ブレンディングの科学【その3・全4回】

May 19, 2014

ブレンディングの謎に迫る連載第三弾。今回はブレンデッドウイスキーをつくる際の指針とグレーンウイスキーの役割について。

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ジョニー・ウォーカーのマスターブレンダー、ジム・ベバリッジ博士は、創業者らがつけていた最初のブレンディングの記録をどのように使い続けたかについて、「 ウイスキーや最終品質に関する判断を行うための基準です」と説明した。
「しかし、あらかじめ何年も前からストックを確保する計画を立て、原酒をどのように使うかも予想しなければなりませんから、ブレンディングはより精緻な仕事になっています」と続ける。
超高級ウイスキーの市場が発展し続けるにつれて、熟成ストックの重要性も大きくなるだろう – アジア地域で大きな成功を収めているシーバス・ブラザーズ社の「ロイヤル・サルート」ブランドで見られる傾向だ。その標準ラインナップには「38 年 ストーン・オブ・ディスティニー」が含まれ、「トリビュート・トゥ・オナー」のような豪華な限定版には大幅に熟成年数の長い原酒も使用されている。これらの豪華な フラグシップアイテムには10万ポンド以上の小売価格が付けられるが、単に豪華さをアピールするためではない。「ジョニー・ウォーカー ダイヤモンド・ジュビリー 」も、既に相当数が売れたという確証がある。

ジョニー・ウォーカーベルJ&Bウインザーなど、ディアジオ社では様々なブレンドウイスキーのスタイルが大切に守られている。多様性はブランド価値にとっても、消費者の期待に応えるためにも不可欠な故に尊重されているが、ブレンディングチームにしてみれば「挑戦と発展のチャンス」でもある。

それで私はジム・ベバリッジ博士に、ハウススタイルに忠実な新製品をどのようにして開発するのかと尋ねた。するとここでもジョニー・ウォーカーが引合いに出され、レッドとブラックを「家族のDNAを受け継いでいる2本の柱」と評した。興味深いことに、彼もマシュー・クロウ博士も、新製品は「それを飲むシチュエーション」を基準にして開発されると主張した 。私が考えていたような製品の階級や価格帯ではなく、消費者がその製品をどのように楽しむことになるかという予測に基づくのだと。

二人が一貫して語ったのは慣例、消費、シチュエーション、用途についてであって、価格やマージン、あるいはブランドの位置についてではなかった。

「私たちの仕事は、シチュエーションに合った最高のウイスキーを作ることです」と彼らは断言する。新製品リリースの依頼を受け、その概要説明を受けると、彼らは「そのウイスキーはこのシチュエーションでこの消費者にとってどうあるべきなのか?」と尋ねる。その答えを得て初めて、膨大なウイスキーの在庫を調べ始め、「それにはどうブレンドすれば良いだろう?」と考えるのだ。

話題はグレーンウイスキーに移った。ここでもジム博士はきっぱりと明快だった。
グレーンウイスキーはシングルモルトの風味を引き出します。甘さをもたらすことももちろんですが、モルトと共に影響しあって重要な役割を果たします。 素晴らしいブレンデッドウイスキーには素晴らしいグレーンウイスキーが不可欠です」

歴史的に、グレーンウイスキーは低コストの混ぜ物として使用されてきたかもしれない 。バーナードは「一級のブレンドに使用できるグレーンウイスキーは3、4種しかない」と忠告し、「グレーンスピリッツを大量に使って、消費者に損害を与えている」と、知識に乏しい19世紀のブレンダーの一部を批判した。
しかし現在では、とっくに良質なグレーンウイスキーの使用を高く評価するように変わっている。十分な知識と技術をもって上手く使用されたグレーンウイスキーは、複数のモルト原酒をひとつにまとめるだけでなく、それぞれの風味を引き出す触媒として働き、独特な甘い香りを加えている。

疑いをお持ちであれば、コンパスボックス社の「ヘドニズム」のようなウイスキーの成功を考えてみて欲しい。これは年に1、2 回、 コンパスボックスのチームが稀少なオールドカスクを入手できたときにのみリリースされるだけかもしれない。しかしその豊かで甘く、クリーミーな味は、優れたグレーンウイスキーがブレンディングにどのような魔法をもたらすかを実に劇的に証明している。

【その4に続く】

コラム:香水

私の新しいコロン、アンジェラ・フランダース・パフューマーの「アクア・アルバ」をどう思うか妻に聞いたときのことだ。「チャーリー・マクリーンみたいな匂いね」と彼女は言った。私が期待した反応とは少々違っていた。

私たちが著名なウイスキー評論家であるチャーリー・マクリーンを訪ねたばかりで、おそらく彼も同じような流行り物を手に入れているだろうと考えれば、さほど驚くにはあたらない。そしておそらくは彼も、「アクア・アルバ」をつけていた − それが分かるほど近くには寄らなかったが。

この香水ブランド創始者のアンジェラは、ロンドンのイーストエンドがトレンディになる前から、その中でもとりわけトレンディな場所で香水を作ってきた。
「アクア・アルバ」(「スコットランドの水」の意味)は、ジム・ベバリッジ博士との仕事で着想を得たものだった。実に甘い香りの香水で、基調(アンダートーン)は土と木、微かなピートも潜んでいる。

一流の香水を作るための鍛錬は、ウイスキーブレンダーの鍛錬とそれほど変わらないと思い至らせてくれる香水だ。何年もの経験、試行錯誤、研究が、「長く続く消費者の支援」と「一時的なブーム」との違いを生む微妙な組合せにつながる。

アンジェラはこう説明した。
「ウイスキーの香りの香水を作ることもできたでしょうけど、それを欲しがる人がいるかしら? 私はスコットランドのハイランドと島々の雰囲気のエッセンスを表現しようと思ったの」

それは見事に成功し、私の心をとらえた … そしてどうやらチャーリー・マクリーンの心も。

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