樽造りの美学・1 【クラフトクーパー 前半/全2回】

December 11, 2013

ウイスキーの眠る「樽」はただの長期保存用の容れ物ではない。各地の樽職人の技とともに、「樽造りの美学」を学んでみよう。新シリーズ第一弾はカナダの小さなクーパレッジから。

考えてみると、パゴダ式屋根のような建物や立地条件に始まり、ボトリング、スチルに至るまで、ウイスキー業界には独特なものは数多い。しかし、これがなければウイスキーがウイスキーたり得ないものがひとつある ――樽だ。当然ながら、スコッチウイスキーと称するスピリッツはスコットランドで少なくとも3年間、オーク樽で熟成されなければならない。だが、オークを使う理由はただ法律で決められているからというだけではない

スピリッツの生成にはスチルの働きがある種の「魔法」をもたらすが、ウイスキーの色、そしてその性質の大部分を決めるのは「木材、スピリッツ、時間」の複雑な相互作用だ。

オークが熟成のために理想的な樽材である理由はその複雑な化学作用にあり、組成にはセルロースヘミセルロース(スピリッツに甘さと色を与える)、リグニン(バニラ香を出し、複雑さを高める手助けをする)、タンニン(渋み、芳香、そして繊細さも与える)が含まれている。これらの科学的成分に加え、十分な耐水性という利点を考えると、ただの「容れ物」以上のものといえるだろう。
オークは樽に空気を通すことで、ウイスキーに酸化作用をもたらす。これで望ましくない風味と不快さが取り除かれ、最終的にはウイスキーの風味と複雑さが増す。

しかし、こういった優れた特徴を活かすには、まずオークの潜在能力を引き出すような樽を造らなければならない。ここに樽職人の技が必要となるのだ。
製材された板を樽の形に組みあげたら、次の段階は内側表面をトーストする(焙る:パンをトーストするように、オークの表面を軽く焼く)か、チャーする(焦がす:軽く焦がす程度から「アリゲーター」と呼ばれるワニの腹部のようになるほど樽材の奥深くまで焼く場合など様々)。これでスピリッツが木材に浸透して熟成とともに樽の影響を受けることになる。

蒸溜業者はそれぞれの目的にふさわしい樽を仕入れることを重要視しているため、今回は小規模経営のクーパレッジから大量生産設備を備えた工場まで、際立って異なる2ヵ所の樽製造業を取り上げることにした。

1. クラフトクーパー 【 唯一無二の樽造り】

朝もやの立ち込める夏の朝6時半。車から降りるとすぐに聞こえてきたあのパチパチという音は何だろう?
近くの農場に広がるソーラーパネルのアーク放電ではない。邪魔な風力発電装置の到来に地元住民が腹立たしそうな不満の声を上げているわけでもない。いいや、さらに調べてみると、ピート・ブラッドフォード「キャリッジ・ハウス・クーパレッジ」の奥から聞こえてくる、ホワイトオークを焼く音だと分かった。ここは、カナダ オンタリオ州の中心部の緑濃いプリンスエドワード郡で切り出して乾燥させた木材から、ブラッドフォードがワインとウイスキーの樽を造り、トーストやチャーをするところだ。

トウモロコシの刈り株にはまだ朝露が残り、空は青く澄み渡っている。焼けるように暑い日になりそうな気配が既に感じられる。
「朝一番にこれをやるんですよ」とブラッドフォードが単室型チャーリング窯の中で既にごうごうと燃え盛っている焚き火に、ホワイトオークの薄い木切れをくべながら言う。「9時頃には暑くなりすぎてしまいますから」。近くには最近組み上げられたバーボン樽が2つ、トーストされるのを待って並んでいる。

窯自体は真ん中に大きな穴がひとつ開いた、重い鋳鉄製ストーブのようだ。ブラッドフォードは窯の表面がちょうど良い色になるのを待っている。
突然、ひとつめの樽の周りに腕を回して持ち上げ、窯の上に置く。そして数分後、私に「パチパチいう音が聞こえますか?」と尋ねた。
「ちょうど今にも発火するところです。これは中程度の焼き入れだから、12秒間焼きます」。突如として上部から炎がシューッと吹き出し、ブラッドフォードが数え始めた – 13まで! そして、むき出しの逞しい腕で樽を地面に放り投げ、勢いよく水を浴びせて水浸しにした。どうやら、速さが肝心なようだ。ぴりっとする木の煙とすえた匂いの蒸気が辺りに満ちた。

彼は私が数歩後ずさるのを見て、微笑んだ。私が何を考えているのか分かっているのだ。「オークにはある化学物質が含まれています」と彼は説明する。「樽をすぐに降ろさないと、それがウイスキーの味をおかしくしてしまいます。そしてすぐに冷やすと、チェリーのように甘くなるんですよ」

【後半に続く】

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