「日本ウイスキー 世界一への道」発売

December 28, 2013

12月17日、集英社新書から発売となった書籍「日本ウイスキー 世界一への道」(嶋谷幸雄氏、輿水精一氏著)をご紹介する。

今年は、素晴らしいウイスキー関連の書籍に出会う機会に恵まれたと言っていいのではないだろうか。「ウイスキー粋人列伝」「日本ウイスキーの誕生」、そして17日に発売されたこの「日本ウイスキー 世界一への道」である。どれも様々な視点からジャパニーズウイスキーを扱った、大変興味深い本だ。

本書は嶋谷幸雄氏輿水精一氏の共著であり、2部構成となっている。
嶋谷氏が前半の「ウイスキー 『生まれ』の現場から」として、蒸溜所の立地選択に始まり、原料の選定から蒸溜までの工程を事細かに解説している。嶋谷氏は1956年壽屋(現サントリー)入社、山崎研究所所長、初代白州蒸溜所工場長、山崎蒸溜所工場長を歴任された経歴を持つ。
そのウイスキーづくりの現場の第一人者の言葉だけあって、ひとつひとつの工程が非常に分かりやすく説明されている。スコットランドの蒸溜業界の最新情報をも織り交ぜながら、日本でのウイスキーづくりの工程を表や図を交えつつ解き明かす。
ボンヤリと分かっていたつもりだったことが理論的に説明されているため、「なるほど、これはこういうことだったのか」と目からうろこが落ちること必至だ。化学用語なども多用されているが、抽象的な言葉で解説されるより、むしろすんなりと理解できるだろう。

特に記者の長年の疑問が解けたのは「発酵と酵母の関係性」と「蒸溜における香味成分の変化と異臭(=硫黄臭/サルファー)の捕捉効果」である。こうして書くとなにやら難しそうに感じられるが、本書内では大変分かりやすくまとめられているので、ウイスキーづくりにおいて疑問点がある方、今一つ把握しきれない事がある方はぜひ一読されることをお勧めする。

後半は輿水氏による、「ウイスキー 『育ち』の現場から」と題された製樽からボトリングまでの工程の解説である。輿水氏は1973年サントリー入社。1991年にブレンダー室課長となって以来、様々なウイスキーの開発とブレンドに関わってこられた、日本が世界に誇る名ブレンダーである。

日本のウイスキー史において欠かすことのできない「樽づくり」の紆余曲折…研究と苦心の成果である現在の樽の製造方法、熟成については「どのような化学反応が樽とスピリッツの間で起こっているか」というつくり手ならではの観点からの説明。このような取り組みが行われていたとは、消費者の想像を超えている。

その熟成を経た多種多様な原酒を製品化する重要な工程、ブレンディングの章での解説は圧巻である。
ブレンディングを体系づけて、一定した製品づくりと新たな商品開発を行う一連の流れが綴られている。この章を読めば、名ウイスキーの誕生にはブレンダーの「優れた感覚」だけではなく、「どんなウイスキーが貯蔵庫のどこに眠っているか」までも把握した膨大な知識と、日々の研究に裏打ちされていることがよく分かる。

「ブレンドは1+1=2ではなく、100+1=200に近い」という輿水氏の言葉から、ブレンディングに秘められた力とそれを引き出す絶妙な技術…さらにその下に流れるウイスキーへの情熱と「このウイスキーを愉しんでほしい」というつくり手の想いが深く感じられた。
最後にはテイスティングのコツや飲み方も記され、ウイスキーの味わいをプロフェッショナルに表現できるように手ほどきをする一方で、様々なシチュエーションに合わせた愉しみ方が提案されている。

付け加えると、本書のウイスキー専門用語は英語表記もされており、英語のウェブサイトや書籍、雑誌等で不明だった点も照らし合わせて理解することができる。参考書のようにも使える、非常に便利な一冊だ。

改めてこうして日本のウイスキーづくりの黎明期から今日までを支えた方々の言葉に触れると、この90年の間に培われたものの大きさにただ感銘を覚えるばかりである。ぜひお手に取って、つくり手によって語られる「世界を驚かせた日本のウイスキー、その美味しさの秘密とは何か」というテーマをじっくりと読み解いていただければと思う。

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