ベッカムのウイスキー【前半/全2回】
世界的に有名なサッカープレイヤー デイビッド・ベッカムがウイスキーをプロデュース…その名も「ヘイグ・クラブ」。その全貌を探るロングインタビューの前編をお送りする。
スポーツ界の世界的なスターの中でも、デイビッド・ベッカムが申し分のない資格を持つことはほぼ間違いない。マンチェスター・ユナイテッド、レアル・マドリード、ACミランなどの一流サッカークラブで試合出場500回以上という輝かしいキャリアに加え、イングランド代表として14年間に17得点を挙げて、サッカー史上最も成功した英国人プレイヤーのひとりになった。
サッカー場の外でも、コマーシャル活動や多くのメディア報道のお陰で「ベッカム」は世界中に知られるブランドともなり、その名声が衰えそうな兆しもない。
だから、昨年彼の新しい共同事業が明らかにされたときには、多大な関心が寄せられた。ベッカムと彼のマネージャーでメディアを仕切るサイモン・フラーは、ディアジオ社と共同して、全く新しいシングルグレーンウイスキーを開発した。
新たなウイスキードリンカーを獲得するための「ヘイグ・クラブ」は、前もってウイスキー界で称賛を得た後、ミシュランの星を持つスコットランド人シェフ、トム・キチンが準備し、ゴードン・ラムゼイやファッションデザイナーのジミー・チュウ、ベッカムの妻のヴィクトリアらが出席したディナーイベントを盛大に行い、10月に発売された。
そのようにセレブが大挙してヘイグ・クラブを支援する中、このウイスキーに関するベッカム自身の考えを聞くために、何とか当人と話す時間をとることができた。
ウイスキーマガジン(以下WM):早速ですが、ぜひ教えてください。何故、あなたが手がけるお酒として選んだものがウイスキーなのか? このウイスキーに積極的に関わりたいと思った動機は何だったのですか?
デイビッド・ベッカム(以下DB):もちろん、ここに座ってウイスキーについて全てを知っているなどと言うつもりはないけど、ウイスキーは僕が本当にもっと知りたいと思っていることのひとつなんだ。
スコットランド、スターリング近郊のメンストリーに新設された「ディアジオ・アーカイヴ(ブランド記録保存館)」でボトルに囲まれて座った彼は、こう説明した。
DB:22年のサッカー選手生活の間には、アルコールのブランドに関わらないかというオファーもあった。でもそれがアスリートとして正しい事だとは思えなかった。今は引退しているし、興味もある。ディアジオ社と話し合ったときには、ずっとウイスキードリンカーになりたかったという話をしたよ。何年もの間、少しは手を出していたけど、のめり込むことはなかった。それはまず一つには「いつもウイスキーがちょっと怖かったから」、そして二つ目には「ウイスキーについて十分に知らなかったから」。本当に興味があったんだ。
DB:ヘイグ・クラブのチャンスが浮上して、新しいシングルグレーンウイスキーとして実に魅力的に思えた。僕は伝統や歴史が大好きだし、ヘイグ家はウイスキーに関わって400年以上になるから、その一部になるのはとても感動的なことだ。
WM:グレーンウイスキーはほとんどまだ知られていない分野ですから、セレブがプロデュースするウイスキーとしては異例の選択と言えます。新しくウイスキーを飲み始めようという人々の大部分はまずモルトとブレンドの違いに取り組みますから、大胆な動きです。エントリー層にはグレーンの方がウイスキーに手を出しやすいと考えたのでしょうか?
DB:それは僕がシングルグレーンにとても興味を持った理由のひとつだと思う。いわゆるウイスキードリンカーではない者にとっては、そのライトで気軽な飲み方がとても魅力的なんだ。それに、あなたが言ったように、本当にあまり取り上げられていないから、その点も面白いと思うよ。
WM:ウイスキードリンカーの年齢層が変わりつつあり、ウイスキーの人気も世界的に拡大していますから、ヘイグ・クラブにとってはいいタイミングのような気がします。このブランドが世界中に展開するところを目にするのは胸が躍るようなことでしょうね。
DB:その通り。この2年間、ヘイグ・クラブのことであちこち、 特にアジア方面を旅をしたけど…本当に嬉しくなるほどウイスキーに関心が集まっている。ディアジオ社とヘイグのサポートチームはウイスキーを知り尽くしていて、僕の方は、何かに自分の名前を与えて世に送り出すなんてことは初めてだったから、いい協力関係にある。もちろんビジネスなんだけど、個人的にもすごくエキサイティングだよ。
WM:ヘイグ・クラブの特徴がどのようにして決められたのか、あなたの考えを知りたいと皆願っていると思います。マスターディスティラーのクリス・クラークと密接に連携して決定されたのですか?
DB:ええ。何よりも自分の名前をつけるからには、僕が本当に好きなものでなければならなかった。およそ1年半前にスコットランドでクリスや彼のチームと初めて話し合ったとき、僕が好む味と香り、そしていくつかのウイスキーのテイスティングをした感想について話した。それからいろいろなタイプの原酒を使ってあのフレーバーが構築されるところを目にするのはとても感動的だった。ああいったフレーバーがどこから来るのか、もっと知りたいと思ったよ。
そのスピリッツはディアジオ社のキャメロンブリッジ蒸溜所(1824年創設、ヘイグの故郷のような存在であり、1826年にスコットランドで初めてカラムスティルを使ってグレーンウイスキーを蒸溜したところ)で蒸溜され、ヘイグ・クラブの軽めでバターのような特徴的な香りは、全てフレーバーが顕著に異なる3種類の樽の原酒が醸し出している。
ファーストフィルバーボン樽熟成の原酒を配合することで、豊かでより粘り気のある口当たりが生まれる。その背後ではリフィルカスク熟成の原酒が快い刺激をもたらし、それに並んで再生カスク(業界全体でオーク樽の不足が続いているため、ディアジオ社が大きく重点を置いているもの)由来のスパイスとはっきりしたタンニン性の香りが加わる。
ヘイグ・クラブは熟成年数を明確に表示していないが、十分にバランスのとれた若々しい香りなので、この個性をつくり上げることはクリス・クラークと彼のチームにとって実に大変だったろう。
【後半に続く】