ウイスキー新勢力【5. 英国湖水地方 前半/全2回】

April 21, 2015

世界各地から聞こえてくる、新しい蒸溜所の息吹。今回はイングランドの北西部、湖水地方で動き始めたレイクス蒸溜所を全2回にわたってレポートする。

ピーターラビットの故郷として知られるイングランド北西端のカンブリア州湖水地方にあるラングデール渓谷。19世紀には、農業とスレート採石をしていたランティ・スリーという男が、地元では評判の密造ウイスキーをつくっていた。
それ以降、残念なことにこの辺りには蒸溜所と言えそうなものはひとつも現れなかった…そう、これまでは。
昨年12月、コッカーマスの町から10kmほど東、バッセンスウェイト湖の近くに位置するレイクス 蒸溜所で、スチルから初めてのスピリッツが流れた。蒸溜所のマネージングディレクター、ポール・カリーの構想から生まれた事業だ。

彼はかつてシーバス・ブラザーズのマネージングディレクターだったハロルド・カリーの息子だ。同社を退職後したハロルドがアラン 蒸溜所を創設した際には、アンドリューと共に兄弟で協力した。
「家族で湖水地方に休暇に来ていたんですが、その時ここは蒸溜所があって然るべき場所だと思いました」とポール・カリーは振り返る。「しかし蒸溜所建設にふさわしい場所を見つけるのに1年かかりました。新たに大きな建築物を建てる許可は降りそうになかったので、すでに出来上がっている建物で、しかも売りに出されているという『適切な』場所を見つけなければなりませんでした」
その場所は、1850年代ビクトリア朝スタイルの農場だった。酪農に使われていた後に数年間放置された状態だったため、建物を蒸溜所に造りかえるための建設作業が2014年3月に始まった。
「美しい場所で、個性的な素晴らしい建物でした。それに北部湖水地方を東から西に走るA66号線から2km足らずという立地も最高です」と、カリーは言う。蒸溜所の水源はバッセンスウェイト湖に流れ込むダーウェント川の支流、スプリンクリング・ターンだ。

当初からウイスキーだけでなく、ジンやウォッカの生産をするというプランがあった。それに加え、旅行者に人気の高い湖水地方という地域性を利用して、ビジター施設を充実させ収入を得るという計画を立てた。
そのため、年間10万人のビジターという野心的な目標の元、100人を収容できる高級ビストロを備えた贅沢なビジターセンターとショップが建築計画に組み込まれた。個人投資家15人と助成金や銀行融資から、600万ポンドの事業資金が集められた。

カリーはアラン蒸溜所を開発する際に初めて使った昔のアイデアも再び持ち込み、一般の人々に「ファウンダーズ・クラブ(創設者クラブ)」のメンバーになる機会を提供した。595ポンドの出資でメンバーになると、特別なレイクス蒸溜所シングルモルトを毎年1本、10年間にわたって受け取ることができる。
さらに、愛好家向けの「コニサーズ・クラブ(鑑定家クラブ)」もある。60人限定で1万2,000ポンドという高級なメンバーズクラブだ。このメンバー(「コニサー(鑑定家)」)になると自分だけのレイクス・シングルモルトの樽が持てるほか、さまざまなディナーやテイスティングなどのイベントに参加する資格が与えられる。コニサーズ・クラブ専用のメンバーズルームが敷地内貯蔵庫の隣に設けられ、貯蔵庫に面した窓からは熟成中の樽の列を望むことができる。(大規模な貯蔵庫は近くのコッカーマスに確保してある)。
現在コニサーズ専用の最初の樽60個分がシェリーカスクに徐々に樽詰めされている。
ポール・カリーによると「ファウンダーズ・クラブもコニサーズ・クラブも、春までには完売する見込みです。売れ行きは好調ですよ、特に今はニューポット・スピリッツが生産されているのが目に見えますからね」。

スタイルとしては、カリーはその原酒を「軽く、フルーティで、飲みやすいシングルモルト」と描写し、そのようなスタイルにするために発酵を特に長くしている。
蒸溜装置の多くはバートン・オン・トレント近くの有名な醸造所部品メーカー、ムスク社製だが、一対のスチルはフォーサイス社製だ。そのスチルはそれぞれに銅製とステンレス製両方のコンデンサーが付いていて、常にどちらでも使えるという珍しい特徴を持つ。
「ステンレスのコンデンサーを使用したものはよりヘビーな原酒になるはずですから、その一部と軽めの原酒をバッティングするという方法も考えています」とカリーは言う。
「現時点では全て理論上の話です。それぞれのスチルには‘マンドア(点検口)’に透明なガラスの円形パネルがはまっていて、中の様子が見えるようになっています。このようなタイプはこれだけですよ」
「1月初旬にフル生産を始めましたが、毎週5〜6回マッシングして毎年12〜13万リットル生産する予定です。発酵時間を短くすれば24万リットル生産でき、異なるフレーバーの原酒を生み出せる可能性も加味して、そうするかもしれません。特注品のジン・スチルもあって、レイクス ・ウォッカレイクス ・ジンをつくっています」

【後半に続く】

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