洋酒文化を吸収し、独自のバーテンディングが花開いた日本。同様の進化は、現代のカフェ文化にも見られる。東京都渋谷区の人気店で、ウイスキーの香味を活かした最新のコーヒーカクテルを体験。

文:WMJ

 

カクテルやウイスキーは、バーで楽しむものというイメージがあった。だがハイボールはレストランや居酒屋の定番になり、カフェではノンアルコールのカクテル(モクテル)も供されるなど、時代にあわせてシーンやアイテムが多様化している。

日本のコーヒー文化には長い伝統がある。長崎の出島にシーボルトらが持ち込み、明治期に喫茶店ができると芸術家たちのサロンになった。自家焙煎にこだわる本格的なコーヒーショップから、エスプレッソが主体の南欧スタイル、アメリカ発のサードウェーブなど、カフェの楽しみ方はライフスタイルや価値観の変化とともに進化してきた。

カフェのカウンターでドリンクを作る木原武蔵氏(WOODBERRY COFFEE)。シェイクやステアの手さばきは、オーセンティックなミクソロジストの技そのものだ。

そんな中で、いま新しい時代の空気を感じさせる人気店のひとつが、東京の豊島区東長崎で昨年オープンした「MIA MIA(マイアマイア)」である。生活感たっぷりの私鉄沿線で、地元の人たちが交流するクリエイティブな拠点。店主のヴォーン・アリソン氏は、豪州コーヒー文化の首都と呼ばれるメルボルンの出身だ。日本の喫茶店を1000軒以上訪ね、ブログなどでカフェ文化のトレンドを先導してきた。

「カジュアルでクリエイティブな個人経営のカフェが好き。MIA MIAも小さい店で、家族のようなコミュニティが生まれています。コーヒーはもちろんですが、ちょっとお酒が入ると会話が弾みますよね。オーストラリアでは、帰宅前に1~2杯だけ飲んで人々と交流する文化があります。オーセンティックなバーもいいけど、カジュアルなカフェでそんな楽しみ方ができたら、新しい文化が発信できるでしょう」

そんなアリソン氏の理想を体現したカフェは、すでに東京都内に何軒か実在する。そのひとつ「WOODBERRY COFFEE 渋谷店が今日の舞台だ。オーナーの木原武蔵氏は、米国留学中にサードウェイブコーヒーの台頭を体験し、スペシャルティコーヒーに魅せられた。

「日本に帰ったら、地元で美味しいコーヒーが飲める場所を作りたい。そんな思いでWOODBERRY COFFEEを開店しました。渋谷店は3店舗目ですが、ここではお酒も出せるようにしたいと考えてオリジナルのカクテルを考案しています。繊細なコーヒーの風味を表現するため、今までもお酒の世界に学ぶことが多くありました。東京ならではのクリエイティブな文化として広めていきたいですね」

 

クリエイティブなコーヒーカクテル4品を味わう

 

コーヒーカクテルの定番といえば、まずアイリッシュコーヒーが頭に浮かぶ。クリーンでスムーズなアイリッシュウイスキー「ブッシュミルズ」なら、コーヒーとの相性は抜群だろう。だがスペシャルティコーヒーと合わせるのなら、それなりの工夫も欲しい。

日本のカフェ文化を愛するヴォーン・アリソン氏(左)も、木原氏のコーヒーカクテルが大好き。自身が経営するMIA MIAではビールやワインも用意している。

ブッシュミルズは、400年の歴史を持つアイリッシュウィスキーだ。北アイルランドで1608年に創業したオールドブッシュミルズ蒸溜所は、現在稼働中の蒸溜所としては世界最古ともいわれている。伝統の3回蒸溜で磨き上げたノンピートのモルトが、滑らかな口当たりの中でしっかりと華やぐ。ブッシュミルズのブランドマネージャーを務める福井淳氏が、コーヒーとの相性について説明してくれた。

「コーヒーカクテルなら、スタンダードのブッシュミルズ(白ラベル)よりも『ブラックブッシュ』がおすすめですね。ブレンデッドウイスキーですが、モルト比率が80%と極めて高く、モルト特有のフルール香やナッツ香が豊富。ラズベリーやチョコレートを思わせる香味要素が、コーヒーの果実感とタンニンにもよくマッチするんです」

木原武蔵氏のコーヒーカクテルを味わってみよう。1品目は「ブラックハイボール」だ。コーヒーとブッシュミルズの他に、トマトジュースと竹炭も加えているのだという。砂糖を使用していない分、すっきりとしたトマトとコーヒーのフルーツ感が際立つ。セイボリーカクテルのような印象もあり、モルトのコクが黒ビールのような厚みを加えている。

クラシックなカクテルに一手間かけたオリジナルレシピ。コーヒーカクテルの充実で、カフェタイムがますます華やかになる。

2品目の「カフェオレサワー」は、定番の「ウイスキーサワー」にひねりを加えたもの。ミルクブリューでコーヒーを抽出し、卵白なしで後味すっきりの仕上がりだ。ショートカクテルなので度数は高めだが、これなら昼下がりにカフェで飲んでも罪悪感がない。

3品目はドリンクというよりもデザートのような「アイリッシュクリーム」。コーヒーとウイスキーの濃厚な風味が、たっぷり入ったアイスクリームの甘味を引き締める。木原氏は自前のコーヒー豆を漬け込んでオリジナルのコーヒーリキュールを常備している。

そして最後は、やはりクラシックな「アイリッシュコーヒー」。スペシャルティコーヒーの洗練されたフルーツ香と焙煎香に、ブラックブッシュのしっかりとしたモルト風味が溶け込んでいる。ハチミツと黒糖で甘みを加え、クリームで蓋をした優雅な仕上がりだ。

カクテルはバーを飛び出し、カフェはもっと開かれた場所になる。WOODBERRY COFFEEのコーヒーカクテルは、日本におけるクリエイティブなカフェ文化の新しいシンボルといえるだろう。