Lost Distilleries―セント・マグダレン

November 7, 2013

ディスティラーズ・カンパニー・リミテッド(DCL)の創立時につくられ今もウイスキーファンを夢中にさせる蒸溜所のひとつについてその歴史を語る

Report:ガヴィン・D・スミス

 シングルモルト界の中では「地味なウイスキー」と思われていたローランドの蒸溜所が、ここ数年でちょっとした復活を実現させた。ファイフで操業するダフトミル蒸溜所を補完して、セント・アンドリュースに近いキングズバーンズで新しい小規模のベンチャーが生まれることになっている。ダムフリーズの近くの旧アナンデール蒸溜所を再興する計画も進行している。したがって、今は「失われたローランドの蒸溜所」のひとつ、セント・マグダレン(マグデラン)蒸溜所に注意を向けるのに適当な時期だろう。
この蒸溜所は、歴史的にも有名なウエストロージアン自治都市であったリンリスゴーに位置していた。エディンバラから西へ20数マイルのところにある、スコットランドのメアリー女王の生誕地である。セント・マグダレン蒸溜所が建設された敷地には歴史があり、古くは12世紀ごろにトーフィケンの聖ヨハネ・テンプル騎士団からの援助を受けてハンセン氏病の隔離病院が運営され、その後、修道院となった。18世紀までにリンリスゴーは酒の醸造、蒸溜の中心地として有名になり、最終的には認可を得た5つの蒸溜所を擁するに至った。
最初の蒸溜所は1750年代の創立のバルジオン蒸溜所、そして1795年のボニートゥーンが続いた。その2年後、セント・マグダレンが蒸溜許可を得た。ユニオン運河付近の土地に位置していたので原材料の入手も、スピリッツを詰めたカスクの運搬も容易だった。また蒸溜所は幹線道路にも面していて、最終的には蒸溜所用の鉄道引込線まで有することになった。ボニートゥーンを創立したアダム・ドーンソンは、1800年に隣のセント・マグダレンをその創立者セバスチャン・ヘンダーソンから購入し、ふたつの蒸溜所の操業を統合し、大型蒸溜所ともいえるまでの規模にした。
蒸溜所史家のアルフレッド・バーナードは、1880年代にセント・マグダレンを訪れて約20万ガロンの年間生産高があると記録した。これは同じローランドの蒸溜所のグレンキンチーの約3倍、ローズバンクの約2倍にあたった。当時のセント・マグダレンが重要なローランド・モルト・ウイスキーの蒸溜所であったことは明白である。現代的観点から見ると興味深いことに、バーナードは「…非常に古いウイスキー…1875と1877と焼印を押された、たくさんのカスクを見た」と貯蔵庫にあった樽の説明を記載している。実際、2組の「非常に古いウイスキー」の古い方でも当時ではほんの11年モノだっただろう。バーナードが訪れたときにセント・マグダレンを所有していたドーソン一族は1912年まで蒸溜所を操業していたが、この年にA&Jドーソン有限会社は破産。その同じ年に貪欲なディスティラーズ・カンパニー・リミテッド(DCL)が蒸溜所を買収したことを知っても、熱心なWMJ読者は驚かないだろう。1915年、セント・マグダレンはDCLの子会社であるスコティッシュ・モルト・ディスティラーズ(SMD)がその創立当初から所有した5つの蒸溜所のひとつになった。他の蒸溜所は(ラナークシャーのウィショウにある)クライスデールグレンキンチー、(ファイフのバーンティスランドにある)グランジ、そしてローズバンクである。

セント・マグダレンはDCL帝国のなかでは目立たない蒸溜所のひとつだった。つくられたほとんど全てのウイスキーはブレンド用の樽に送られる運命にあり、1980年代、DCLの合理化計画が始まると、セント・マグダレンは生産過剰の蒸溜所と見なされた。

この蒸溜所は町の中の一角に位置し、比較的周囲を閉ざされていたので拡張の可能性はなく、払い下げたり、再開発した方が重要な価値を得られた。加えて、ブレンデッド・ウイスキーのマーケットはローランド・モルトを比較的少量しか必要とせず、DCL自体は、ローランドの蒸溜所としてグレンキンチーローズバンクの操業を継続させた。

1980年代に閉鎖された多くの蒸溜所は、再開発計画により完全に建物が取り壊されているのだが、セント・マグダレンの主要な部分は住居として生き延び、チャールズ・ドイグ設計のモルト・キルン・パゴダは、その地の過去をはっきり記憶するものとして今も存在している。

閉鎖されてから30年を経たが、セント・マグダレンのシングルモルトは見つけるのがそれほど困難ではなく、うまく熟成したという評価をも得ている。

3つの23年エクスプレッションがディアジオ社からレアモルト・シリーズとして販売され、その後は、19年として発売された1979年、2004年にはスペシャル・リリース・プログラムの一環として30年の「リンリスゴー」を売り出した。

近年ではベリー・ブラザーズ&ラッド、ダグラスレイン、スコティッシュ・リキュール・センター、そして、シグナトリーが出している1982年のシングルカスク・ボトリング、ゴードン&マクファイルは、「レアオールド」にラインアップされている1975年のボトリングを売り出している。

カテゴリ: Archive, 蒸溜所