる通気口が天井に付いています。

 

貯蔵庫によって異なる熟成環境

 

出入り口のドアも通気口の代わりになる。その形状やサイズはさまざまで、シングルタイプもダブルタイプもある。ラック式貯蔵庫では、もっぱら大きな巻き上げ式のシャッターが使われている。ドアの大きさもさることながら、ドアが開く頻度や、開いたまま放置される時間の長さも通気量を決める。樽を移動したり、樽から原酒のサンプルを取り出したりする際には、ドアが開けっ放しになることも多い。ブルックラディのヘッドディスティラーを務めるアダム・ハネット氏が次のように語る。

谷間に位置するグレンドロナック蒸溜所。小さなダンネージ式貯蔵庫は他の建物に囲まれ、比較的風雨に晒されにくい環境だ。

「第22貯蔵庫では、頻繁にヴァッティングの作業がここなわれています。だからドアが1日数時間開けっ放しになっていることも多いのです。開けたら閉める他の貯蔵庫に比べると、貯蔵庫内の環境よりも外気の影響を大きく受けている可能性があります」

通気の速度は気象条件によっても異なってくる。風が強い日と穏やかな日は違うし、雨の日と晴れの日では湿度にも変化が生まれる。このような気象条件の他に、貯蔵庫のロケーションも影響を与える。ベンリアック・ディスティラリー・カンパニーで、グレンドロナックなどのマスターブレンダーを務めるレイチェル・バリー氏が語る。

「貯蔵庫の建物が、どれだけ風雨にさらされる場所にあるかが問題になります。グレンドロナックの小さなダンネージ式貯蔵庫は地形的に谷間に位置していて、蒸溜所内の他の建物に囲まれています。それよりも大きなラック式貯蔵庫は風雨に晒されやすく、高さもあるので樽ごとの温度の違いも大きくなります。伝統的なダンネージ式貯蔵庫は、年間を通して室内の温度がほぼ5〜10℃に収まっています。しかしラック式貯蔵庫は、5〜15℃と温度の変化が大きいのです。ラックの高い位置に乗せられた樽ほど、温度が高くなります」

グレンドロナック蒸溜所は海岸から17kmの場所にあり、グレングラッサ蒸溜所は海岸に面している。この環境の違いも、熟成の状態に影響を与えてくる。レイチェル・バリー氏の説明は続く。

「グレングラッサのラック式貯蔵庫は、ダンネージ式貯蔵庫よりも海から離れた場所にあります。そして海から離れたほうが、空気が湿っている場合が多いのです。海岸のそばにあるグレングラッサの空気には、打ち寄せる波しぶきが混じっています。この空気が、スピリッツ蒸溜に複雑さを加えてくれるのです」
(つづく)