秋を彩るウイスキーカクテル【2】 「Bar Noble」

November 5, 2012

先月からの新連載、酔っぱライター・江口まゆみによる「秋を彩るウイスキーカクテル」。第2回は横浜、世界チャンピオン山田氏の「Bar Noble」へ。

横浜の関内駅から歩いて数分。繁華街から一歩入った通りにバー・ノーブルはあった。石造りの重厚な外観。中に入るとクラシック音楽が静かに流れている。中世ヨーロッパの古城をイメージした店内は、「ノーブル」という名前のとおり、高貴で上質な空間だ。

オーナーの山田高史さんは、IBAのコンテストで2010年アジアチャンピオンになり、2011年には世界チャンピオンになったほどの腕前。今年東京で開催されたバーショーで初めてお会いし、世界一になった「グレートサンライズ」というオリジナルカクテルを作ってもらった。
ボリューム感のある華やかなカクテルも素晴らしかったが、彼の流れるような優雅な所作には目を奪われた。おおいに感動し、いつかお店に行きたいと思っていたところ、念願かなって来ることができたというわけだ。

さっそく山田さんに、アジア大会で優勝したときのオリジナルカクテル「オーチャード」を作ってもらった。材料は、シーバスリーガル、ピーチツリー、カシス、ローズシロップ、レモンジュース。これらを混ぜ合わせてシェイクすると、きれいなピンク色のカクテルが完成した。驚くのはデコレーションが繊細でお洒落なこと。ライムとレモンで葉を、グレープフルーツの白い部分で花を作って飾り、そこにリンゴの蝶がふわりととまっている。誰が見ても完璧な美しさがそこにあった。飲んでみると、甘酸っぱくジューシー。まさに果樹園(オーチャード)の世界が、小さなグラスの中に詰まっているという感じだ。

続いて作ってもらったのが「マンハッタン」。ベースによく使われるのはバーボンウイスキーだが、山田さんはもともとこのカクテルのベースだったカナディアンウイスキーを使う。材料はカナディアンクラブ12年と、生産量が少なく幻のベルモットといわれるアンティカフォーミュラー
カナディアンウイスキーの口当たりが柔らかく、そこへスイートベルモットが複雑味を与え、いい仕事をしている。そしてこの添えられたチェリーはなんだろう?見たこともないワインレッドの小粒なもの。聞けばグリオッティンという稀少品らしい。甘すぎず上品な味わいのチェリーで、カクテルの味をぐっと引き立てる。

さらに気になるのがこの精密な細工が施されたグラスだ。なんとバカラのアンティークだというではないか。よく見ると、棚には同じようなグラスが並べられ、日常的に使われている様子がうかがえる。なんという贅沢の極み。細部にまでこだわり、自分の世界観をバーとカクテルを通して表現する山田さん。やっぱり世界一のバーテンダーは違う。

それでもけして高い店ではない。チャージは700円、カクテルは900円から飲める。初めて来るお客さんには、値段の入ったメニューを見せてくれるから安心だ。メニューをながめていると、私の大好きなカルバドスやマール、グラッパが、バーには珍しく取りそろえられている。

「じつはうちはシガーもありまして。ブランデーはもちろんですが、カルバドスやマールも、シガーと合うので置いているのです。甘口のポートワインにシガーを合わせるのもなかなかいですよ」と山田さん。う〜ん、今度来たらシガーも挑戦してみようかな。

ちなみにお店は混んでいても賑やかではない。物静かな山田さんは黙々とカクテルを作っているし、お客さんも静かにゆっくりとお酒を味わっている。漂うのは凜とした緊張感と、温かいおもてなしの心。世界一のバーテンダーのお店は、世界一居心地の良い場所なのであった。

 

過去の江口まゆみさんの記事

バーで飲むハイボール【1】 スタア・バー・ギンザ
バーで飲むハイボール【2】 ロックフィッシュ
秋を彩るウイスキーカクテル【1】 「ST. SAWAI オリオンズ」

 

カテゴリ: Archive, features, TOP, バー, 最新記事