新しいウイスキーのジャンルを確立させるには、ルールに則った定義が必要だ。ただしそのルールが活発なイノベーションを阻害してはならない。アメリカンモルトウイスキーは、世界が注目するモデルケースである。

文・写真:マギー・キンバール

 

アメリカンシングルモルトのカテゴリーが確立されることでもたらされる恩恵は大きい。とりわけケンタッキー州外のクラフトウイスキー生産者は、ケンタッキーバーボンという国内市場における巨人との対決を強いられることなく、新しい市場に活路を見いだすことができる。

また消費者にとっては、この新しいカテゴリーが生まれることで、アメリカで蒸溜された新しいスピリッツの魅力を探求する楽しみが増える。サムソン&サリーで蒸溜部門の副長を務めるリサ・ウィッカーが語る。

「アメリカンモルトウイスキーの定義を明確化することで、ウイスキーファンのみなさんは特定のカテゴリー内で各商品の比較ができるようになります。定義なしの野放し状態では、このような比較ができません。以前にワインを造っていたとき、学んだことがあります。それはお客様にとって重要なのは、ワイナリーやメーカーよりも、好みの品種でつくられたワインであるということ」

明確に新しいカテゴリーを作るからといって、アメリカンシングルモルトウイスキーが従来のアメリカンウイスキーの伝統から大きく逸脱している訳ではない。禁酒法以前は、モルトウイスキーもアメリカで人気のスタイルだった。つまり現在は、当時の人気が再来しつつある時期なのだ。キングスカウンティ蒸溜所創設者兼マスターディスティラーのコリン・スポールマンが語る。

「クリエイティブな存在であるのは好ましいこと。それでも依然として、個人的に敬意を抱いているアメリカのウイスキーメーカーを俯瞰すると、私たちがつくるウイスキーもどちらかといえば伝統的なアメリカンウイスキーの範疇に入ると思っています。おそらく伝統的なメーカーのひとつである我が社は、クラシックなスタイルに関心が高く、そのクラシックな伝統を継承しながら自分たちだけの新しいバージョンを生み出したいのです」

はっきり他社との差別化を図りつつも、明確に同じ枠組み内に留まりたいのだとコリン・スポールマンは強調する。

「我が社はまずバーボンメーカーとして出発した経緯があります。もちろんケンタッキー人として、まず自分でつくって飲んでみたいウイスキーがバーボンだったからです。市場がケンタッキーバーボンにリスペクトを払うの理由はたくさんあります。そのためクラフト蒸溜所は『すでにビッグメーカーが伝統を確立しているジャンル内で、どのように差別化を図ってブランドを知らしめるのか』という問題を痛感していました」

 

アメリカンウイスキーの新カテゴリーを目指す

 

バーボンは好きだが、同時に他のスタイルのウイスキーをつくる余地をずっと模索していた。そして新しいウイスキーをつくることによって、ケンタッキーの伝統を真似るだけでなく、ニューヨークなど複数のウイスキーづくりの伝統を継承する蒸溜所になれるのではないかとコリン・スポールマンは考えた。

2007年設立のコルセア蒸溜所は、米国らしい開拓者精神にあふれたウイスキーメーカー。伝統的な穀物原料の枠を取り払った「オルトウイスキー」の先駆者だ(メイン写真も)。

「そんな立ち位置が、みなさんに興味を持っていただけることを期待していたのです。ニューヨークは人種の坩堝なので、蒸溜や発酵のスタイルを単一のウイスキーづくりの伝統から採用しながらも、原料や熟成のオプションを他の土地に求めたり、マッシュビルで前例のないチャレンジをしたりすることができると考えました。このような要素を生産工程で融合させて、単なるブレンドとは異なったウイスキーの物語が描けるのではないかと思いました」

アメリカンモルトウイスキーをつくって市場に投入する蒸溜所がますます増えていくなかで、消費者の需要も増加し、さらなるイノベーションが分野内で起こってくる期待が高まっている。

アメリカンシングルモルトコミッションが提案するアメリカンモルトウイスキーの定義は、以下の6項目である。原料が100%大麦モルトであること。単一の蒸溜所で蒸溜されていること。糖化、蒸溜、熟成を米国内でおこなっていること。容量700リッター以下のオーク樽で熟成されていること。蒸溜後の度数が160プルーフ(80%)を超えていないこと。度数80プルーフ(40%)以上でボトリングされていること。

アメリカンシングルモルトウイスキーにしろ、アメリカンストレートモルトウイスキーにしろ、この国のモルトウイスキーがバーボンウイスキーやテネシーウイスキーのような大市場を確立できるかどうかは未知数の部分もあるだろう。それでも新しいメーカーたちが失われていたアメリカンウイスキーのスタイルを復興させるムーブメントは、消費者の立場からも大いに注目に値する動きである。